高職歴、高収入のキャリアを捨ててNPOやNGOへ転職する「N女」たち。昨年秋に刊行された『N女の研究』(フィルムアート社)が話題となっている、ノンフィクション作家、中村安希(なかむら・あき)さんに、そのリアルを聞きました。今、「N女」が増えている理由に迫った第1回に続いて、第2回では、中村さんが実際に取材したN女たちの決断について掘り下げます。

自分を犠牲にしていていいの?

──中村さん自身、取材を通して特に印象に残ったN女はいますか? 

全員印象に残っていますが、例えば、NPO法人難民支援協会の小川昴子さんですね。彼女はインターンや職員として9年くらい難民支援協会で働いたんですけれど、最終的には30歳をすぎて難民支援協会を退職されました。今は、イギリスの大学院でダンスセラピーを学ばれています。

どういうところが印象的だったかというと、彼女の葛藤のようなものが、同じ30代の人間として、すごく心に刺さるところがあったんです。

若い頃はNPOでいろいろな経験を積んで、「人の役に立ちたい」という気持ちを持てた。シェアハウスに住みながら仕事してきたことも、振り返るとそれでよかったと。でも30歳をすぎてみたら、「難民の人の幸せも大事だけれど、自分の幸せはどうなっているんだ?」と思ったそうです。

──「人の幸せ」と「自分の幸せ」のバランスを考え始めた、と。

「人を大切にしたいけど、自分も大切にしたい」と、彼女は自分の道を行くために、難民支援協会を辞めて、別の形で難民と関わる道を選ばれました。とても正直な生き方だと思います。

また、彼女の決断は、それまでNPOの女性たち、つまり旧N女たちとは明らかに違うと思いました。旧N女たちは自己犠牲型というか、「こんなにわたしたちは苦労して世の中のために頑張っているのに、あなたたちは何してるの?」という感情を持ちがちだったと思うんです。

「自分の幸せ」ときちんと向き合う

──自分が頑張って払った犠牲を、まわりにも求めるという意味ですか?

ちょっと閉鎖的だったり、あるいは排他的だったりする部分が、かつての市民運動を支えてきた旧N女世代にはあった気がします。

でも、小川さんをはじめ今のN女世代は違う。特に違うのは、小川さんが自分の幸せともきちんと向き合おうとしているところです。小川さんの幸せはまわりを幸せにすると思います。

──自分の幸せを求めることは、旧N女時代では自己中心的だと捉えられていたかもしれませんね。

彼女自身の選択の在り方は、「じゃあもう、難民の支援なんてやめて違うことをします」ということでもなくて、違う関わり方を見つけていくと。

そんな彼女の姿は、わたしの中で、「こういう人をN女のモデルとして描きたい」と思わせてくれました。そして、女の人生の葛藤みたいな話も共感できましたし、やりたいことやそれに近いことをやってきてはいても、やっぱり人生のステージにあわせて求める物も違ってくるし、理想を叶えることは難しい。それでも自分の中で葛藤しながら、行動をすることでそのことに決着をつけていくという、その生き方が潔くてすてきだと思いました。

変わり続けること、それがN女の生き方

──ずっと一つのことをやり続けなくてもいい。ライフステージに合わせて自由に変えていくということですね。

はい。たとえばNPO法人クロスフィールズの三ツ井稔恵さんも、結婚、出産を経て職場復帰をされています。今後、退職も考えられているみたいですけれども、そうやってライフステージにあわせて、考え方や選択が変わっていっても、それを非常に前向きに捉えています。

彼女はこうおっしゃっていました。「結婚をして可能性が狭まると思っていたら、結婚をして可能性が逆に広がった」と。それでまた子どもが生まれて。「これからどうなるかはわからなくて大変だとは思うけど、新しい視点をもらって、働く女性としてさらにパワーアップしたい」とおっしゃっていて。普通はね、そこ、グチるところじゃないですか。

──本当ですよね。すごくよくわかります。

出産したから、仕事を辞めざるを得なくなったとか。

──「こんなに頑張ってるのに!」とか。

そうそうそう。「わかってくれない」みたいな。でもそれを、今のN女たちはポジティブに捉えて、うまい方向に転換させてるんですよね。

「スーパーウーマンにはなれない」という諦め

──「不満を言っている暇があったら、動く」みたいな。

そうですね。嘆いていても何も変わらないけど、いやならいやで、そこをスパッと辞めて次に行く、とか。世の中的には、いろいろグチられてる環境に陥っても、そこをポジティブに捉えて生きていく。そんな柔軟な思考がすごく素敵だなあと思います。

あとは、リクルートからNPO法人ノーベルに転職した吉田綾さんも印象に強く残っています。彼女が勤めていたリクルートは、女性が出産後も仕事復帰して昇進を目指せる会社でもあって、彼女自身も出産後、一度リクルートに戻ったんですね。

でも、「自分はスーパーウーマンにはなれない」とリクルートを辞めて、ノーベルに入りました。もちろん年収ベースは減ってしまったんだけれども、今の時短勤務の働き方や子どもを育てながら働くことへの職場の理解が大きいなど、そういうところに魅力を感じられているそうです。

その切り替えのようなものが主体的でいいなあと思いました。自分の人生にとって一番大事なことは何なのかをきちんと捉えながら、でも仕事もきちんとやる。そういう人たちが出てきたんだなあって思いました。

──彼女たちの言動で、女性の選択肢がすごく広がった気がします。

見方によっては「そういうことができるんだな」みたいな。「無理だ」「ダメだ」って言ってなくてもいいのかなみたいなと思えますよね。

「自分の幸せ」を一番に考えて、フットワーク軽くキャリアを積んでいくN女という働き方、いかがでしたか? 最終回となる次回は、N女に学ぶ「生き方のヒント」について聞いていきます。