鎌田氏が考える地域づくりとは?

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 諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師がたちあげた一般社団法人地域包括ケア研究所では、「医療・職業・住環境」という3つの要素をベースに人々が本当に幸せな暮らしができる街づくりの実現を目指している。鎌田氏が、これからの時代に求められる医療や福祉による地域づくりについて語る。

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 昨年秋、ぼくは一般社団法人地域包括ケア研究所を立ち上げた。メンバーは、ブランディングのプロやファンドマネジャー、人材教育のプロ、介護の理論家や実践家などだ。

 地域包括ケアシステムとは何か。国は2025年までに全国につくろうと提案している。医療や介護の多職種や、NPOやボランティア団体、地域住民など、いろいろな地域資源をネットワークでつなぎ、歳をとっても、障がいを負っても、地域で暮らし続けられるようしようというものだ。

 なぜ、こうした発想が出てきたのか。団塊の世代が後期高齢者になる8年後、43万人の介護難民がでるかもしれない。でも、特別養護老人ホームなどの施設をどんどんつくるお金はない。だから、身近な地域で何とかしなさい、というのが、国の本音だ。

 だが、ぼくの考えはちょっと違う。30年ほど前から、諏訪中央病院を中心に地域包括ケアに取り組んできたが、やり方しだいでは、地域の課題を解決し、高齢者や障がいのある人だけでなく、だれもが生きやすい社会を築くことができると思っている。

 この考え方は、『社会的共通資本としての医療』(宇沢弘文、鴨下重彦・編集、東京大学出版会)でも述べた。今年は、本格的に地域包括ケアを形にし、あたたかな資本主義へ方向を変える年にしたい。

 医療や介護の世界は、人材不足であえいでいる。特に地方では深刻だ。そうした課題を解決すべく、リゾート地や地方に医師や看護師、介護の専門家を送り込むベンチャー企業を、リゾートバイトで成功している会社と協働してつくる計画だ。

 医療や介護の世界で働く人たちは、みんな燃え尽きそうになっている。そんな人たちに、リゾート地や地方の空気のいいところで3か月〜1年、ゆったりと働いてもらう。元気になったら帰ってもいいし、地方が気に入ったら、そのまま居つくこともできる。

 こうした事業が軌道に乗りだしたら、お金もない、土地もないが、夢はあるという若者に、無担保でお金を融資してもいいと考えている。医療や福祉による地域づくりは、新しいアイデアが求められている。それを応援したいのだ。

 たとえば、日本には約800万の空き家があるといわれる。この空き家を利用して、小規模多機能の介護サービスの拠点をつくったり、シングルマザーのシェアハウスをつくったりする。

 従来、この2つは交流することは少ない。だが、地域包括ケアのネットワークでつないでいくとおもしろいことが起こる。子どもを育てるシングルマザーが、保育園に子どもを預け、小規模多機能施設で働きながら介護を勉強し、ライセンスを取ることもできる。小規模多機能を利用するお年寄りが、子どもとふれあい、簡単な世話をすることもできるかもしれない。

 託児所付きの風俗店などがあるというが、風俗店に負けないサポート体制が必要だ。子育て中の若い親たちがもっと働きやすくすることと、歳をとって必要になる介護の問題を、切り離さずに考えていくことが大切だと思う。

 ぼくが考える地域包括ケアとは、単なる介護問題の解決策ではない。介護をする側もされる側も、住民一人ひとりが地域づくりに主体的に参加するシステムであり、生き方や死に方を自分で決めることができる社会運動でもある。

 自分で判断し、責任をもつこと。それは、服従に抵抗する第一歩である。厳しい世界の動きに流されないためにも、身近な地域でしっかりと地に足を着けていきたい。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。

※週刊ポスト2017年1月13・20日号