日本電産 永守重信社長(写真=gettyimages/Bloomberg)

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■活発な会議でなければ意味がない

私が再建指揮を命じられた日本電産シバウラで、再建が始まって数カ月が経った頃に開いた、全社員集めての研修会での出来事です。

永守重信社長は、日本電産が買収したすべての会社を、1社あたり年数回ほど回って、このような全社員参加の研修会を開催しておられました。再建にあたっては、その再建の成否を決めるのは従業員の意識改革の進展いかんですから、年間のすべての休日をグループ企業の社員研修にあてて、スピードと徹底の企業文化の形成に努められるわけです。

当時は、プロジェクターなどはなく、OHP(オーバーヘッドプロジェクター)でしたが、そこで使う原稿はすべて永守社長の自製でした。通常の会社によくあるような、企画部門の秀才が作成したようなものではありません。内容も各社の状況に合わせてすべて異なっています。

それだけ気合いのこもった原稿をもとにした1時間ほどの講話が終わり、司会進行役が、「では、どなたか質問は?」と会場に呼びかけます。ところが、そう言われた途端、皆が下を向いてしまって、押し黙ったまま。誰も質問したり、意見を述べたりしようとしません。会場に気まずい空気が漂います。

「他のグループ会社は、はい、はいと、どんどん手が挙がるぞ。そういう会社にならなければダメだ。会議でも研修でも活発なものでなければ、あかん」

そういう言葉を残して、永守社長は、次の目的地に向かわれました。その後も、会議のたびに、「自分の自慢話をしろ」「自慢話が飛び交うような会議にしろ」ということは、しばしば口にされていました。

■社員が発言できるような仕掛けを考える

会議の場面で、「出る杭は打たれるから、発言するのは止めておこう」とか、「ここは社内のヒエラルキーを考慮して、意見や異議を挟むのは控えておこう」とか、「こういう場では目立たない人間のほうが出世している。自分からは動かず様子を見ておこう」、といった空気が会議を支配している会社は、けっして自慢話が自然体で出ることにはなりません。

しかし、「自慢話が飛び交う」状態を人工的につくったり、“サクラ”を置いてやっても、何もなりませんし、第一、そういうものは従業員の「御見通し」になりますから、意味のないことになります。

では、自慢話が自然体で出るようにするのはどうすればいいのか。私はこんな策を考えました。永守社長が臨席される月1回の全管理職出席の経営会議には、「変化点」と名づけて、定例の報告事項に必ず前月との変化点、すなわち、改善点を付け加えて報告しなければならないルールを設定したのです。

また、工場長が永守社長を工場案内する場合は、改善箇所以外は案内してはならないというルールも設定しました。1カ月間で工場内に前回よりも改善箇所がなければ、案内できないという状況に追い込むわけです。

このように、社員が発言しやすいような仕掛けを導入することで、会社の風土は変わっていきます。徐々に自部署の改善点を言い合う風土が生まれ、そういう風土が一旦生まれると、次は自然体で、けれんみなく、自慢話を会議で披露する若手の管理職がようやく生まれるようになりました。

永守社長は、普段から部課長に対しては、「自分のポストを脅かす部下を育てろ!」というのが口癖ですから、湿った社内風土は大嫌い。また自ら自認する成長論者ですから、営業部門に対しても市場シェアトップを追求させ、「1番以外は皆ビリ、2番というのは1番の次ではない」ということを、常に周囲に認識させておられますので、外向き志向の企業づくりを、再建にあたっても要求されます。

だからこそ、質問も出ないような問題意識のない、活力のない、内側が湿った風土では、外に向かって伸びるような1番手企業はつくれない。だから、「会議も自慢話で持ちきりになるぐらいにせよ!」と叱咤激励されるわけです。

※本記事は書籍『日本電産永守重信社長からのファクス42枚』(川勝宣昭著)からの抜粋です。

(経営コンサルタント 川勝宣昭=文)