■小林可夢偉インタビュー@前編

 2016年12月2日、小林可夢偉はオーストリアのウィーンにいた。13世紀に建築された豪華絢爛なホーフブルク宮殿の広間で、慣れないタキシードを着て待つこと6時間。FIA年間表彰式の壇上に立ち、WEC(世界耐久選手権)ドライバーズランキング3位の表彰を受けた。

「FIA表彰式に出席したのは初めてです。ものすごく豪華で世界中から人が集まってるし、今まで行ったなかで一番デカいパーティやったし、ちょっとビックリしました」

 会場では5日前にF1の王座を獲得したばかりのニコ・ロズベルグが突然の引退を表明し、驚きに包まれていた。しかし、F1の表彰が行なわれているころ、可夢偉は会場の外にいた。あまりの長時間に及ぶパーティで、じっとしていられなくなってしまったからだ。

「午後6時くらいに始まって、下位カテゴリーからず〜っと順番に表彰していくから、めちゃくちゃ時間がかかるんですよ。『これ、いつになったら終わんのやろ?』っていう感じで。WECはかなり最後のほうの表彰やったんですけど、終わったのは結局12時半くらいでしたからね。ずっとタキシード着たままで6時間ですよ、ヤバいでしょ?(苦笑) 次の日は朝の4時過ぎに出発して、滞在時間よりも飛行機に乗ってる時間のほうが長いし、ヘロヘロで日本に帰ってきましたよ」

 豪華なパーティで表彰されても、可夢偉は1年を振り返って感慨にふけるような気持ちにはならなかった。勝者にならなければ意味がないということを、嫌というほど痛感させられたからだ。

「3位やったからね。下位カテゴリーはチャンピオンしか表彰されなくて、WECあたりからは3位まで表彰されるんですけど、扱いが『はい出て、はい戻って!』みたいな感じやったし、テーブルも2位・3位は同じテーブルで、チャンピオンだけがメインのテーブルに座れるんです。僕らは"冷やかし"みたいなもんです」

 そう言って可夢偉は苦笑いした。

 ウィーンから日本に飛んで帰り、翌日には筑波サーキットでスーパーフォーミュラのステアリングを握り、昨年に続いてコースレコードを更新するタイムアタックに挑戦してファンを大いに沸かせた。その翌日、可夢偉はさすがに疲れた様子で、少し時間に遅れて待ち合わせの場所へと現れた。

 まさに、可夢偉の2016年を象徴するかのような数日間だった。日本では全7戦のスーパーフォーミュラに参戦しながら、全9戦のWECに参戦して世界各地を飛び回ってきた。

 WECでは地元・富士スピードウェイで巧みなタイヤマネージメントを見せ、ポルシェ優勢のなかで勝利を掴み獲る立役者となった。そして、最終戦までタイトル争いを繰り広げてみせた。

 参戦する3メーカーのなかで、トヨタのマシン『TS050 HYBRID』は決して最速とは言えなかった。というのも、トヨタはWECの選手権全体よりもル・マン24時間耐久レースで勝つことを最優先に考え、ほとんどがスロットル全開の直線で構成されるル・マンに合わせ込んだマシン作りをしていたからだ。

「僕らはそもそも、ル・マンで勝つことをターゲットに空気抵抗の少ないル・マンスペシャルのマシンを開発していたので、正直なところ(ストレート主体の)ル・マンとスパ・フランコルシャン以外では明らかに(他メーカー)負けてたっていうのが実際のところでした。だから、開幕時にはタイトル争いができるなんて思ってなかったし、チームの人たちも誰も思ってなかった。富士で勝って初めて、『あれ? いけるんちゃう?』みたいに意識しだしたんです」

 第7戦・富士で勝ち、続く第8戦・上海でも我慢のレースで2位を掴み取り、最終戦のバーレーンに臨む可夢偉は、「思いっきり戦って、勝ってチャンピオン獲ってやる!」と強い闘志を燃やしていた。

 しかし結果は、ポルシェとアウディに及ばず、ランキング3位。

「(タイトルの)可能性はかなり少ないとは思っていました。『獲れたらすごいよね、やってみよう!』っていう感じで。でも、実際にはそういうレベルじゃなかった。富士と上海は(直線が長くて)僕らのクルマにとってサーキット特性が悪くなかったから、悪くないように見えたけど、バーレーンは少し戦闘力が落ちた。もうちょっといけると思ってたけど、思いのほか落ちたんですね。あまりにもアウディが速すぎて、全部持っていかれてしまって......」

 それでもマシンの性能を考えれば、ランキング3位は上出来すぎるほどの結果だと言える。そして、フル参戦1年目にして他のドライバーたちと同等かそれ以上の速さを見せ、可夢偉としても十分に実力を示すことができた。6人いるトヨタのドライバーのなかでも、可夢偉は安定してトップ2に入る速さを示していた。

「WECに関しては出し切れたと思いますね。『ああしたらよかった』っていうことを言い出したらキリがないとは思うけど、周りが3年も4年もWECで走ってきてるドライバーたちばかりで、遅い人たちじゃないってわかってるなか、1年目から(彼らと同等かそれ以上に)やれたっていうのはよかったと思います」

 WECは我々が想像するよりもはるかに速く、6時間という長時間のレースだが、スプリントレースかと見間違うほどのハイペースで攻め続ける。

 たとえばバーレーンでのタイムを比較すれば、WECのLMP1クラスは予選で1分39秒〜40秒台のタイムを記録しているが、F1はルイス・ハミルトンの今季のポールタイムが1分29秒493だった。LMP1はF1直下のGP2とほぼ同等の速さを持っている。

「クルマは乗っててかなり速いですよ。コーナーも結構速い。WECは燃料規制があるんですぐにフューエルカットが入ってしまって、トップスピードは全然伸びないから、ストレートはF1のほうが40km/hくらい速いんです。

 しかもF1とWECだと車重が200kgくらい違うのに、あんだけ軽いクルマで900馬力も出ててあのラップタイムって、『(F1は)どんだけ直線番長で、どんだけコーナーが遅いんやろ?』って僕らがビックリするくらい。もし燃料規制がなければ、WECのほうが速いかもしれない」

 可夢偉は目を輝かせながら語る。

 2017年の体制はまだ決まってはいないものの、引き続き参戦することになれば、次に目指すのはもちろん、昨年果たすことができなかったル・マン制覇とWECの世界王者ということになる。

 WECが成功裏に終わった一方で、参戦2年目の2016年はタイトル挑戦を視野に入れていたはずのスーパーフォーミュラは、散々なシーズンとなってしまった。我々の目に見えないところで何が起きていたのだろうか――。

(後編につづく)

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki