クリスピー・クリーム・ドーナツのオリジナル・グレーズド

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 JR新宿駅南口にあるクリスピー・クリーム・ドーナツの「新宿サザンテラス店」が1月3日、閉店した。同店は2006年12月にオープンしたため、10周年を迎えた直後での閉店となった。

 かつては、連日2時間近く待つほどの人気で、店頭では店員ができたてのドーナツ「オリジナル・グレーズド」を無料で配っていた。新宿サザンテラスを行き交う人々は、店員から渡されたドーナツを手に、長蛇の列に並んだ。そんな光景を覚えている人も多く、閉店を惜しむ声は多かった。

 開店当初は、“行列ができるドーナツ店”としてもてはやされた。その勢いを借りて、クリスピーは関東を中心に出店を推し進めた。15年11月時点では、全国に64店舗まで拡大したが、16年の春頃から閉店が相次ぎ、20店舗弱が閉店した。新宿サザンテラス店の閉店で、店舗数は46店舗にまで減った。

 新宿サザンテラス店の閉店の理由は公表されていないため真相は不明だが、利益がしっかり出ているのであれば閉店する必要はないと考えるのが自然だ。仮に店舗の賃貸借契約が切れたことによる閉店であれば、より条件の良い近隣物件への移転もあり得るが、そのような予定は発表されていない。

 同店は、世界一の乗降客数を誇る新宿駅南口から徒歩2分という抜群の好立地にある。16年、新宿駅南口には高速バスターミナルの「バスタ新宿」や、新宿駅直結の複合施設「NEWoMan」が開業したこともあり、隣接する新宿サザンテラスは今勢いに乗っている商業地域である。新宿サザンテラスで店舗を構えたいと思う企業は枚挙にいとまがない。

 その新宿サザンテラスの店舗を閉店するという意味は、決して小さくない。同店はクリスピーを代表する旗艦店で、ブランド戦略上、重要な意味を持っていた。つまり、他店舗の閉店とはわけが違う。

 閉店の理由として、まず思い浮かぶのが「業績不振」だ。

 近年、同店の風景は変わってしまっていた。行列ができていたのは昔の話で、昨今は閑散としている状況だった。単純比較はできないが、同じ新宿サザンテラスにあるスターバックスコーヒーと比べると、客数の差は歴然としていた。スタバは昼過ぎにもなるといつも長い行列ができるが、クリスピーではそういった光景を見ることはない。少なくとも、ここ数年は賑わっているのを見たことがない。いつも閑散としていた。客数はスタバの半数以下という印象だ。

 スタバと比較するのは酷かもしれないが、賃料が高額な新宿サザンテラスで営業するためには、相当数の客数がないと利益を確保することはできないだろう。クリスピーは非上場企業で業績を公表していないため詳細はわからないが、客の入りから推察して新宿サザンテラス店の業績は厳しかったと考えられる。

●甘すぎるクリスピーのドーナツ

 クリスピーは、1937年にアメリカで誕生した。創業時から続く秘伝のレシピを基にしたオリジナル・グレーズドを売りに、急成長していった。日本では、ロッテが70%を出資して06年6月に日本法人を設立、同年12月に新宿サザンテラス店を日本1号店としてオープンするに至った。

 その後、すぐに大人気店となったが、日本のスイーツ市場の浮き沈みは激しい。流行っては廃れの繰り返しだ。クレープ、ティラミス、ナタ・デ・ココ、ベルギーワッフル、マカロン、パンケーキといったスイーツが大流行したが、どれもすぐに廃れていった。ドーナツもご多分に漏れない。

 加えて、クリスピーのドーナツは、日本人にとっては「甘すぎる」という意見が大勢を占めている。たとえば、オリジナル・グレーズドは砂糖がたっぷりコーティングしてある。「オールドファッション チョコレート」も、砂糖が分厚くコーティングしてある。ほかのドーナツ店でつくられている一般的なオールドファッションは、砂糖はコーティングされていない。このように、クリスピーの多くのドーナツが甘い仕様になっている。

 ドーナツは、たまに食べる分にはいいが、習慣的に食べるにはカロリーが高すぎるというのが一般的な感覚ではないだろうか。それが甘すぎるとなれば、リピートしにくいだろう。

 コンビニエンスストアが仕掛けた「ドーナツ戦争」の影響も皆無ではないだろう。セブン-イレブンやファミリーマート、ローソンといったコンビニ各社は、相次いでレジ横でドーナツの販売を開始した。それも、クリスピーより30〜50%ほど安い価格で提供している。クリスピーの商品は、税抜き180〜210円程度の価格帯で、価格の高さが浮き彫りとなった。

 客数の減少に伴い、クリスピーは大量閉店を実行した。もしかしたら、新宿サザンテラス店の閉店は、その総仕上げで、再起を図るために避けて通れない道なのかもしれない。ただ、今のままでは「業績が悪かったから閉店した」という消費者の認識を払拭することはできないだろう。大量閉店以外のトピックが何もないからだ。ポジティブな情報が発表されておらず、マイナスの印象だけが残っている。

 こうしたマイナスイメージを覆すのは、一朝一夕ではいかない。日々の営業のなかで地道にファンを増やしていくしかない。そのためには、ドーナツの味の改革に加えて、店舗の質を上げる必要がある。一時的な熱狂ではなく、末長く愛されるブランドになることが求められる。クリスピーは今、大きなターニングポイントにあるといえそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)