あらゆるモノにAIが搭載され、あらゆるモノがインターネットにつながっている現代において「まったくインターネットが通っていない場所」を探すのは日本ではもはや難しくなっています。

多くの職場にはコンピュータがあるでしょうし、建設現場でもKOMATSUの建設重機がインターネットにつながっておりビッグデータを活用しています。最近では漁師もiPadを持って船に乗る時代です。

北海道留萌町の漁師たちはiPadを片手に漁にでかける


しかし残念ながら「学校の教室」は、ほとんどインターネットにつながっていません。学校において職員室とPC教室はかろうじてインターネットにつながっていますが、生徒が学ぶ空間として大半を過ごす普通教室にはほとんどインターネットにアクセスできない環境にあります(なお平成21年より文部科学省は学校への携帯電話の持ち込みを原則禁止としています)。

またPISA(経済協力開発機構による国際的な生徒の学習度到達調査)によると「学校ではパソコンを使える状態ですか?」という問いに対して日本は47か国中39位、「家ではパソコンを使える状態ですか?」という問いにいたっては47か国中46位という結果でした。

子どもたちがパソコンを使う環境が学校にも家庭にもない状況下、このまま日本は技術立国という道を歩いて行けるのか不安になります。高校でのプログラミング必修化は平成34年からと決まりましたが、世界に比してやや遅きに失した感が否めません。

また「情報」の教員免許を持っている教員の採用はわずか0.9%に留まっており、体制づくりにおいても今後の課題は大きいでしょう。学校のICT環境が整うことを待つより、まずは家庭から体制づくりをすることが重要です。

コンピューターウィルスやワンクリック詐欺、ネットでの誹謗中傷など、インターネットにおいてマイナスな情報も多いため、子どものうちからインターネットを活用することを危惧する家庭も多いでしょう。しかし、「インターネットは怖いもの」という思い込みを捨てて、「正しい情報リテラシーを学べば、とても便利なもの」と教育していくことが大切です。

この点においては公教育の体制が整うことを待つより各家庭で先行して情報リテラシー教育をすることが重要ではないでしょうか。

オランダは教室にPCがあることが「当たり前」

教育研究家のリヒテルズ直子さんは、その著書『公教育をイチから考えよう』において「オランダの子どもたちに『日本では学校においてICTを活用した新しい教育がたくさんあるんでしょ?』と聞かれた」というエピソードを書いています。

オランダの子どもたちにとっては「日本はコンピュータの生産国」というイメージがあり、その日本ではさぞ先進的な教育が行われていると思っているのでしょう。しかし実際のところはオランダの学校のほうが環境は進化しており、電子ボードがあるのも普通のこと、パソコンもあり生徒が「通常の」授業で使っています。

オランダと日本で何故、そのようなデジタルデバイドがあるのでしょうか。そこには教育に対する考え方の違いがあると筆者は考えます。オランダでは義務教育期間内の8年で「これだけのこと(中核目標)が達成できていればよし」とされるのに対して、日本では各学年での必達ラインのようなものが設けられています。

そのため日本では平均的な学力に合わせて一斉講義をする授業形式が多くみられます。しかしオランダでは「8年かけて達成すればよい」とされているため、学習内容も個別性が担保されており、生徒個々の学力や発達段階に応じた学習が推奨されます。

その結果、パソコンなどのデジタルコンテンツに頼る機会も多く、教室にパソコンがあることは「当たり前」という考え方が根底にあるのです。

平等な教育=不平等な教育

日本の教育のICT活用は技巧派の教員だけがうまく使いこなし、その小難しい手法を広めようと一生懸命研修を行っています。しかし全員が技巧派を目指すのではなく、もっと誰でも普通に使えるようにするのが得策ではないでしょうか。

そのためには「タブレットPCやパソコンをまず設置する」というところから始めるべきでしょう。ところがここにも問題はあります。多くの教育行政において「校舎のWi-Fi化」を担当するセクションと、「タブレットPCの充実」を担当するセクションが分かれています。

