ヤマト運輸とコラボして始まった京福電鉄の宅急便電車

写真拡大 (全3枚)

 ネット通販の急速な発達により、荷物の量が多すぎて対応できない、配達員の負担が重すぎるなど宅配便の仕組みが限界になりつつある。機能しなくなりつつある輸送システムを補助する存在として、いま再び鉄道に注目が集まっている。鉄道による貨物輸送の歴史を振り返り、京福電鉄とヤマト運輸による宅急便電車の運用といった新しい試みについて、フリーライターの小川裕夫氏がリポートする。

 * * *
 昼下がりのJR上野駅14・15番線ホーム。高崎・宇都宮線が発着するこのホームに、奇妙な電車が止まっている。電車の横では、作業員が慌ただしく新聞を積み込んでいく。普段は多くのビジネスマンが乗る車両は、みるみるうちに新聞の山が築かれていく──この奇妙な電車は新聞輸送列車と呼ばれる。いまでも北関東へ向けて新聞を運んでいるのだ。

 新聞輸送列車は都市圏から地方都市の駅売店やコンビニなどに新聞を届けることを使命としていた。高度経済成長期以降、物流の主役はトラックに交代し、新聞輸送列車の数は激減した。しかし、それまでの物流は鉄道が主役だった。

 近年、労働力不足や高齢化、宅配需要の急増といった要因で長距離トラックドライバーが足りない。そうした事態を受けて、トヨタやイオングループなど名だたる大企業が、貨物列車の輸送力に着目。物流業界や小売業界は、効率的に物資を輸送できる貨物列車の有効活用に取り組み始めた。

 再び光が当たるようになった貨物列車のような存在がある一方、貨物列車とは異なる方法で物資を運ぶ、もうひとつの鉄道はあまり知られていない。それが、荷物列車だ。

 現在の宅配便システムは、自宅の玄関先までドライバーが受け取りにも配達にも来てくれる。しかし、トラック輸送が普及する昭和30年代まで、荷物の受け渡しは駅が一般的だった。宅配便を発送する人は駅まで足を運び、受け取る人も駅まで取りに行く。駅は物流基地としての役割を持っていた。

 全国に鉄道ネットワークを形成していた国鉄は荷物輸送専用車両を保有し、特に郵便配達を一手に引き受けていた。民営化してJRに改組した以降も子会社などによって、荷物輸送は細々と続けられてきた。また、国鉄に比べて一部の地域にしか線路を持たない私鉄でも荷物輸送はおこなわれていた。

 時代とともに物流の主役がトラック輸送にシフトすると、鉄道の荷物輸送は衰退。今では、ほとんど目にすることはなくなった。

 東京から房総方面のターミナル駅として栄えた両国駅には、通常時は閉鎖されている3番線ホームがある。2010(平成22)年まで、両国駅の3番線ホームから房総方面に新聞を配達する新聞輸送列車が発着していた。

 また、荷物列車の変形バージョンも存在した。京成電鉄では千葉や茨城の農村で収穫された野菜を東京に売り歩く行商人専用の列車が運行されていた。時代とともに行商人が減少したこともあり、近年は旅客列車の一部に行商専用車両を連結して運行をつづけていた。その行商専用列車も2013(平成25)年に廃止された。

 近畿日本鉄道では伊勢湾で獲れた鮮魚を運ぶ鮮魚列車が今でも運行されているが、鮮魚列車もいつ使命を終えるかわからない状態にある。荷物列車は風前の灯なのだ。

 そうした荷物列車縮小時代にあって、荷物輸送で新しい可能性を切り開こうとして注目されている鉄道会社がある。京都市内で路面電車を運行している京福電気鉄道(京福)だ。四条大宮−嵐山の嵐山線と北野白梅町−帷子ノ辻の北野線の2路線を有する京福は、ヤマト運輸からの提案を受けて2011(平成23)年から宅急便電車の運行を開始した。

 京福が運行する宅急便電車は、朝に車庫のある西院から出発し、嵐電天神川駅・蚕ノ社駅・帷子ノ辻駅・有栖川駅・嵐電嵯峨駅の各駅で荷物を下ろして各集配所に運ばれる。夕方は嵐山から逆ルートをたどる。嵐山駅は一年を通じて観光客が多いため、ヤマト運輸は集配所のみならず手荷物預り所も開設している。

 全国に線路を有するJRだったらスケールメリットをフル活用し、トラックよりも長距離輸送・大量輸送で威力を発揮できるだろう。しかし、京福の嵐山−西院間は5.8キロメートルしかない。西院までトラックで荷物を運び、それを電車に積め替え、駅で積み下ろして集配所まで運び、集配所から各家庭に運ぶのでは、積み替えなどの手間が増えてしまい輸送効率は逆に悪化するのではないか?

「京福電鉄と宅急便電車を運行することになった背景には、京都独特の街の構造があります。京都は古い家屋が残っている歴史ある街ですが、そのために道路も昔のまま細く狭くなっています。そうした道路事情もあってトラックで配達することが難しい地域です。特に京福沿線は路地のような小さな道が多いので、電車と台車とを組み合わせた配送の方が効率的のようです。また、ヤマト運輸はCO2の削減に取り組んでいますから、環境面からもトラックをできるだけ使用しない方針があります。そうした点から、宅急便電車が誕生したのです」(京福電鉄鉄道部)

 トラックから電車に配送手段をシフトすることで、配達の効率化やCO2の削減といったメリットがあるにしても、京福が宅急便電車を運行するのにあたってクリアしなければならないハードルがあった。

 それは京福が、これまでに旅客営業しかしていなかったことだ。貨物列車と荷物列車は厳密には違うとはいえ、実際に車両に荷物を積んで輸送するためには貨物営業の認可が必要になる。いくら需要があっても、鉄道会社が勝手に貨物列車・荷物列車を運行することはできない。

「宅急便電車の運行をはじめるにあたって、近畿運輸局と協議しました。荷物を載せる車両にはヤマト運輸のスタッフが1名同行し、荷物を積み下ろす各駅ではほかのスタッフも立ち合います。朝の宅急便電車は2両編成ですが、非貫通車両のため、乗客と荷物が同じ車両に乗ることはありません。荷物車は貸し切り車両という形で運行し、そこに大きな荷物が積み込まれているといった体裁をとることになったのです」(同)

 近年、ネットショッピング需要は急増し、物流業界は2016年末から2017年始にかけて機能不全に陥った。京福&ヤマトが始めた物流の新しい挑戦は、ほかの鉄道事業者と物流業者からも注目されており、新たに荷物輸送を導入しようとする動きも見られる。宅急便電車によって、鉄道から新たな物流革命が起きることを期待したい。