森の中の男の子(Philippe Put/Flickr)

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 寒の入り前。暖かな陽の差す午後、近所の図書館へ出かけました。

 もう一度読みたい絵本があったのです。

 大きな樹が幼い男の子を老いていくまで見守る話。

 涙で文字が読めなくなるほど心を動かされたのに、どうしても、そのタイトルを思い出せません。

 図書館の児童書コーナーの受付にたずねました。

 「絵本を探しています。子供と大きな樹がでてきて…」

 記憶があいまいで説明は大雑把。

 若い受付の方はその本を知らず、ベテラン司書に助けを求めました。

 「ああ、古い本ね。きっと『大きな木』のことでしょう、こちらです」

 壮年の女性司書は、わずかなヒントで探しあてました。

 どうしてそんなにすぐ見つけられたのでしょうか。

 彼女に尋ねると、その絵本にまつわる思い出を話してくれました。

 「元カレからもらったのよ、よく覚えている…」

 「10代のころ、クリスマスに当時の彼氏からプレゼントされた本で…」

 すでに初版から50年経つ、シェル・シルヴァスタイン著『大きな木(原題:Giving Tree)』は、相手に無条件の愛情を示すことについて説く絵本。

 彼女にとって、絵本の魅力を伝える司書を志すきっかけを与えたそうです。

 いまや地域の子供たちに慕われる「ベテラン司書」のスタートは、この本からでした。

 壮年の女性の胸に残る、若かりし恋の想い出の本。

 絵本を手に取った彼女の顔は、まるで、当時プレゼントされたときの嬉しさが甦ったように見えました。

(文・木上理子)