前者は主に施設課、後者は主に教具関連の部署が担当しており、それぞれに言い分は「タブレットPCを使いこなすことが出来ないのに何故Wi-Fi化しなきゃならないんだ」「Wi-FiがないのにタブレットPCを購入しても意味がないじゃないか」とすれ違いです。

にわとりが先か、卵が先か、という議論がここでもされているわけです。こういった状況を打開するためには、さらに上のレイヤーでプロジェクトチームをつくるか、Wi-Fi化・タブレットPCのいずれかに先んじて予算を投じなくてはなりません。

島根県ではタブレットPCの充実よりもまず先に県立高校の専有Wi-Fi化を進めることになりました。困難な状況を打開するために、これは英断だと考えます。

また一斉講義の授業形式についても考え直す時期に来ていると思われます。オランダ教育界には「どの子に対しても平等な教育(発達の機会)を与えたいのならば、すべての子どもに不平等な教育をせよ」という言葉があるそうです。

すべての子どもの発育段階は異なるわけで、教室には一斉講義で理解できる子どもとそうでない子どもがいます。個別性を大切にすれば必然的にICT活用も高まってくるでしょう。

あらゆるものにAIが搭載されていくIoT時代

今年もラスベガスで世界一の家電展示「CES2017」が開催されました。毎年約18万人が訪れる大きなイベントで、コンシューマー向けの新しいテクノロジーが紹介されるので注目されています。

今年は各社AIとの融合を図った製品が並んでいるようで、その例をいくつか挙げると、

・AI搭載自動車(TOYOTA)…運転者の状況を見て、休憩や速度減などを忠告してくれる。
・AI搭載冷蔵庫(LG)…食材の残りを判断して、不足をAmazonにオーダーしてくれる。
・AI搭載スマートデバイス(Lenovo)…音声操作でウェブ検索、音楽再生などしてくれる。

などがあります。

その多くがAmazon開発の人工知能Alexa搭載というのですから驚きです。Alexa搭載の展示は700にも上るというのですから、プラットフォーム化の様相を呈してきましたね。

AI搭載スマートデバイスと言えば、最近では「二次元の嫁」というデバイスの発表もあり筆者も大きなインパクトを受けました。
今日の天気を教えてくれ、「今から帰る」と連絡すると部屋の電気をつけてくれる。

今日の天気を教えてくれ、「今から帰る」と連絡すると部屋の電気をつけてくれる。

こんなにもありとあらゆる場所がインターネットにつながり、ありとあらゆるモノにAIが搭載されていくIoT時代において、果たして「人間の『考える力』の価値は一体どこにあるのだろうか」と懐疑的になってしまいます。教育に従事する者として「教育とはなんぞや」の再定義が必要です。

おそらくAI依存が高まると日常の諸作業はどんどんラクになっていくでしょう。運転も買い物も人間自体が考えることなくAIが代わりにこなしていく世の中において、必要とされる力は「想定外の事態に対応できる力」ではないだろうかと考えています。今年は「そのために教育はどうあるべきか」を考える1年にしたいと思います。

 

<プロフィール>

大辻雄介

大手進学塾・予備校に勤務したのち、ベネッセコーポレーションでICTを活用した教育の事業開発を担当。日本初の無料インターネット生放送授業を行い、当時最大15,000人が同時に受講した。その後、隠岐にある海士町へ移住し、隠岐國学習センターの副長として日々生徒の指導を行う傍ら、島のICT活用を推進している。海士町から離島中山間に遠隔授業を配信しており、リクルート「スタディサプリ」数学講師、ベネッセ「受験算数ウェブ授業」算数講師もつとめる。2016年度、島根県情報化戦略会議委員。

テレビ東京系列「クロスロード」2016年10月8日(土) 出演

【連載】大辻雄介の「教育のIoT思議」
第6回:汎用端末か専用端末か

第5回:タンジブルな遠隔授業を。

第4回:AIのある教室

第3回:電子黒板は黒板のIoTではない。

第2回:つながる教室

第1回:教育の未来はIoTにある。
 

 

筆者:大辻 雄介