眼球と網膜の構造。網膜色素変性症の患者は4,000人から8,000人に一人ほどの割合で存在すると言われる。(画像:理研発表資料より)

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 理化学研究所(以下、理研)の研究チームが、マウスのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から網膜の組織を作成、末期の網膜変性症のマウスにこれを移植し、視覚機能を取り戻させることに成功した。

 「理研」で「幹細胞を用いた研究」と言われると、理研には申し訳のない話ではあるが、嫌な記憶が蘇らざるを得ない。STAP細胞を巡る一連の事件と不祥事である。今思い返すだに、本当にひどい、どうしようもない、日本の科学史に永遠の汚点を残すような事件であった。

 だが、万能幹細胞(最近はこの言い方はあまり用いられなくなっているようではあるが)は、本来、夢の技術であったはずだ。「どんな細胞にも分化することのできる、万能の(あるいは多能性を持った)細胞を用いて、現在の医学では修復不可能である、たとえば損傷した脊髄などの機能を回復させる」。素晴らしい話ではないか。

 さて、今回の研究は、ごく具体的な形でその夢を実現へと導くものである。網膜の細胞というのは再生能力が極めて低い。ゆえに一度網膜に何らかの不可逆な変性や損傷を受けてしまうと、視力の回復は極めて困難であった。

 それが、どうにかなりそうだ、というのが今回の研究の要諦である。同研究チームが、マウスのiPS細胞から分化させた立体網膜組織を、網膜変性末期マウスに生着させることに成功したのは、2014年のことであるという。

 今回の研究報告はその続きということになる。iPS細胞を移植されたマウスにおいて、ざっくばらんにいえば「単に網膜の形をしたものが生着しているだけではなく、ちゃんと神経が接続している」ということと、「さらに、マウスの視覚機能が回復している」ということが、独自の実験によって確かめられたのだ。このように、網膜変性症が網膜組織の移植によって治癒したという報告例は、初めてのことになるという。

 今後の研究の展望は、無論のこと、「ヒトへの臨床的応用」つまり、人間の網膜をiPS細胞から分化させて移植することである。その為の道筋を、この研究は十分に示したのだ。

 研究の詳細は、アメリカの科学雑誌『Stem Cell Report』オンライン版に掲載されている。