2016年の原油価格は年間ベースで45%上昇し、2009年以来最大の値上がりとなった(WTI原油先物価格は1バレル=53.72ドルで終了)。

 その要因は、OPECをはじめとする世界の産油国の減産に向けた協議と、その合意によるものである。だが、期待先行で値上がりしてきた原油価格を維持するためには、今月から減産を公約通り実際しなければならない。

 1月5日に明らかになった昨年12月のOPECの原油生産量は、ナイジェリアの減産などで前月に比べて日量20万バレル減少して日量3418万バレルとなったが、減産合意の水準である日量3250万バレルより同168万バレル上回っている。また、その後、OPEC2位のイラクと3位のイランの原油輸出が増加したことなどが嫌気され、原油価格は3週間ぶりの安値となった(1バレル=51.96ドル)。

 減産合意の実施状況については1月21〜22日にウィーンで監視委員会が開催される予定となっており、少なくとも1月中は減産合意の成否に関する材料で原油価格が動くことになる可能性が高い。

米国が「エネルギー自立」?

 しかし今年全体の原油市場の動きを考えれば、やはり米国の影響力が最も大きいのではないだろうか。

 筆者が注目しているのは米エネルギー省が1月5日に発表した2017年版展望レポートである。それによれば「天然ガスの輸出増加と石油製品の輸入減少を理由に、米国が2026年までにエネルギーの純輸出国に転じる」との見通しを示している。

 米国は1953年以降、エネルギーの純輸入国の状況にあったが、シェール革命により2015年後半から原油輸出が開始され、2016年にはアラスカ州を除く米国本土からの天然ガスの輸出が始まるなど、エネルギーの輸出量が拡大している。原油と天然ガスをトータルで見ると、エネルギー価格が高めに推移すれば2017年頃、低めに推移すれば2026年頃に純輸出国になるという。

 このような状況を踏まえ、米エネルギー省は戦略国家備蓄制度(SPR)の取り崩しを決定し、「今年前半に800万バレルの原油を市場に売却する」ことを通知している。“今後、米国内のエネルギー需要はあまり伸びない一方、エネルギー生産コストの低減が見込まれる”との前提に基づく予測である。

 だが、果たしてその前提通りになるだろうか。

 昨年の価格の値下がりで、米国のガソリン需要は過去最高を更新した。だが、「ガソリン需要はピークを打った」との見方が強まっており、2040年までのエネルギー需要の伸びが低位で推移するとの予測もある。

 エネルギー生産コストについても、シェール企業の生産性上昇が喧伝されているものの、大半のシェール企業が赤字操業を余儀なくされている状況に変わりはない。金融機関はシェール企業への融資に前向きになってきているが、シェール企業の大手は今年も引き続き投資には慎重な姿勢を崩していない(2016年12月29日付ブルームバーグ)。さらに、生産性の高い油田を中心に採掘してきた反動で、今後シェールオイルの生産性が下がる可能性があり、「生産コストの低減」予測は鵜呑みにはできない。

 しかし、このタイミングでレポートが公表された政治的なインプリケーションは大きい。北米圏(米国・カナダ・メキシコ)の原油生産量の合計は世界の4分の1弱(約22%)を占めており、カナダから米国へのエネルギー供給が増加すれば中東依存度はますます下がることになる。「『エネルギー自立』いう目標は手が届くところまで来た」との認識が米国内に広まるのは想像に難くないからだ。

 政治リスクに関する調査会社ユーラシア・グループは1月3日、2017年の世界の「10大リスク」を発表した。それによると、首位は「独立した米国」だった。つまり、トランプ次期大統領のもと米国が世界の諸問題の解決などでリーダーシップをとらなくなる可能性があるという指摘である。筆者は以前から「シェール革命により米国でエネルギー・モンロー主義が台頭する」と主張してきたが、米国が中東地域でのプレゼンスを大幅に下げていくシナリオが一気に現実味を帯びることになるかもしれない。

「米国第一主義」の負の影響

 トランプ新政権に関しては、トランプ氏が掲げる「米国第一主義」の経済に与える悪影響についての関心が高まっている。その最大のリスクは「この改革によって米国経済が潤ったとしても、その他の世界経済が極めて厳しい展開になる」ことである。

 新政権は投資の国内回帰を目指している。これにより米国での生産が刺激され、輸入が減少し、貿易収支の赤字は減少する可能性がある。しかし、製造業の再生に寄与することはあっても、経済の大半を占めるサービス産業の活性化にはつながらないだろう。

 さらに問題なのは、新興国をはじめとする世界経済に与える負の影響である。

 米国への輸出が減少するばかりか、米国の貿易収支の赤字の縮小によって世界に流通するドルが不足し、世界の金融市場での流動性が逼迫する懸念がある。新興国を中心に債務残高が急膨張している中にあって、ドル高や金融市場の「引き締まり」が起きれば、国際金融危機が生じる確率は急上昇するだろう。

 また、米国内では人手不足によるインフレ懸念の高まりから、「3月に米連符準備制度理事会(FRB)が追加利上げを行う」との観測が出ている。昨年12月の米FRBの利上げはトランポノミクスの「上げ潮相場」の影響に相殺され、原油価格の下落をもたらさなかったが、3月の利上げは原油価格にとって大きなマイナス要因である。

懸念されるサウジの「お家騒動」

 サウジアラビアに目を転じると、ムハンマド副皇太子の立場が一層危うくなっている。

 まず指摘したいのは、原油価格が1バレル=50ドル台に回復したことでムハンマド副皇太子が提唱する「ビジョン2030」に対するモメンタムが国内で急速にしぼんでしまったことである(1月5日付ビジネス・インサイダー)。

 米国内の反サウジアラビアの動き(テロ支援者制裁法の成立など)もあって、改革の目玉であるサウジアラムコの株式公開に対する王族内の反対の動きが高まり、ムハンマド皇太子の「経済の脱石油化」の大方針が大きく揺らいでいる。

 外交面の影響力にも陰りが出ているようだ。昨年1月、ムハンマド副皇太子が主導してイランとの国交断絶を行ったとされているが、イランの外交姿勢が変わらないにもかかわらずサウジアラビアから関係修復の動きが出ているからだ。

 一例を挙げれば、昨年12月30日、サウジアラビアの巡礼大臣は「サウジアラビアは、イラン人が2017年の巡礼に参加できるように準備を整えるため、イランの責任者に対して会合に出席するよう呼びかけている」と述べた。イラン人のメッカ巡礼が2年ぶりに復活すれば、両国間の関係は大きく改善されるだろう。

 一方、ムハンマド副皇太子が決定を下したイエメンへの軍事介入への批判は高まるばかりである。英インデペンデント(1月7日付)は「サウジアラビアの政策は中東地域の危機の要因だ」と報じ、その中で「イエメンに対するサウジアラビアの1年以上にわたる攻撃によってイエメンの総人口(2500万人超)の6割が十分な水や食料を得られなくなっている」とサウジアラビア政府を激しく非難している。

 サルマン国王は「愛する我が子(ムハンマド副皇太子)を国王にしたい」と願っているが、ムハンマド副皇太子は期待に応えられていない。今後、原油価格が再び下落し、米国のサウジアラビア離れが鮮明となれば、サウド家始まって以来の「お家騒動」が起きるかもしれない。

 今年の原油市場を巡る諸環境はますます荒れ模様になると筆者は憂慮している。

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筆者:藤 和彦