新生ロマンポルノ:白石和彌監督がこだわった風俗嬢のリアル『牝猫たち』

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ロマンポルノの看板を借りて、名匠・田中登監督作にオマージュを捧げた現代劇『牝猫たち』。

『凶悪』(14)、『日本で一番悪い奴ら』(16)に続く、白石和彌監督の最新作は、現代社会を逞しく颯爽と生き抜く風俗嬢たちのリアルをジャーナリスティックな視点で捉えた、白石監督にしか描けない日活ロマンポルノだ。

本作で映画初主演を果たした井端珠里は、母親の強い反対を押し切って大胆な濡れ場に挑んだ。覚悟を決めた女優・井端と、これからの日本映画界を担う若手実力派・白石監督が語る、日活ロマンポルノをリブートする意義とは。


(C) 2016 日活

-男の性、同性愛、アート作品など、さまざまなジャンルが揃ったリブート企画ですが、白石監督が風俗嬢たちの日常という社会派な題材を選ばれた理由というのは?

白石監督:今やる意味というか、「現代性を出してくれ」ということは企画を受けた段階で言われていましたね。田中登監督の『牝猫たちの夜』へオマージュを捧げた作品ではありますが、枠組みだけ借りて、物語の舞台を現代に持っていければいいかなと考えていたんです。

-白石監督といえば、やはりヘヴィな作風というイメージがあります。しかし今作には、ラヴストーリーやコミカルな要素もありますよね。

白石監督:ヘヴィな作風・・・自分的にはそんなことないって思ってるんですよ(笑)。『凶悪』の後、警官がシャブ打つのが見せ場みたいな映画(『日本で一番悪い奴ら』)を作ったので、そういうイメージは強いかもしれないですけどね。もちろんヘヴィな作品は好きなんですけど、そういう映画しか見て来なかったわけじゃなく、恋愛映画も見てきたので、映画監督としてそういうものもできるという自負はあります。

-キャスティングで重要視したポイントは?

白石監督:全体の作りとしては、ルポタージュの映像化みたいに見えればいいなと。風俗嬢を描くことに関しては、「さっきの喫茶店で隣にいた人が風俗嬢だよ」「え、まじ?」みたいに見えればいいなと思っていたんです。それは珠里ちゃんが風俗嬢に見えるということではなく。なので、役者のほとんどはオーディションで実際に会って選びました。

-白石監督と井端さんの出会いは?

白石監督:実は10年くらい前、若松孝二監督の助監督時代に会っているんですよ。『17歳の風景〜少年は何を見たのか』という作品に珠里ちゃんに出てもらったんです。撮影時間は10分くらいだったんですけど、すごく印象に残っていて、足立正生監督の『断食芸人』に出ているのを見て、「まだ女優さんをやってたんだ」って。

-白石監督の現場はいかがでしたか?

井端:白石監督は優しい顔をして、絶対に怖い人だと思っていたんですが(笑)、とっても優しかったです。その上、あの時の撮影のことまで覚えていてくださってうれしかったです。

初めて監督とちゃんとお話したのは面接の時で、そのあとにグループ・オーディションに参加させてもらって、「服を脱ぐ審査があるかも」と聞いていたのですが脱ぐことなくオーディションが終わってしまったので、「あ、落ちたんだな」と思っていたんです。失恋したような気持ちで家に帰ったら、合格の電話をもらってビックリ。私は『凶悪』の大ファンだったので、合格の知らせを聞いた時は小躍りしました(笑)。白石監督の脚本はすごくキャラクターに入り込みやすくて、濡れ場シーンも変に浮き立っておらず、自然に物語に組み込まれていたので演じやすかったです。

-脱ぐことへの抵抗はなかったですか?

井端:私として抵抗はなかったんですけど、母親からは「やってほしくない」と言われました。私は子役出身なので、子供の時の感覚が抜けないらしく「やらないで!」と言われてしまって。

白石監督:マジで!?

井端:私もそのとき感情的になって、席を立って帰っちゃったので、しばらく連絡も取らなかったんですよ。

私にはこの作品が必要だったんです。だからやるって決めていました。親にも恥ずかしくない気持ち、「これが最後の作品になってもいい」ほどの覚悟で私は臨んでいたんです。だからこそ完成した映画を試写で見た時、子役だった自分と決別できた気がしました。「母親に見てね」と言える作品に出演できたなと、大号泣してしまいました。

白石監督:お母さんとはもう大丈夫なの?

