ご夫婦で一緒に仕事をしている“夫婦ユニット”を紹介している本連載。今回は11万人以上のフォロワーを持つインスタグラムで、「コーヒーのある心地よい暮らし」を発信しているユニット、刈込隆二(かりこみ・りゅうじ)さんと、弓庭暢香(ゆば・のぶか)さんにお話を聞きました。

〈cafenoma(カフェノマ)〉の夫婦ユニット三ヶ条
一つ:意見の相違は「メモをとって客観的に対処する」こと。
二つ:それぞれ脳の使い方は違う「相手の立場に立って考えてみる」こと。
三つ:“個人事業主同士”のユニット「相手の領域には入らない」こと。

刈込さんによると「半分趣味で半分仕事につながればという思いで、ふわふわっと始めた」というインスタグラム。気づけば世界中の人たちから注目を集めるほどのソーシャルメディアになっていました。仕事の仕方、物事を考える視点やペースなど、正反対の暮らし方をしてきた2人が選んだ夫婦ユニットとは、いったいどんなカタチなのでしょうか?

真逆の暮らしだったユニット結成前

-ほぼ結婚と同時に夫婦ユニットをスタートしたそうですが、互いのペースの違いに最初はびっくりすることが多かったのだとか?

刈込隆二さん(以下、刈込):僕は長い間フリーランスで仕事をしてきたので、24時間、仕事のことを考えるのが当たり前の生活でした。そもそも好きなことを仕事にしているので、仕事とプライベートという切り分けがないんです。好きな時に休むし、逆に世間では休日の土日に仕事をしたりもする。曜日の感覚もあまりなくて、毎日昼寝をしたり(笑)、自由に時間を使ってきました。

弓庭暢香さん(以下、弓庭):仕事の合間に昼寝をする大人を見たことがなかったので、最初はびっくりしましたね。私は逆にタイムスケジュールがきっちりと決められている世界で働いてきたので、仕事は仕事、プライベートはプライベートという時間の使い方をしてきました。

刈込:彼女は僕との生活のギャップに、今でも戸惑っている部分があると思います。時間の使い方もそうですけど、仕事の仕方も真逆ですからね。

弓庭:約20年の間、大きな企業の中でものすごい量のマニュアルに従って仕事をしてきたのに、夫婦ユニットとして仕事を始めた途端、いきなりマニュアルはゼロ(笑)。

刈込:cafenomaは、自分たちの好きなことを好きなようにやるのがコンセプトなのでルールがないんです。

弓庭:何をどうしていいのやら、かなり戸惑いました。

刈込:僕らは性格的にも真逆な部分があって、彼女は石橋を叩いて渡る慎重派。納得できないものは絶対に世に出したくない。僕は完成度が7、8割でも、「とりあえず試してしまえ」と世に出してしまうタイプ。

弓庭:最初はペースを合わせるのも大変でしたね。

妻の“審美眼”がユニット結成の決め手

刈込:そんな感じでお互いにびっくりすることだらけではあったけど、夫婦ユニットでやっていこうと思えた最大の理由は、彼女の好き嫌いのジャッジでした。彼女にはグレーゾーンがないんです。

弓庭:基本的に物に対して “好き”か“嫌い”のどっちかしかありません。それが私にとっては当たり前のことなんだけど、彼からすると新鮮だったようです。

刈込:これって意外に珍しいですよね。僕は好きが1、嫌いが1、どうでもいいが8というタイプだけど、彼女は好きが5、嫌いが5で、こだわりが半端じゃない。

弓庭:私からしたら、「好きでも嫌いでもない」という感覚のほうが不思議なんですけどね。

刈込:「cafenomaにはルールがない」と言いましたけど、そもそも僕の趣味であるカメラと、彼女の趣味であるコーヒーやコーヒー道具を組み合わせて何かをしようという考えはありました。

弓庭:それで、私がコーヒータイムや朝食などをスタイリングし、彼が写真を撮って、インスタグラムなどのSNSに投稿し始めたんですが、やっていくうちに私たちが発信しているのは、“コーヒー” や“道具”という“物”ではなく、“コーヒーのある暮らし”という、“空間”がテーマなんだと、だんだん焦点が定まっていった感じです。

刈込:彼女のこだわりを生かして、物のセレクトは100%彼女に一任しようと思いました。彼女となら迷いなくできるんじゃないかと。そして、2人で“空間”を作り上げていく。つまり、彼女のセンスなしにcafenomaは成立しないし、僕は彼女のセンスを100%信頼しています。

弓庭:それはお互いさまですけどね。私は一切写真を撮らないし、WebやSNSもわからないので。そこは完全に彼に委ねています。

ペースの違いも楽しみながら、少しずつ前進

-インスタグラムに最初の投稿をしてから約4年、お互いのペースは合ってきましたか?

弓庭:いまだ彼のペースに合わせるのは大変だし、対応の仕方も手探り状態ですね(笑)。つねに頭はフル回転ですけど、充実していて楽しい毎日です。

刈込:夫婦で仕事をしているとどうしても生活にメリハリがなくなります。僕はずっとそんな感じで暮らしてきたので、24時間仕事のことを考えていても苦ではないけど、彼女はたまにはゆっくりしたいという気持ちがあると思いますよ。

弓庭:そうですね、たまにはね(笑)。2015年に著書を出版してから、いろいろな方々に声をかけていただくようになって、少しずつcafenomaの仕事も増えています。だから、今は頑張らないといけない時期。とはいえ大きな仕事が終わった後は、ちょっとゆっくりしたいなとは思いますね。

刈込:その大きな仕事の打ち上げ的な食事会でも、僕の頭は次の企画に向かってしまうんです。もっともっと上を目指したいので、つい「頑張ろうよ」と自分の尻も叩きつつ、彼女にもはっぱをかけてしまう。

弓庭:一段落して私の頭の中はふわっとしているのに、彼の頭の中では新しいことが始まっていて、次の仕事のアイデアを話し始めるんです。やっぱり、そういう時はまだついていくのが大変ですね。

刈込:cafenomaはゆったりした時間を提供するのがコンセプトなので、見える部分はふわっとした感じですけど、水面下ではものすごいスピードで動いています(笑)。実際、ふわっとだけでは生きてはいけませんからね。

弓庭:確かに。でも、そんな忙しい日々の中で、10分でも15分でもいいから、コーヒーを飲んでほっと一息つける時間を設けてほしい。私たちの活動がそのヒントになればうれしいなと思います。

(塚本佳子)