パートやアルバイトというような非正規雇用が増え続けている現代。いわゆるフリーターと呼ばれているアルバイトやパート以外に、女性に多いのが派遣社員という働き方。「派遣社員」とは、派遣会社が雇用主となり、派遣先に就業に行く契約となり派遣先となる職種や業種もバラバラです。そのため、思ってもいないトラブルも起きがち。

自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

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今回は、都内で派遣社員として働いている杉浦梓さん(仮名・26歳)にお話を伺いました。梓さんは、緩めのウェーブがかかったセミロングの髪型に、ナチュラルメイクは誰からも好かれそうな印象を受けました。ペールブルーのセーターに白いシャツを合わせた着こなしは、どこにでもいるOLと言った雰囲気。コーチのシグネチャー柄のトートバッグには、タオルハンカチや化粧ポーチが綺麗に入れてあるのが見えました。

「今は、結婚待ちの状態なのです」という彼女。埼玉にある実家で、大学生の弟と両親と暮らしています。大学も実家から通っていたので、地元が一番落ち着くと言います。

上司から“お嫁さん向きだね”と言われた梓さん。 “派遣の契約更新のたびに悩む”という彼女に、どうして派遣で働いているのか聞いてみました。

「昔は、自分みたいな”腰かけ”って呼ばれるような女性社員って、いっぱいいたと思うんですよね」

中高と目立つタイプではなく、部活も仲が良かった子に誘われたのでなんとなくバスケをやっていたそう。

「中学は地元の公立に通っていました。特に勉強が好きなわけではなかったので、近隣の県立に受かればいいなって思っていて。塾に通い始めたのも中3になってからです。自転車通学ができる高校に通っていたので、映画も買い物も大宮に出ればいいし、中高とほとんど地元で過ごしていましたね」

大学受験も、自宅から通学できる範囲で選んだそう。

「地元に友人が多かったので、あまり上京したいとか東京の大学に通いたいとかなかったんですよ。家政科に興味があったので、女子大を中心に受験をして栄養学科に進学しました」

彼女は、とりたてて人に言えるような特技や、資格もないと言います。

「栄養士の資格が取れないコースだったのですが、就活の時は面接で“どうして栄養士にならなかったの”って何度も聞かれました。資格の勉強をしなくても、実習が多いコースだったので楽しかったですね」

アピールできる能力がなかったので、大量採用を狙いました。

「就職浪人だけは嫌だったので、採用人数が多い企業を選んだんですよ。販売や流通業界をメインに就活しました」

大学3年から始めた就活でしたが、4年生の時に就職先が決まります。

「百貨店に入社しました。最初の研修はいくつかの売り場を担当したのですが、最終的には子供服売り場に配属になりました」

就職先は、モンスターペアレントの巣窟だった!?

子供服売り場ならではの苦労もあったと言います。

「子供自体は嫌いではなかったのですが、親御さんがちょっと目を離した隙に子供がいなくなるという事があって。物凄い剣幕で“子供が誘拐されたらどうするのよ”って怒鳴られたこともあります」

仕事自体には、不満のない毎日を過ごします。

「3年勤めたのですが、本店と支店の2か所を経験しました。支店の方はファミリー層が多くて、平日の昼間は暇でしたね。正社員の人数が少ないのもあって、休みを取りづらかった以外は、みんなシフトや定時がバラバラなので部署での付き合いとかなかったのが、精神的には楽でしたね」

自分から進んで何かをするのが苦手という梓さん。しかし、将来に不安を覚えます。

「店舗の閉店が相次いで、希望退職を募るようになったんです。自分は年齢的には対象にはならなかったのですが、この先、いつまで働けるのだろうって心配になって」

そんな時、退社を決意させる出来事が起きます。

「配属先が実家から、2時間近くかかる店舗になってしまったんです。最初の数か月は頑張っていたのですが、サービス残業も多く通勤自体に疲れてしまって。遠くの店舗に配属になるのは、いわゆる“自主退社”を促せているんですよね」

地元を大事にしている彼女にとって、一番の悩みが恋愛。

「今、1年、付き合っている彼氏がいるんですよ。新潟県の出身で、実家の工場を継ぐためにいつか実家に戻ると言っていて。向こうはもうすぐ35歳になるので、一度プロポーズされているのですが先送りにしていて。結婚してついていくか、別れるかの二択しかないので迷っています」

実家暮らしなので、料理を作る機会がないという梓さん。栄養学科卒だが、実習はグループで行なっていたので料理は苦手だとか。

彼氏との結婚を意識し、百貨店勤務を退職した梓さん。再び、派遣社員として接客業を始めます。契約更新に胸が痛む理由とは? その2に続きます。