井端:もう大丈夫です。母はまだ映画を見てないんですけど、今の私には後ろめたさが一切ないんです。

でも、女優としてではなく一人の人間の井端珠里として、「母親が嫌がる仕事をした」という気持ちがどこかに引っかかっていたんです。子役だった自分、母親の顔色を伺っていた自分がまだそこにはいたんですよ。でもそういう気持ちも、作品を見たときに全て消化することができた気がします。それで涙が止まらなかったんです。素晴らしい作品に出させてもらったと思っています。


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白石監督:はじめて聞きました。お母さんと仲直りしてくれてよかったです。

やっぱり、脱ぐ・脱がないに関わらず、映画で主演を張るって人生の一大事ですよね。それは僕ら監督も同じで、映画一本で人生が変わることもある。そうやって一本一本真剣に取り組んでいるし、そういう世界で今後もやっていくしかないんですよね。

-今、とても脱ぎづらい世の中になっているとは思います。脱ぐ人たちへの視線、色眼鏡ってありますよね。だからこそ、ロマンポルノの女優さんたちには尊敬の念を抱かざるを得ません。

井端:でも、映画をあまり見ない人たちには「なんでそういう仕事をしようと思ったの?」って言われましたね。映画を見てくれたらわかると思うんですけど、特にあまり映画を見ない若い世代の方々に理解してもらうのは難しいですね。

-特集上映など、一部の若い世代の間でロマンポルノが流行っているみたいですが、やはりごく一部ですよね。でも、ロマンポルノってエンタテイメントの要素が大きくて、今回のリブート企画がうまくいけば、レーベルの完全復活もあり得ますよね。

白石監督:ロマンポルノって、そもそもはプログラムピクチャーだったじゃないですか。僕も続けていくべきだと思います。荒井晴彦さん(『赫い髪の女』『嗚呼!おんなたち 猥歌』『遠雷』『Wの悲劇』などの脚本家)曰く、「昔のロマンポルノは三本立てで封切られて、その中から自分の中の一本を探すという作業だった」と聞いて、なるほどなと思ったんです。僕はその封切り三本立てで見られていない世代なので、「何でお前みたいなのがやってるの?」とか言われてしまったんですけど、今回奇しくも五本揃って、1日で全部は見られないですけど、「あれはこうだった」「あれはどうだった」とか、酒を飲める環境を作れたらいいなとは思うんです。大事なのは、とにかく本数を作っていくことだと思うんですよ。


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-当時のロマンポルノをリアルタイムで見ている世代と、今回初めてロマンポルノを見る世代では、受け取り方も違うと思うんです。今回の5作品の中で、『牝猫たち』は徹底的に今を描いて勝負している作品だと思いました。それは同時に、エンタテイメントに表現の自由を取り戻すという作業なのかなと。

白石監督:そうですね。まず、現在は封切り三本立てができないという環境です。日活に直営館があった頃は、番組を埋めるためにひたすら映画を作っていたという経緯がありますよね。現在の商売の仕方としては、地方の単館系映画館でちょっとずつ回していくというのが現実的なところ。そのときに、一本一本を作品にしていくしかないと思ったんですよ。昔みたいに、「とにかく男たちを勃起させればいいんだよ!」ということで映画作りをしても、そっぽを向かれるのはわかってる。

そう考えざるを得ないという状況には忸怩たる思いもあるけれど、生き残っていくにはそうせざるを得ない。ドライな言い方をすると、「ロマンポルノという看板を借りて、別の商売をする」ということでしかないのかもしれない。そこは割り切ってやっていくしかないと思うんです。

-『ジムノペディに乱れる』の行定勲監督は、「同じスタイルで過去のロマンポルノに挑んでも太刀打ちできない」というようなことを語っていました。

白石監督:リブートと言いながらも、ゼロからの立ち上げなんですよね。当時のロマンポルノは1200本も作っていて、演者も作り手もやればやるほどわかってくることがある。パッション云々というよりは、経験値として“気づき”が蓄積されていくんですよね。そこが撮影所システム、プログラムピクチャーの強みです。だけど今は一つ一つ新たに発見して、開拓していかなくちゃいけない。それは非常に厳しいものでしたね。荒井晴彦さんはロマンポルノが終わってから、一人でロマンポルノを40年やってきたわけだから、ロマンポルノに対する思いが強いのもわかります。

-でも『ヴァイブレータ』(廣木隆一監督・荒井晴彦脚本)と『牝猫たち』って、ちょっと近いものを感じました。

白石監督:確かに。両方とも“気分”を描いている映画ですよね。


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-『牝猫たちの夜』にオマージュを捧げるというのは、もともと白石監督のアイデアたったのですか?

