「Thinkstock」より

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●見解分かれる所有権の放棄
 
 空き家、空き地の増加が目立つなか、所有者が所有し続けることが負担になっており、いっそ所有権を放棄したいとの要求も強まっている。不要となった不動産の所有権を放棄できるかについては明確な規定や判例がなく、学説も定まっていない。今後、管理されない不動産がますます増加していくことを見据え、この議論に正面から取り組む必要性が高まっている。

 民法239条には、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」という規定があるが、仮に所有権の放棄が認められれば、国の所有に移ることになる。不動産の所有権の放棄に関しては、一般論としては、動産で放棄ができるのならば、不動産でも明確に禁じる規定がない以上、放棄はできるとの説が多い。しかし、(1)それはどのような条件の下でできるのか、(2)その手続きはどのようなものかという点について見解が分かれている。
 
 順番が前後するが、まず(2)の手続きについては、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」(民法176条)とあるので、意思表示だけでできるとする見解もある。しかし、第三者に対抗するために行う登記については、現状では所有権放棄の手続きは存在しない。

(1)の条件については、放棄できるにしても、たとえば危険な不動産の場合、もっぱらその管理責任から逃れる目的で放棄するようなことは公序良俗に反し、認められないとの見解がある。「負財」という概念を用い、国が所有することについて同意できないような負の価値を持つ不動産については、放棄できないとの説もある。

 この場合、放棄できるのは、国が持つことについてなんらかの価値を見いだせるもの、あるいは少なくとも持っていてもリスクを負うようなものではないものに限られる。前者の場合、寄付を受け付ける場合の条件に近く、後者を含めれば、それよりは広げた範囲において放棄を認め、国が引き取っても良いという考え方になる。しかし、現状では国は基本的には寄付すら受け付けておらず、より広い範囲で国が引き取らなければならないとなると、国の負担は増す一方である。

●相続放棄による国への移転
 
 現在は、所有権の放棄はしたくとも登記の手段がなく、できない状態になっているが、相続放棄すれば国に引き取ってもらうことができる。相続放棄は不要な不動産のみを選択的に行うことはできず、遺産すべてを放棄しなければならないが、相続人全員が相続放棄して相続人不存在となった場合、自治体などの申し立てによって選任された相続財産管理人が換価して残余があれば、国庫に納付される。

 しかし、相続財産管理人の選任には費用がかかるため、相続放棄後、こうした手続きが行われることは稀である。最後に相続放棄した人は、相続財産管理人が選任されるまでの間、管理責任は残るが、その責任も現状では徹底されているわけではない。相続放棄された不動産が危険な状態となり、そのまま放置されていることも少なくない。

 空家対策特別措置法では、相続放棄された空き家を特定空家(危険な状態のものなど)に認定し、代執行の必要が生じた場合には、所有者不明の場合に行う略式代執行の手続きによることになる。所有者不明扱いなので、費用は請求することはできない。したがって、現状では相続放棄された場合、最終的には公費で取り壊さざるを得ない事態に至る。

 前述のように、相続放棄は選択的に行うことはできないため、現状ではそれが相続放棄に踏み切るハードルになっているが、今後、空き家のほかにめぼしい遺産はないといったケースが増えていけば、相続放棄が増え、管理責任も果たされず、最終的に公費で取り壊さざるを得ない事案が増えていく可能性がある。

 あるいは、相続放棄は選択的にはできないが、必要な財産を遺言書で遺贈したり、生前贈与したりしておけば、必要な財産を確保した上、最後に不要な不動産のみを相続放棄して手放すといったこともできないわけではない。裏技的ではあるが、こうしたことが実際に行われれば、国は使い道のない不動産ばかりを押し付けられてしまうことになる。

●所有権の放棄ルールの必要性

 今後、こうしてなし崩し的に放棄され、国が引き取らざるを得ない不動産が増加していく可能性を考慮すれば、最初から所有権を放棄できる手続きや条件を明確にしておくべきとの考え方をとることも可能である。

 これについては、例えば固定資産税何年分などの費用負担を求めた上で、放棄を認めるなどのアイディアがある。国が引き取ることで国の負担が増していくが、放棄する人に放棄時に一定の費用負担を求めるという考え方である。危険な物件については、その状態を解消するために必要な費用の負担を強いることも必要になってくるだろう。

 また、手続き的には、不動産登記法に所有権放棄による所有権抹消登記の規定を設けることが必要になる。さらに放棄後の管理については、国よりは地域の実情をよく知る自治体が行うほうが望ましいという考え方も出てこよう。

 なし崩し的に放棄された状態になり、管理責任も果たされなくなっていくのは、国土の管理という意味で望ましい状態ではない。一定の費用負担を求めた上で、放棄を認める仕組みを設けるのは、国土の管理を適正に行っていくという意味で正当化できると考えられる。しかし所有者にとっては、費用を負担できない場合には放棄したくてもできず、結局のところ、なし崩し的に放棄され、管理責任も果たされない不動産が増える事態は、こうしたルールを定めても出てくるのは避けられそうにない。

 この問題は、人口減少時代に使われなくなった不動産の処理や管理について、最終的に国や自治体がどの程度関与していくのかということとなる。国土の荒廃を防ぐため、積極的に関与していくべきなのか、あるいは財政負担を考慮して最小限の関与にとどめておくべきなのか。そのバランスをとった仕組みづくりが、今後、必要になってくると考えられる。
(文=米山秀隆/富士通総研主席研究員)

【参考文献】
加藤雅信(2015)「急増する所有者不明の土地と、国土の有効利用」高翔龍他編『日本民法学の新たな時代─星野英一先生追悼』有斐閣
田處博之(2015)「土地所有権は放棄できるか─ドイツ法を参考に」『論究ジュリスト』第15号
吉田克己(2015)「都市縮小時代の土地所有権」『土地総合研究』第23巻第2号