例年1、2月にピークを迎えると言われている「季節性インフルエンザ」。しかし、メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』の著者で現役医師の徳田先生は「肺や心臓、腎臓などの病気を持つ人や高齢者以外は、インフルエンザになったからといって、すぐ病院に行くべきではない」と断言。それは一体なぜなのでしょうか? また、すぐに1回吸入式の抗インフルエンザ薬「イナビル」を処方してもらう人が増えていることや、鼻の穴に綿棒を入れるインフルエンザウイルス迅速抗原検査の精度についても疑問を投げかけています。

肺や心臓、腎臓などの病気を持つ人や高齢者では

毎年流行するインフルエンザ。これを季節性インフルエンザといいます。同じウイルス性である普通の風邪と違って、高熱が出て、倦怠感や咳、そして筋肉や喉の痛みも強いので罹るとつらいですよね。

最近では、病院に受診してインフルエンザウイルス迅速抗原検査を受けて、イナビルという1回吸入式の抗インフルエンザ薬を処方してもらう人が増えています。しかしながら、このような受診行動(受療行動といいます)は必ずしも勧められません。その理由について考えてみましょう。

ただし、肺や心臓、腎臓などの病気を持つ人や高齢者がインフルエンザにかかった場合には早めの医療機関受診をお勧めします。なぜなら、肺や心臓、腎臓などの病気を持つ人や高齢者がインフルエンザに罹ると重症となることがあるからです。

そのような人々ではインフルエンザウイルスそのものによるウイルス性肺炎になったり、インフルエンザの後に細菌による二次的な肺炎になったりするリスクが高くなります。重症の肺炎は死亡することもあります。肺や心臓、腎臓などの病気を持つ人や高齢者が肺炎になると死亡するリスクが高くなります。医師は通常、脱水の補正や抗インフルエンザ薬の投与を行います。細菌による二次的な肺炎に対しては抗菌薬を使います。

若くて健康な人々では

しかしながら、若くて健康な人々ではインフルエンザにかかったとしても数日間で自然回復します。肺炎になるリスクは限りなくゼロです。もちろんゼロではありませんが、大量のインフルエンザの中から健康な人が死亡するリスクは限りなくゼロに近いのです。

でも、高熱、倦怠感、咳、筋肉や喉の痛みはつらいので、薬を飲んで早く治したい、という気持ちが多くの人々にはあります。その気持ちはよく理解できます。しかしながら、膨大な数の臨床研究データによると、抗インフルエンザ薬はこのような症状を平均で約一日短くすることができる程度の効果があるくらいのみです。しかも、そのような効果を得るためには、発症から48時間以内に使用する必要があります。

つまり、5日で治る病気が薬を使うと4日で治るということです。イナビルでもタミフルと同程度の効果があったというデータはありますが、内服薬のタミフルよりよく効くというデータはありません。もちろん、1回吸入式なので、簡便性に優れていることは確かです。それでも、効果としてはその程度なのです。

イナビルの代価

病院に受診しないとイナビルを処方してもらえません。薬代に加えて、診察料、処方箋発行料などもかかります。また、インフルエンザウイルス迅速抗原検査を受けることも多いようですので、その代金もかかります。

若い人々が加入している通常の保険による診療でも合計金額のうち30パーセントは自己負担をしなければいけません。なので、数千円は窓口負担として支払わなくてはならないでしょう。そうすると、自然回復する病気なのに、平均して1日の病気の期間の短縮のために、数千円の窓口負担をしていることになります。

受診は感染拡大のリスク

若くて健康な人々のインフルエンザに対する治療にはもう一つ問題があります。それは、病院に受診することによる二次的な感染拡大です。インフルエンザは流行性感冒ともいわれているくらいですからとても感染力が強いウイルスです。若くて健康な人々も含めてインフルエンザにかかった患者が皆イナビルを求めて医療機関に殺到するとどうなるでしょうか。そのような医療機関が感染拡大のセンターになるのです。

日常的に医療機関では肺や心臓、腎臓などの病気を持つ人や高齢者が通院しています。特に、外来の待合室には体力の弱い人々が集まっています。病気がひどくならないようにと通院している医療機関でインフルエンザに罹る人々が出ています。

「発熱外来」を設置して、インフルエンザ疑いの患者さんを通常の外来通院患者さんと導線を分けている医療機関も多いですが、感染力の強いインフルエンザの患者さんと通院患者の接近を完全に分断することは困難です。

数年前に中東呼吸器ウイルスの肺炎が韓国で流行した事件がありました。中東で流行していたウイルス性肺炎を起こすものです。中東から韓国に入国した患者が韓国のある医療機関に受診した時に外来の待合室で感染を拡大させたのが発端でした。その後の感染拡大も、次々と感染した人々が医療機関に殺到して広がったのです。

迅速抗原検査の欠陥とは

一方で、日本におけるインフルエンザ患者の受診理由として、もう一つ問題があります。検査目的の受診です。鼻の奥に綿棒を挿入して鼻汁を採取して行う、インフルエンザウイルス迅速抗原検査です。

しかしながら、この検査には欠陥があります。検査の感度が低く、偽陰性(見逃し)の割合が多いということです。これまでの臨床データによると、感度は60から70パーセント程度という結果が出ています。すなわち、この検査では30から40パーセントのケースはインフルエンザ診断が見逃されるのです。

このような重大な欠陥がある検査を信頼してはいけないのです。多くの職場でこの検査で陽性結果が出なければ病気休養を取れないというルールを設定しています。そのルールには2つの点で問題です。一つは、インフルエンザにかかった可能性がある健康な人々を病院に行かせることで二次的な感染拡大を促している点。そして二つ目は、この検査で偽陰性結果(見逃し)となった人々に病気休養を与えずに職場での勤務を続けさせて、職場内の他の人々にも感染拡大を広げてしまう点です。

お勧めのインフルエンザ対策

それでは、若くて健康な人々がインフルエンザにかかったなと思ったらどうするか。それは、自宅で休養してください、ということです。水分と栄養を補給して十分に睡眠を取りましょう。呼吸困難や頻呼吸、意識障害などのときにはもちろん医療機関への受診をお勧めします。

インフルエンザ対策でもっとも重要なことは予防です。毎年のインフルエンザ予防接種は健康な人々も含めてみんなに受けるとよいでしょう。また、流行期にはなるべく人混みを避けて、徹底した手洗いを行うとよいですね。

 

文献

Watanabe A, Chang SC, Kim MJ, Chu DW, Ohashi Y; MARVEL Study Group.Long-acting neuraminidase inhibitor laninamivir octanoate versus oseltamivir for treatment of influenza: A double-blind, randomized, noninferiority clinical trial. Clin Infect Dis. 2010 Nov 15;51(10):1167-75.

image by: Shutterstock.com

 

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出典元:まぐまぐニュース!