白石監督:そうですね。でもオマージュを捧げるといっても、少し設定を借りただけで、物語の内容まではリンクさせていないんです。田中登監督が好きというのも理由の一つですね。荒井晴彦さんに言わせると、田中登はロマンポルノじゃないらしいけど(笑)。

-荒井晴彦さんにもこのリブート企画に参加して欲しかったですね(笑)。『この国の空』で監督業にも復帰されているので、撮ってほしいですよね。

白石監督:確かに荒井さんのロマンポルノ見たいですよね。でも、金子修介監督(日活ロマンポルノ『宇能鴻一郎の濡れて打つ』(84)で商業監督デビューした)も、「なんで俺は立ち入れないんだ?」とか言ってるらしいので、荒井さんを入れると問題になるかも(笑)。でも本当、次やるならレジェンドを入れるのはありですよね。予算も撮影スケジュールも同じで(笑)。

-たっぷりと予算をかけた大作、スタッフが身を削るインディーズと、日本映画界の二極化が著しい時代ですが、このリブート・プロジェクトには予算がきちんとついていて、健全な企画ではありますよね。

白石監督:面白い企画ですよね。若い人へのチャンスでもありますし。ピンク映画もそうだけど、ロマンポルノも才能のゆりかごだったんですよね。でも、やっぱりそれはたくさん本数を作ったからゆりかごになり得たわけで。これからもたくさん作っていった方がいいと思います。

-新進女優の方々にとっても大きなチャンスですよね。本作にはロマンポルノの女王・白川和子さんも出演されていますが、共演はいかがでしたか?

井端:とてもうれしかったです。緊縛シーンがあるんですが、それが本当に痛くてつらくて。長回しの撮影だったので途中で緊張の糸が切れて、耐え切れず泣いてしまったんです。その時、白川さんが抱きしめてくれました。「これからはあんたたちの時代だから頑張ってね」って。それで余計泣いてしまいました(笑)。

 
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-白川さん、「自分がもし若かったら主演したかった」っておっしゃてるんですよね。

白石監督:今からでも脱げるか聞いてみましょうか?(笑)

-白川さんの出演など、昔のファンの方々も楽しめるようにという意識はされていたんですか?

白石監督:ロマンポルノって、やっぱりオールドファンが根強いんですよね。でも僕は、オールドファンに向けて作品を作る気は、正直サラサラなかったんですよ(笑)。それはちょっと申し訳なかったかなって思ってます。

全員に向けて作るのは無理ですよね。そもそも当時のロマンポルノだってそんなもんだったでしょって思いますし。「誰に向けて作ってるの?」って作品も多くないですか(笑)? 三本立ての中から「そんなんあったっけ?」っていうのがロマンポルノとか、今ソフト化されてる作品は「ロマンポルノじゃない」とか言う人もいるし、「じゃあ、どうすりゃいいのよ!」って(笑)。

-正解がないですね(笑)。

白石監督:でも、そういう話を「ああじゃない」「こうじゃない」と話すのがロマンポルノなんですよね、きっと。

-そんな伝説のレーベルの歴史に、白石監督も名前を刻んだんですね。

白石監督:そういうことを考えると、やはりロマンポルノという看板は大きいなと感じますね。これからも続くなら、もっとド直球のものを投げてみたい気もします。

KAZUYA SHIRAISHI
白石和彌 1974年、北海道生まれ。95年に中村幻児監督主催の映像塾に参加。以後、若松孝二監督に師事し、フリーの助監督として活動。若松孝二監督『明日なき街角』(97)、『完全なる飼育 赤い殺意』(04)、『17歳の風景〜少年は何を見たのか』(05) などの作品へ助監督として参加する一方、行定勲、犬童一心監督などの作品にも参加。初の長編映画監督作品『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)に続き、長編第2作となるノンフィクションベストセラーを原作とした『凶悪』(13)が、国内の映画賞を席巻した。『日本で一番悪い奴ら』がニューヨークアジア映画祭のオープニングを飾り、又吉直樹原作『火花』のNETFLIX配信ドラマの監督(3話・4話)も務めた。

JYURI IHATA
井端珠里 1987年9月9日生まれ、東京都出身。2歳でキッズモデルとしてデビュー後、98年にCX『眠れる森』で女優デビュー。声優、歌手としても活躍している。近年の主な出演作として『ローリング』(15)、『グッド・ストライプス』(15)『走れ、絶望に追いつかれないはやさで』(16)、舞台「罠」(16)、『断食芸人』(16)など。

『牝猫たち』
監督:白石和彌
出演:井端珠里、真上さつき、美知枝、郭智博、白川和子(特別出演)ほか
1月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
http://www.nikkatsu-romanporno.com/reboot/felines/

ロマンポルノ・リブート・プロジェクト
日活ロマンポルノとは、1971年に映画会社の日活が打ち出した当時の映倫規定における成人映画のレーベル。「10分に1回絡みのシーンを作る」「上映時間は80分程度」などの一定のルールと製作条件以外、比較的自由に映画を作ることができたため、若手監督の登竜門的存在だった。1988年までの17年間に約1,100本もの作品を発表し、現在も国内外で高い評価を集めている。2012年に実施された「日活ロマンポルノ」特集上映は、若い世代や女性層など、これまでロマンポルノに触れる機会がなかった新しい客層の開拓に成功。これを契機に、日本映画界の第一線で活躍する映画監督5人が、これまでと同様の製作条件を引き継ぎつつ、現代ならではの新たな表現方法で歴史あるレーベルに新風を吹き込んだ。