就業規則に「無言で仕事をすること」と書いてあるわけではないですよね? 喋りたければ喋ればいいと思います。

――「喋ることは作業効率を落とす」という暗黙の了解があるんです。外資系の企業では、スタッフ同士が喋っているとうるさいという理由で、スタッフ間で使用できるチャットを導入した企業もあると聞きました。

無言でチャットのやりとりが増えたほうが、かえってストレスが溜まりませんか。チャットやメールはあくまで手段なので、スタッフみんなが楽しそうであれば、それでも構わないのですが。

基本的に人間は、コミュニケーションが必要な生き物です。家でご飯を食べるときに「喋ってはいけない」と言われたら、どうですか。息が詰まるはずです。仕事の生産性が上がるとは思えません。

――雑談したほうが生産性は高まるのでしょうか。

人によって差があるでしょうが、人間の脳の集中力はだいたい2時間維持できればいいほうです。雑談するなどして、時々息を抜かなければ、かえって生産性は低下するのです。例えばグーグルは勤務時間の2割は通常業務以外のことをするルールをつくっています。人間の本質がよくわかっている。だから業績が上がるのです。

――職場の雰囲気は変えられますかね。

気の合いそうな同僚と少しずつ雑談していって、「このくらいまでは許される」というレベルを探っていったらどうですか。

――出口さんに上司がいらっしゃった時代は、雑談していましたか。

たくさんしていました。遊び心のない職場は第一、楽しくない。職場が面白ければ毎日行くのが楽しくなるでしょう。

――ちなみに、出口さんはどんな上司だったんですか。

僕は部下から「出口さんはものすごくいい上司です」と言われたことがあります。「なんで?」とその部下に聞くと、「単純でわかりやすいからです」と。「笑っているときに相談に行ったら楽だし、怒っているときは、どこかよその部署へ行っていればいいので、こんな楽勝な上司はいない」と言うのです。

――上司も同じように楽しい職場を望んでいるなら、直接相談してもいいのかもしれませんね。

そう思います。フランス人は同棲する前に花嫁修業、花婿修業をするようですが、そのための習い事で最も人気なのは何かわかりますか?

――普通に考えたら、料理教室やマナー教室ではないでしょうか……。

一番人気なのは会話教室です。人と一緒に暮らすには、言葉のキャッチボールができないと駄目。職場も同じです。

Answer:息抜きしなければ生産性は上がりません。どこまで雑談が許されるかを探ることです

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出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長 
1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。

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(出口治明 構成=八村晃代 撮影=市来朋久)