ジャガー・ランドローバー社が世界で多額の投資を続ける理由

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先進技術や生産設備に留まらず、クラシックカーの分野までグローバルで活発な投資を行って、快進撃を続けるジャガー・ランドローバー。その日本法人を率いる代表取締役社長マグナス・ハンソン氏に、背景にある意図を聞いた。

ジャガー・ランドローバーとして、フォード傘下から独立して、早くも8年が過ぎようとしている。かつて英国の経済が厳しく多くの自動車メーカーが統合された1970〜80年代においても、ジャガーとランドローバーの両ブランドは独自の歴史を刻み、80年代後半に一旦、フォード傘下に収まるが、再び独立。現在は、タタからの投資を得て、独立した運営のもと積極的な投資を行っているのだが、その"積極さ”が並大抵ではない。

手始めに、お膝元の英ソリハルにアルミ製ボディを始めとする先端軽量アルミ製アーキテクチャ向けの施設をオープンし、その投資額は5年間で15億ポンド(2015年現在)。また4億5,000万ポンドを投じてエンジン工場を2倍に拡張。英国外にも生産工場を新設し、さらに750万ポンドをクラシックカービジネスの本部用土地取得に投じる計画だ。そんな快進撃を続けるジャガー・ランドローバーの背景にある意図とは?日本法人を率いるマグナス・ハンソン社長に訊いた。

「投資することにより、年々成長し続けています。以前はフォード傘下で、プレミアム・オートモーティブ・グループに属していましたが、現在は独立した企業として、独自の戦略で生き残りをかけて戦っています。私自身、自動車産業はインカムゲインではなく、キャピタルゲインに属すると考えています。つまり、生産設備に大きな投資が必要であるほか、ただ自動車メーカーを保有するだけで利益を生むのではなく、企業価値を高めることで資産価値が増し、リターンが得られると考えています」

そのためにはサスティナブルな企業の成長戦略が望まれる。実は、2008年にフォード傘下から独立し、グローバル企業の一員である必要がなくなったことが功を奏した。

「この数年間は特に大きな変化があり、生産台数はフォード傘下の時代と比べ2倍以上になりました。グローバル企業の一員であることは、プラットフォームやパワートレインの共有化などスケールメリットを得られる半面、その選択がジャガー・ランドローバーにとってベストかと聞かれると、疑問でした。

独立した企業となった今は、ジャガーにとって、ランドローバーにとって、それぞれベストな選択ができるようになりました。同時に、エンジン周りの投資は4気筒エンジンに集中させました。米、中、日本、欧州のすべての市場で必要とされる4気筒エンジンをモジュラーで開発することにより、ガソリンとディーゼルで部品の割合や生産ラインの共有化を進めました。一方、V8エンジンが必要な市場は限られるので、モジュール化とは別のアプローチでエクスクルーシブネスを重視した改良を進めています。

日本法人はマーケティング&セールスの機能を果たしますが、世界的に見ても東京のような大きな都市において、メディアの位置づけが変化している点は見逃せません。マス・コミュニケーションから、よりダイレクトなコミュニケーションへと移ってきています。投資の方向を見極めて、優先順位をつけることにより、大きなインパクトを得られると考えています」

非常にアグレッシブな戦略だが、投資や人材のリソースは十分に行き渡っているのだろうか?

「小さな会社ですが、あらゆる方向に大きな投資をしています。その成果は単なる生産台数ではなく、どれだけの利益を上げたか、で測るべきです。ジャガー・ランドローバーは年産約52万台超の小さな企業ですが、プレミアム・セグメントの比率は100%です。例えば、トヨタは力強い企業で、レクサスのような価格帯のブランドも有していますが、果たしてどれだけの利益をもたらしているでしょうか。そう考えると、100%プレミアム・セグメントという重要性を理解していただけるはずです」

コアコンピタンスとなる軽量技術やエンジンについては英国で投資を進める一方で、生産においては、2億4,000万ポンドを投じて英国以外では初となる全額出資の製造工場としてブラジル工場を開設し、現在は、スロバキアにも工場を新設中だ。つまり、将来の成長を見越した投資を先行して行っているのだ。

最も気になるのは、ジャガー・ランドローバーのエクスクルーシブネスを保ちながら、同時に成長できるかだ。ジャガーから初めてのSUVである「F-PACE」が発売され、ランドローバーからは初のコンパクトSUVのコンバーチブル・モデル「レンジローバー・イヴォーク・コンバーチブル」が登場するなど、これまでの両ブランドの文脈にない新しいラインナップが広がっている。

「最新の『レンジローバー・スポーツ』は、世界中でヒットしています。ジャガー・ブランドでは、『F-PACE』のように顧客の要望に応える製品をラインナップしました。同時に、ジャガーにはスポーツカーの歴史があり、レンジローバーには本格派オフローダーというイメージがあります。この良き歴史を将来に繋げる必要があります。

例えば、ランドローバーは"プレミアムSUV”であり、ジャガーは元々がスポーツ・サルーンのブランドです。しかし、限られたラインナップだけで、今の市場を戦い抜くのは非常に難しいことです。過去にはワゴンボディの人気が高かったのですが、各国で激減しています。その一方で、SUVはアメリカのみならず、欧州やアジアでも人気が高まっています。その時代ごとの顧客の望みを汲んで、応えることは自動車メーカーとして当然のことですし、ラインナップを広げて生産台数を伸ばすことは、スケールメリットの確保につながります」

