名古屋「ひつまぶし」セットは悩ましい【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」】

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【カレー沢薫の「ひきこもりグルメ紀行」 Vol.3 名古屋「ひつまぶしセット」】

 先日東京出張から帰ると冷蔵庫に「ひつまぶしセット」と書かれた箱が入っていた。

 結論から言うと、これが今回の名産なのだが、実はこれが担当から送られてきたテーマだと気づかずに食ってしまうところだった。

 平素、道に落ちている物でさえとりあえず口に入れてみる派なので、冷蔵庫にあるものなんて、何の疑問もなく食うに決まっている。出どころなど気にするはずがない。

 だが、すんでの所で、すでに家人により捨てられていた包装紙の宛名に書かれた担当の名前を見て「これが今回のテーマだ」と気づいた次第である。

 また、そこまで気づかなかったのは、毎回テーマは菓子、それも片栗粉を水で溶いた系の地味な物が来ると思っていたので、いきなり「ひつまぶし」なる華のあるものとは思いもよらなかったせいもある。

◆「ひつまぶし」トライアルキット?

 「ひつまぶし」。言わずと知れた名古屋の名産で、うなぎの蒲焼を細かく刻んでごはんにまぶした料理のことである。

 うなぎというのはまず我が家の食卓には並ばない。高いからだ。

 スーパーで買ったとしても1000円ぐらいはするので、どうしてもそれで、豚バラのコマ切れが何パック買えるか考えてしまうのだ。逆に言うと、いつも回しているソシャゲの10連ガチャ一回で、うなぎが3パックぐらい買えるのだが、これは価値観の問題である。

 よってこのうなぎの襲来に、色めきたったわけだが、この「ひつまぶしセット」には幾多の問題があった。

 まずパッケージには思いっきり「一人用」と書かれていた。

 残念ながら、私は夫と二人暮らしである。それに荷物を受け取り中身を冷蔵庫に入れたのは夫であるから、確実にこのひつまぶしの存在を把握している。

 他ならぬうなぎの為であるから「夫を殺害する」という選択肢もあったが、向こうだってうなぎの為ならこっちを消したいだろう、相打ちの恐れがある。

 よって、この一人前のうなぎを二人で分けて食べることとなった。

 それだけでも相当厳しいのに、このひつまぶしセットのうなぎ、1人前にしても量が少ない。

 ひつまぶしセットというよりはひつまぶしトライアルキットである。

◆三切れに対して、食べ方が三種類も…

 もうはっきり書こう「七切れ」だ。かなり小さめのウナギ1枚をさらに七つにカットしている。

 大きさの表現が難しいが、このウナギで局部を隠して外を歩こうと思ったら、モノの大きさにもよるが、大体の人が逮捕されるぐらいと思ってくれればいい。

 しかもまさかの奇数だ。

 私がもらったものなのだから、遠慮なく四切れいただけばよかったのだが、変な見栄と遠慮が出てしまい、ついつい夫に四切れ与えてしまった。

 この時点で私に残されたうなぎは三切れになった、これでは乳首が隠せるかも怪しい。

 さらに、このひつまぶしセット、うなぎの量に対し、食い方の提案が多いのである。

 まずプレーンでごはんにのせていただき、次に付属のネギや海苔などの薬味を載せていただき、最後のこれまた付属の出汁をかけていただくという寸法だ。

 三切れに対し、食い方三種類である。実行するとしたら、うなぎ三切れで飯三杯食うという、どこの貧乏下宿生かという状態になってしまう。

 よってもう、最初から薬味を全部のせ、茶漬けでいただくことにしたのだが、ここであることに気づいた。

 このひつまぶしセット、一人前と銘打ってあるのに、付属のウナギのタレが二袋もあるのだ。

◆タレこそが貧乏人の味方

 古より、うなぎは貧乏人の敵だが、タレは得難き友だと言われてきた。うなぎ本体はなくとも、タレを飯にかけることによりそれはもう「うな丼」なのである。