自らの感染を防ぎ他人へも感染させないよう教育と啓発を(shutterstock.com)

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 性感染症は発見されにくく、また知識不足もあって、若者たちを中心に広まりやすい傾向にあります。我が国における性感染症の罹患者は増加しつつあり、いくつかの発展途上国では死因の第1位がエイズであるように、性感染症は深刻な病気です。

 しばしば、私はある施設で診察を行うことがあります。病歴を尋ねると、クラミジアや淋病といった性感染症に罹忠した人が多いことが分かりました。さらに調べると、援助交際や違法薬物使用の経験がありました。これはこの施設だけの問題ではありません。

性感染症の国内外の広がり

 性感染症は「Sexually Transmitted Diseases」の頭文字をとって「STD」と略されます。性行為によって感染する病気であり、広く知られているのは、淋病、梅毒、クラミジア感染症、トリコモナス膣炎などです。

 性交渉のパートナーをしょっちゅう変えている人、多数のパートナーがいる人に高頻度に見られます。したがって、我が国では、風俗業に従事している人や、援助交際をしている女性に多く、そのほか同性愛者、薬物常習者にも見られます。

 世界における現状を見ると、全人口の約4分の3は発展途上国であり、STD患者の約9割がこの発展途上国にいます。これらの国では近年、青少年が増加しており、都市部で歓楽街が増加するとともに、危険な性行為が増え、さらに貧困や戦争に起因した性の諸問題が生じているのです。

 皆さんもご存じのエイズ(後天性免疫不全症候群)はHIV感染によって生じますが、STDの一つです。残念ながら、いくつかの発展途上国ではHIV感染が死因の第1位となっており、STDが国を滅ぼすかもしれません。

 次に、国内の現状を見ると、STDの中で梅毒患者は、感染症予防法により全数を届け出ることが定められています。梅毒患者数は年々増加しており、平成12(2000)年に759人であった忠者数は、平成26(2014)年に1683人となりました。

 そのほか、淋病、クラミジア、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマなどは全国の975カ所(平成26年現在)の医療機関における報告数を調べています(定点報告)。

 このうち、尖圭コンジローマの患者数はこの15年問で増加しつつあります。また、性器ヘルペスウイルス感染症は総数がほぼ横ばいであるものの、女性の患者数は増加しています。

性感染症が重篤な病態に

 STDであるトリコモナス肺炎や淋病の原因菌は、感染後に膣内にいます。しかし、未治療の状態では膣から子宮頸部、子宮内膜、卵管を経由して腹腔内(おなかの内部、臓器があるところ)に至ることがあります。そこで炎症を起こすと、骨盤内腹膜炎という重篤な状態になることがあります。

 腹痛を訴えて病院を受診した若い女性が、この病気に罹っていることがあります。受診した際に、必ずしも日常の性行為について話さず、また、女性器の異常について話さないことがあるので、内科や外科では発見されないことがあるのです。そのため、若い女性の腹痛にはSTDに起因した腹膜炎も考えなければなりません。

 また、近年、若い女性に対して子宮頸がんの予防に向けたワクチン接種が開始されました。現在、このワクチン接種による副反応の影響が懸念され、積極的な推奨はされていません。

 子宮頸がんの原因菌はHPV(ヒトパピローマウイルス)ですが、このウイルスの仲間がSTDに位置付けられます。HPVの感染で、外陰部にいぼのようなものが多数できる尖圭コンジローマという病気があります。

 この病気になると、外用薬をつけるだけでは治らず、焼いたり切ったりする手術が必要になることがあります。
症状があれば早く検査や治療

 STDに罹っているかどうかは、まず症状で疑います。男性では排尿時に膿が出る、痛みがある、亀頭がただれる、精巣が腫れるなど。女性ではおりものが黄色く多い、外陰部にいぼや潰瘍がある、痛み、かゆみ、腫れがあるなどです。

 もちろん症状に乏しいこともありますが、他人に感染させる前にただちに医療機関を受診して治療を行うことが重要です。

 やはりデリケートな場所の病気ですから、恥ずかしがって受診しない人もいます。しかし、治療しなければ治りません。近年では、医療機関を受診しなくても感染の有無を確認できるキットが販売されており、誰でも購入できます。血液またはうがい液などを利用して検査をすることができます。

自らと他人への感染予防

 STDは性行為によって感染する病気ですから、感染者に接触する機会を減らせば、危険性は低下します。すなわち不特定多数の人と性交渉経験がある人や、STDにかかっている疑いがある人との接触を避けることが重要です。また、コンドームの使用により直接の接触を防げば、比較的安全になります。

 口と肛門との接触がある行為の際に、A型肝炎や赤痢などの感染症に罹患することがあることも知っておいてください。

 若い人をはじめ、STDに関する知識不足の人が多いことは否めません。自らの感染を防ぎ、他人へ感染させないように配慮すること、その教育と啓発が必要です。

 厚生労働省が近年に作成した、STDに関するポスターの標語を紹介しましょう。

 平成27年は美少女戦士セーラームーンをモデルに話題を呼んだ「検査しないとおしおきよ!」、26年は「あなたが感染すれば大切なパートナーも感染します 性感染症」、25年は「性感染症、相手が増えればリスクも増える」、24年は「オーラルでもうつります、性感染症」。この通り、若い人に啓発しませんか。

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授、京都府立医科大学客員教授、東京都市大学客員教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会指導医・認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999〜2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(副会長)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)、日本バイオレオロジー学会(理事)、日本医学英語教育学会(副理事長)など。
連載「死の真実が"生"を処方する」バックナンバー