The New York Times/アフロ

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 今月20日、ついにドナルド・トランプ氏が米国大統領に就任するが、世界、そして日本にどのような変化をもたらすのか。金子勝・慶應義塾大学教授に解説してもらった。

●「アメリカンファースト」

 まず米国内からみていきましょう。トランプ政権の閣僚は、大富豪(Gazillionaire)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)という3つの特徴がみられる「3G政権」になっています。閣僚の総資産は少なくとも131億ドル(約1.5兆円)。オバマ現政権の5倍です。トランプの政策に白人貧困層が騙されていくことになります。

 トランプ氏はツイッターでフォード、ゼネラルモーターズ(GM)を批判し、フォードのメキシコ工場建設を撤回させました。次にトヨタ自動車も批判対象になって、今後5年間に米国で100億ドル(約1兆1600億円)を投資すると正式に表明しました。米通商代表部の代表にはレーガン政権で次席代表を務めて、日本に強硬に圧力をかけたロバート・ライトハイザー氏を起用しました。1980年代のように「アメリカンファースト」の政治的圧力を加えてきて、安倍政権はむしり取られるだけになるでしょう。

 トランプ氏が20日に大統領に就いた後、その日のうちに「TPP(環太平洋経済連携協定)から脱退する意向を通知する」ともされています。連邦法人税を30%から15%に下げるなど、税制改革の実施により10年間で500兆円前後の大規模な減税策を打ち出している。同時に、100兆円規模のインフラ投資も打ち出すために、米国内の金利と物価が上がっています。

 FRB(米連邦準備制度理事会)は、トランプ次期米大統領が今後、数年間にわたって大規模な財政出動を行うとの見方から、参加者17人のほぼ全員が「経済成長の見通しは上振れする可能性」から利上げに賛成。ドル高・高金利で資金が各国から米国に流れます。中国をはじめとする新興国経済、あるいは不良債権を抱える欧州金融機関のドル資金調達は苦しくなるでしょう。

 同時に、この政策は日本に大きな影響を与えます。生命保険などの金融機関は、外国債を買っています。そのため日本の金融機関が日本離れを起こし、外国債を買う。円を売り、ドルを買うので、ますます円安ドル高になっていくでしょう。円安は対米輸出の日本の大企業には有利で、株価は好調にみえるかもしれませんが、国債の買い手は不足します。年越し10日間で総額2兆円超えの国債購入をしたように、ジャブジャブ金融緩和を続ける黒田東彦総裁の日本銀行の国債購入はますます出口を失って泥沼にはまっていきます。金利上昇となれば国債利払い費が急増するリスクが高まるからです。

●プーチン=トランプ=ルペンの新枢軸国が形成されるのか

 トランプリスクは政治にも存在し、それが世界経済に跳ね返ってくるリスクがあります。トランプ氏はロシアとの関係改善に務めると表明しており、まるで冷戦時代に逆戻りして、核大国による世界秩序の再構築を目指しているかのようです。

 さらに、ヨーロッパでドミノ式にトランプショックが発生する可能性があります。トランプと歩調を合わせるような極右勢力が台頭してきており、EU離脱ドミノがどれだけ現実味があるかが、これからの世界経済の境目になります。トランプ氏のツイッター政治に呼応して、仏極右のルペン氏は自動車会社の国内回帰を奨励すると言い出しています。EUの極右には経済政策がなく、トランプがそのモデルを提供するかもしれません。プーチン=トランプ=ルペンの新枢軸国が形成されないように願うしかありません。

 再び日本に戻れば、2020年の東京五輪前に都心商業地の不動産バブルがはじけ、しかもそれが世界的な経済危機と重なる可能性があります。日本では地方経済は疲弊しアベノミクスですべての経済政策を使い果たしているので、ナショナリズムで対処するしかない。例えば、五輪の成功と安全なる開催を金科玉条にして、IS、テロリズム対策で共謀罪を成立させようとか、憲法に緊急事態条項を盛り込もう、といった動きに出る。経済危機の実態を隠し、五輪ナショナリズム的な方向に国民意識を持っていこうとする可能性があります。

 何より底堅い内需をつくるために、エネルギー、農業、福祉など地域に根ざした産業と雇用を創出する、地域分散ネットワーク型システムへの転換を急がなければなりません。
(文=松井克明、協力=金子勝/慶應義塾大学教授)