ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマー氏 Dirk Eusterbrock

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「G2」と言われたアメリカも中国も、その他の国々も、世界でリーダーシップを発揮することができない──そんな「Gゼロ」の時代をかねて予見していたイアン・ブレマー氏。同氏に新たな1年の国際社会の見通しを、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が聞いた。

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 2017年は「パクス・アメリカーナ」(アメリカの力による平和)が公式に終わる年となるだろう。ドナルド・トランプ氏の大統領当選と統治によりアメリカは自国が世界でも特別な役割を果たすとする「アメリカ例外主義」を放棄し、アメリカが世界には欠かせないとする考え方をも排除するようになるだろう。

 こうした展開は全世界に大きな衝撃を与える。中国が経済分野で国際的に劇的なほど指導的役割を果たすようになる。あるいは米欧関係が大幅に弱まる真空状態が生まれるかもしれない。東南アジアのアメリカの同盟国や友好国を中国に近づけるかもしれない。中東全体を傷つけることにもなりかねない。アメリカとロシアが温かい関係となるかもしれない。

 アメリカの国際的な影響力は実はオバマ政権時代に衰え始めていた。欧州連合(EU)が弱くなったことも私たちは知っていた。中国がアメリカの代役のような役割を演じ始めた。ロシアも安全保障面でのアメリカの代替策を供し始めていた。一方、トランプ氏の外交政策と政策面での一貫性や整合性に欠ける外交チームの登場によってアメリカの国際的影響力の衰退はさらに加速されるだろう。

 ただしアメリカ国内をみると、トランプ氏が政権の主要ポストに選んだのは産業、金融、ビジネスの振興を強く支持する人物たちだ。議会の両院も共和党多数だ。その結果、トランプ政権は経済成長を促進し、減税を進め、インフラへの支出を増し、規制を整理する能力を高めることができる。

 この展望は現実的かつ重要だ。アメリカの株価が高値を示していることもそれが理由だと言える。

 しかし対外的な状況は異なる。アメリカの国際的な役割の縮小は否定できない。この状態は私がかねて唱えてきた「Gゼロの世界」に近い。GゼロとはG2とかG7というように世界を主導する特定の国家あるいは国家群がもう存在しない状況を指す。

 だが国連のような国際機関の力が強くなるわけでもない。アメリカは元来、多国機関は自国にとって負担であり、不必要な責任だとみなしてきた。トランプ政権はとくにその傾向が強い。新政権の国務副長官への任命が推測されるジョン・ボルトン氏は過去60年間でも他の誰よりも国連の機能を削り落としてきた人物なのだ。だからアメリカの新政権は国連の予算を削り、協力に難色を示すだろう。

 だが中国が国連に関してより大きな役割を果たそうとすることを忘れてはならない。私の個人的な友人のアントニオ・グテーレス新国連事務総長(元ポルトガル首相)は最近、北京を訪問したが、中国側は彼を主要国の元首のようにもてなし、国連は世界でも最重要の多国機関だから中国はあらゆる支援を惜しまないと明言していた。

 だから中国は当面の間は今後の「Gゼロ」状況やトランプ政権の登場を自国のパワー拡大の好機とみるだろう。一方、国連の力は弱くなる。なにしろ国連にとってはアメリカの支援が非常に大きいのだ。

【PROFILE】1969年生まれ。スタンフォード大学にて博士号を取得。同大学のフーバー研究所研究員などを経て、98年に調査研究・コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」を設立。2007年、ダボス会議の「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。著書に『「Gゼロ」後の世界』などがある。

※SAPIO2017年2月号