学歴はあなたの人生を幸せにするか?

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■学歴にこだわらない採用が登場してきた

偏差値の高い大学を出れば就職で優遇される時代が長く続いてきたが、最近では採用する企業の側も変化も起きている。

これまで多くの企業では、優秀だと評価する基準は大学の偏差値と「人柄」の大きく2つだ。偏差値の高い大学出身者は地頭力、つまり学習能力が高く、論理的思考力があると見なす。一方、人柄には協調性やチームワークなど組織の一員としての規律を守れるかどうかも含まれている。入社試験の一次面接では人事部ではなく、選ばれた一般の優秀な社員が行うことが多い。その際の評価基準としてよく言われるのが「一緒に仕事をしたいと思うか」であり、人柄の重要な部分を占めている。

だが、最近は必ずしもどんな大学を出たのかという学歴にこだわらない採用手法の多様化も進んでいる。大量採用する大手企業は就職サイトを通じて母集団を形成し、エントリーシートや面接を通じて機械的に絞り込んでいくパターンが多い。それに対して具体的な人材要件を提示して応募学生を絞り込み、複数の選考プロセスを通じて学生と濃密な関係を築きながらお互いのマッチング度合いを高める採用を行う企業も増えている。

たとえば新潟の三幸製菓は「おせんべいが好きか」「新潟で働けるか」という具体的要件を明示して募集。応募者は個人の特性とスキルを見る質問による適性検査を受けたあと、複数の選考方法を学生に選択させる手法をとっている。おせんべい好きをアピールするプレゼンや学生時代の勉強や研究成果を発表して評価する「ガリ勉採用」などがある。

また、ある大手百貨店のように「ファッションが好きな人」と要件を明確化して募集した企業もある。かつては東大、京大、慶大など高学歴人材を採用してきたが、「百貨店不況が続き、単に偏差値の高い大学の学生を採用しても業績低迷に歯止めはかからない。そうであるなら人材要件を明確にすることで、新たなビジネスの芽を生み出すような人材を採用しようと決めた」と人事部長は語る。

今では有名大学に限らず、それほど名前の知られていない大学の学生でもファッション好きな学生を採用している。せんべいが好き、ファッションが好き、というのはその企業のビジネスモデルに基づいた大事な人材要素なのだ。

大学の偏差値やコミュニケーション力などから導かれる「優秀な人間」ではなく、自社にとって本当に優秀な人材とは何かを明確に定義して選考しようという動きである。

■大学名ではなく「専門性と指導教授」

2番目は、SNSの活用などを活用したダイレクトリクルーティングの増加である。求職者による自発的な応募を待つ姿勢から積極的にアプローチする動きである。

毎年10〜20人程度を採用している中小・ベンチャー企業の利用が比較的多いが、大手企業の中でも積極的にダイレクトリクルーティングを手がけている企業もある。たとえば日産自動車は10年ほど前からマーケティング&セールス、商品企画、開発・研究、経理・財務、人事などの職種別採用を実施している。人材要件を明確化し、人事部門と各部門が協力しながら直接大学の研究室やゼミなどに足を運んで学生を獲得するものだ。

面談では専門性だけではなく、将来のリーダー候補としての洞察力やリーダーシップなどのヒューマンスキルも深くチェックしている。たとえば人事部門の採用では経営学や人的資源管理を専門とする研究者のゼミをターゲットにしている。もちろん、HP上で募集・選考する従来型の採用方式も実施しているが、今では新卒採用者のうち、戦略採用が8割を占めているという。

この採用の狙いは大学よりも「専門性と指導教授」にある。また、専門性に関しては、大手消費財メーカーでは「財務、法務、マーケティング、IT」に関する専門性の高い学生を別枠で採用している。

なぜ新卒採用で専門性を求めるのかという質問に対し、同社の人事担当者は「もちろん入社後も徹底して教育するが、グローバルな競争で勝ち抜いていくためには早く一人前になって活躍してもらいたいという思いがある。誰が見ても専門性が高ければ大学は関係ない。大学時代に専攻した学問を究めていれば採用したい」と言い切る。

日本企業はグローバル市場で血道の競争を繰り広げている。欧米企業の社員は即戦力採用が主流だけに専門性も高い。それらと戦うには専門性の高いスペシャリストの養成が不可欠になっているという事情もある。

総合商社をはじめとするグローバル企業では日本の大学卒に限らず、欧米の有名大学や修士課程を学んだ人たちも増えている。東大卒、京大卒といっても優秀だと見なされなくなる傾向もある。大学名にこだわるよりも、大学で何を勉強するのか、指導教授にどんな人がいるのか、さらにグローバル素養を深めるために大学はどんな制度を用意しているのかを見極めて、自分にふさわしい大学を選ぶべきだろう。

(ジャーナリスト 溝上憲文=文 宇佐見利明=撮影)