不確実な時代、何があってもおかしくない

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 日本を取り巻く国際環境が新たなステージに入りつつある。米中露との外交政策を連立方程式で解いた場合、どんな社会が訪れるのか。思想史研究者の片山杜秀氏が未来予想図を描いた。

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 未来の日本へようこそ!  ここは北海道です。ロシア人の姿が目立つでしょう。実は北海道には多くのロシア軍基地があります。日露安全保障条約が結ばれてそうなりました。

 それを結んだとき、北方四島はついに返還されました。あのときの提灯行列は凄かった。一時期の北海道は極端な過疎化が進み、札幌都市圏以外はインフラを保つことさえ危うくなりましたが、今では基地のおかげもあって全道が潤っています。ロシア側の要望とかなりの費用負担のおかげで鉄道網も復活し、総路線キロ数は二十世紀の旧国鉄時代を凌いでいます。

 では次に沖縄に行ってみましょう。中国人の姿が目立ちますね。沖縄は中国軍基地だらけなのです。日中安保条約が結ばれていますから。大陸や台湾とは海路や空路で密接につながっています。

 えっ、日米安保条約はどうなったかですって。あります。いったん廃棄され、新たな内容で結び直しました。本州には米軍基地が集中しています。

 ここに至るまでは長い紆余曲折がありました。グローバリズムの時代はトランプ大統領の誕生後に急速に終焉し、世界はハッキリとブロック化に向かいました。1929年の世界大恐慌のあと、1930年代には世界の住み分けが叫ばれたでしょう。北アフリカや西アジアにも及ぶ欧州ブロック、ソ連のブロック、アメリカ主導の北米と中南米と東太平洋のブロック、そして日本が主役で西太平洋からインドまでも含む「大東亜共栄圏」。四大ブロックの構想ですね。未完に終わりましたが。

 あれと似たものが21世紀の世界に形成されてゆきました。アメリカ・ブロック、ロシア・ブロック、中国ブロック、そしてイラン・ブロックです。欧州はロシアに、東南アジアは中国に組み込まれ、イスラム圏ではイランが覇権国家になりました。アフリカは各ブロックから収奪されっぱなしで、世界に天然資源と労働力を提供しています。

 このような四大ブロックが形成されてゆく中で、日本の選択には試行錯誤がありました。日米同盟に固執する勢力も強かったのです。しかしアメリカ側の腰がひけてゆきました。代わりに入り込もうとしてきたのは中国とロシアです。

 これはもう日本の地政学的宿命でしょう。日清戦争、日露戦争、日中戦争、日米戦争。中国ともロシアともアメリカとも国家の存廃をかけて正面から戦争した国は、世界広しといえども日本だけでしょう。別に日本が好戦的であったとは思いません。ロシアと中国とアメリカにはさまれたところに日本列島があるのですから。

 日本が広がろうとしても、向こうが出っ張ろうとしても、ぶつからざるを得なかったのです。

 そのあげくのはてに日米戦争で派手に敗れてしまったあとは、圧倒的軍事力を誇るアメリカの「核の傘」の下に入り、アメリカ軍を国内に駐留させました。そうやって「長い平和と繁栄」を手にしました。が、アメリカが陰れば、中国とロシアの脅威が増すのは当たり前でしょう。

 そこで日本はどうしたか。まず抬頭したのは自主防衛論でした。核武装で国の平和と独立を守ろう。そう唱えた政党が総選挙で勝利しました。しかし、日米安保条約を廃棄して、アメリカとロシアと中国の谷間で軍事大国化を達成しようとするのは無理筋でした。仮想敵国が米中露全部では、どんなに武装しても追いつきません。おまけに少子高齢化が進み、人口も経済も縮小する一方。お金も無くなってきました。

 自主独立路線の政党が軍事大国化の公約を果たせず支持を失ったあとを襲ったのは、米中露の全部と緊密に連携しての平和構築を目指す政党でした。現在の政権与党です。

 アメリカと中国とロシアの各ブロックのこすれあう場所に日本があって、どのブロックも安全保障上、日本を取り込めればそれに越したことはない。アメリカも以前ほど仲良くしてくれないとはいえ、日本と手をきりたいわけではない。だったら米中露全部と安保条約を結んでしまえばよい。

 無茶苦茶とも思われました。しかし3つの大国は乗ってきたのです。どの国も自らの生存圏を守りたいだけで、もはや世界制覇の野望を持っていません。3つのブロックの角突き合わすほとんど唯一の場所と言える日本で軍事的均衡を保つのが、3つのブロックの平和的共存の意思を世界に伝えるメッセージにもなる。

 そこで日本は各国と安保条約を結び、ロシアには北海道での、アメリカには東北と中国地方を除く本州での、中国には九州と沖縄での軍隊駐留を認め、東北と中国地方と四国を緩衝地帯としました。3つのブロックは日本の国土では決して矛を交えないという文言も条約に明記されております。

 かくして3つのブロックは、日本での均衡と平和を守れば各ブロックの安全性も高度に確認され続けるという、安保体制を構築するに至りました。

 おかげで世界はずっと平和です。憲法第9条を理想的に実現しているというので、歴代の日本国総理はこのところみんなノーベル平和賞を貰っています。産業立国を諦めて観光と教育に徹した「新思考成長戦略」も成功しています。地域に分けてロシア語と英語と中国語を日本語と並ぶ公用語にし、語学教育も徹底しているので、多くの日本人が3つのブロックに出て行って仕事をし、そこからの送金もこの国を支えてくれています。

 この不思議な安保体制が崩壊し、米中露が日本国内で限定戦争を始めて日本が2010年代のシリアのようになると心配する向きもありますが……。自衛隊もがんばっていますし、平和の続くことを祈るばかりです。未来の日本からお伝えしました。
(*以上はすべて筆者の空想に基づくもので、現実のいかなる物事とも関係のないことをお断りします)

※SAPIO2017年2月号