サルは「哲学」していた!

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「真の英知は、自分が無知であることを知ることである」。古代ギリシャの哲人ソクラテスの名言が指摘するように、哲学の基本は自分自身を知ることだが、サルもそれをやっていることがわかった。

順天堂大学と東京大学の合同チームが、サルが自分の記憶や知識がどの程度正しいか客観的に判断する力を持っているという研究をまとめ、米科学誌「サイエンス」(電子版)の2017年1月13日号に発表した。

「忘れた」ことを覚えている高度な記憶力

順天堂大学などの発表資料によると、研究チームは、人間だけが持つ能力と思われていた「メタ記憶」がサルにもあることを突きとめた。「メタ記憶」とは英語の「meta」(〜を超える)からきた心理学の用語で、「記憶についての記憶」と呼ばれる、普通の記憶力より高い能力だ。たとえば、前に覚えたはずの数式を思い出せないとしよう。たとえ忘れても、自分の中に数式を覚えたという記憶があり、認識していることを「メタ記憶」という。単に物事を覚えるだけでなく、何を記憶し、何を忘れているか、自分の記憶の状態をしっかり把握し客観的に評価できる能力だ。いわば、自分の「無知」を知っていることになる。メタ記憶があると学習が深まる。自分は何がわかっていないか知っており、欠けているものを補えるからだ。

研究チームは、ニホンザルの仲間のマカクサルに4枚の図形を覚えさせ、メタ記憶があるかどうか調べた。画面に様々図形を出し、覚えている図形と合っているかどうか当てさせた。その際、回答に対し自分が自信を持っている場合はピンクのレバーを押し、正解ならジュースをたくさん与え、不正解ならまったく与えない。一方、自信がない場合は黄緑のレバーを押し、正解・不正解にかかわらずジュースをほんの少し与えるようにした。

正解すると多くの報酬が得られるが、不正解ならもらえない「高リスク」選択肢と、報酬は少ないが不正解でも報酬を得られる「低リスク」選択肢の2つをサルに選ばせた。すると、実際に正解したサルの約7割は「高リスク」選択肢を選んだ。サルもメタ記憶に基づき、自分の記憶に自信がある場合には、多くの報酬を得られる選択肢を選ぶことが分かった。

記憶障害の患者の治療に役立つ大発見

また、実験中のサルの脳を「fMRI法」(磁気共鳴画像法)を使い、脳の血流反応を調べると、メタ記憶を発揮している時は、背外側前頭葉9野という部位が活発に働いていることがわかった。そこで、この部位に脳活動を抑える薬剤を微量投入すると、普通の記憶力は変わらないが、「メタ記憶」を使うことが抑えられた。この部位の脳神経ネットワークがメタ記憶に関係していることが世界で初めて確認できた。

研究チームの宮下保司・順天堂大学特任教授らは、発表資料の中で、「人間以外の動物もメタ記憶を持っていることを発見できました。しかも、脳のどの部位がメタ記憶に関係しているかは、人間の実験では複雑すぎて分かりませんでしたが、世界で初めて同定することができました。今後、記憶障害の患者の診断や治療法の開発に貢献することが期待できます」とコメントしている。