それぞれのブランドの歴史を繙くと、ウイリアム・ライオンズによって1922年に創業されたジャガーは、オートバイのサイドカーの製造からスタートし、1931年に初めて自動車の生産に乗り出し、戦後のレースシーンを席巻した。「E-TYPE」に代表される流麗なスポーツカーに加えて、「XJ」のようなラグジュアリー・サルーンでも名を馳せた。

一方のランドローバーは、第二次世界大戦に前後して、荒れ野を駆け抜ける本格オフローダーを作ることで、自動車メーカーとしての歴史を紡いできた。しかし、その歴史にばかりこだわって、現在の顧客からの要求を無視したのでは本末転倒だ。

ここでひとつ、かねがね気になっていた質問をしてみた。ジャガーは、エクスクルーシブなブランドではあるが、同時に欧州では、高性能であり、スタイリッシュである割に"バリュー”だと評価されている。しかし、日本では高級ブランドとして認識されすぎており、せっかく魅力的なモデルを導入しても”手が届かない”と思われているように感じる。いま再びモデルレンジを広げることで、そのポジションが変わる可能性はあるのだろうか?

「"グッド・バリュー・フォー・マネー”という位置づけは今後も変わりません。『XJ』に代表される1,000万円クラスのラグジュアリー・サルーンを用意すると同時に、昨年には日常使いに優れる『XE』をデビューさせ、モデルレンジを広げました。プレミアム・セグメントなりの価格ですが、競争力がある製品です。なにをもって、顧客が"バリュー”と評するかというと、ジャガーの製品はプレミアム・セグメントにふさわしい装備の充実とパフォーマンスの高さを兼ね備えている点です。

そして最も重要なのが、ジャガーらしいスタイリングを身にまとうこと。我々のデザインチームは非常に優秀で、最高級サルーンゆえに実現できた伸びやかなジャガーらしいスタイリングを、コンパクトなモデルにも落とし込んでいます。お客様はどのクラス、どのグレードのジャガーを手に入れても、価値を感じていただくことができるのです」

確かに、ライバルと目されるドイツ車メーカーの同クラスには、格安のエントリーモデルというのが必ず用意されていて、時折、プレミアム・セグメントとしての装備に欠けることがあるのも否めない。一方、ジャガー・ランドローバー・ジャパンが日本に輸入するラインナップには、極端に安いグレードはないが、どのグレードでも総じてプレミアムカーに適した装備が備わっている。

「戦後まもなく、モータースポーツ・シーンを席巻したレーシング・ジャガーをご存じの方にとってのジャガーはスポーティなクルマを作るブランドです。だからこそ、フォード傘下から独立したあと、まず初めに『F-TYPE』のようなピュア・スポーツカーを開発しました。『XJ』に代表されるラグジュアリーサルーンの歴史をご存じの方にとっては、『XF』のフルモデルチェンジと『XE』の登場により、サルーンのフルラインナップ・メーカーとなりました。

そして今、『F-PACE』を発売することでプレミアム・セグメントの顧客が望むSUVの分野に足を踏み入れました。美しいフォルムにスポーティな特性の足回りやパワートレインを搭載し、スタイリングと性能において、明らかにジャガーとわかるDNAを引き継いでいます。

一方、ランドローバーは元々がクロスカントリー向けのブランドですが、SUVを都市部で乗る需要の高まりに伴って、11年前に『レンジローバー・スポーツ』を発売し、そして現在、『レンジローバー・イヴォーク』に続いて、『レンジローバー・イヴォーク・コンバーチブル』を世に送り出しました。ランドローバーはあくまで本物のオフローダーであり、そこにプレミアムな装備とスタイリッシュなデザインが加味されているのです」

実のところ、もはや、クルマの性能はそう重要ではなくなってきている。それ以上に重要なのは、そのクルマを手に入れることで、いったい何を体験できるか、ということだ。

ジャガーでは、ラグジュアリーな装備を備えた美しくスポーティなクルマに乗ること、ランドローバーでは本格的なオフローダーとしての可能性の高さを、それぞれ体験できる。

クルマのことを知らなくても、美しいクルマでスポーティなドライビングが楽しめ、野山を越えてどこにでも行ける。そうした体験の提供こそが、ジャガー・ランドローバーが次世代に向けて投資する成果となることに期待したい。

[ジャガー・ランドローバー社を数字で見る]

521,571 CARS
2015年4月から2016年3月の世界販売台数は、過去5年間で最大。もっとも販売台数が伸びたのはお膝元である英国を除くヨーロッパ圏で前年比42%。ジャガー『XE』、ランドローバー『ディスカバリー・スポーツ』が特に好調だ。

38,000 PEOPLE
2016年3月時点での、全世界での従業員数は38,000人。2倍の広さに拡張したエンジン・マニュファクチュアリング・センター、ブラジルにすでに新設した工場のほか、スロバキアにも工場を建設中。より生産力を高めていく方向だ。

3,000,000,000 POND
セルフサバイブ、サスティナブルな成長を是としながら、2016年度での投資額は30億ポンドにも達する攻めの姿勢。英国の自動車メーカーとしては最大の投資額であり、今後も海外工場の設立を中心に投資を続けていく方針。

マグナス・ハンソン◎1974年、スウェーデン生まれ。ヨーテボリ大学経済商法学部、同インターナショナルビジネス修士課程を修了後、スウェーデンの自動車メーカーに入社。インフィニティ香港本社にてグローバルセールス・ゼネラルマネージャーを担当。2013年11月より、ジャガー・ランドローバー・ジャパンにて現職。