「北朝鮮の核兵器開発を阻止するには、もはや日本の核武装宣言だけがほぼ唯一の策となってきた」──米国の国際問題評論家の大ベテランがこんな見解を公表した。他の方法では、北朝鮮の金正恩労働党委員長に核兵器開発を断念させることはもう不可能だというのだ。

 その評論家とは、米国の論壇で30年以上活躍してきたチャールズ・クラウトハマー氏である。クラウトハマー氏は1月5日付の「ワシントン・ポスト」に掲載された「冷戦の遺物、現在の脅威」というタイトルのコラムで、北朝鮮核武装の阻止についての意見を発表した。

北朝鮮の核武装を阻止する5つの措置

 北朝鮮の金正恩委員長が年頭に「米国本土に届く核弾頭装備の大陸間弾道ミサイル(ICBM)は開発の最終段階に入った」と言明した。

 クラウトハマー氏はそれを踏まえて、米国は1990年代以来、北朝鮮の核兵器開発を防ぐためのあらゆる努力をしてきたが効果はなく、北朝鮮が核開発を着々と進めている事実を強調する。その例証の1つとして、最近、韓国に亡命した北朝鮮政府の幹部外交官(元駐英副大使)のテ・ヨンホ氏が「金正恩が政権の座にある限り、北朝鮮は核兵器開発を絶対に放棄しない」と証言していたことを紹介している。

 そしてクラウトハマー氏は、北朝鮮の核武装を阻止するための5つの措置を列挙し、それぞれの実効性について解説した。概要は以下の通りである。

(1)ミサイル打ち上げ施設に先制攻撃をかける

 可能ではあるが、実際の戦争へと発展する可能性があり、無謀すぎる。北朝鮮はソウルから北へ50キロほどの地域に大部隊を配備しており、韓国に大打撃を与える可能性がある。その際、米国がアジアの地上戦争に関与する見通しは少ない。

(2)北朝鮮の実験用ICBMを撃墜する

 ロナルド・レーガン大統領が1980年代に提案した米国のミサイル防衛構想は民主党側の反対により実現できていない。だが、北朝鮮が発射した単発の核弾頭搭載のICBMを迎撃することは技術的に可能だ。ただし、迎撃したとしても北朝鮮は反撃として戦争に踏み切る可能性がある。

(3)米軍の戦術核兵器を韓国に再配備する

 1991年の冷戦終結期に、米国は韓国に配備していた戦術核兵器を全面撤去した。戦術核兵器の韓国への配備は北朝鮮への抑止効果があった。再配備は米韓にとって北朝鮮との交渉材料になる。だが、北朝鮮の核開発を止める材料にはなり難い。

(4)中国が北朝鮮に経済的圧力をかける

 経済面で北朝鮮の存続を左右する中国が、核開発を断念するように北朝鮮に圧力をかける。トランプ次期大統領も、中国に対して貿易面で強い圧力をかければ、北朝鮮への経済テコを発揮して核開発を止めさせることが可能だと思っているようだ。だが、中国が北朝鮮をそこまで追いつめる可能性は少ない。

(5)日本の核武装を許容して中国を動かす

 米国が日本の核武装に反対しないと宣言する。この動きは米国のこれまで核拡散防止政策に反するが、中国にとって日本の核武装は最も恐ろしく実現してほしくない事態である。中国はその最悪の事態を避けるために、北朝鮮に本格的な圧力をかけて核武装を止めさせようとするだろう。

米国に迫る深刻な危機

 この中で日本として注目すべきなのは、やはり第5の日本の核武装を許容する措置だろう。

 クラウトハマー氏は、「中国にとって日本の核武装は最悪の悪夢の中の悪夢だ。その悪夢を阻止するために、北朝鮮に徹底した圧力をかけて核開発を止めさせるだろう」と記している。

 日本の核武装宣言は、日本の非核政策や国民の反核感情からみれば現実性の薄いオプションである。だが、米国ではこれまでも折に触れて「日本の核武装は北朝鮮の核武装よりはずっとましだ」とか「中国を動かすには日本の核武装というシナリオの提示が最大の効果を発揮する」という主張が表明されてきた。トランプ次期大統領も、選挙キャンペーン中に日米同盟のあり方を論じる際、「場合によっては日本の核武装も許容する」という趣旨の発言をしている。

 クラウトハマー氏の今回のコラムは、そうした「日本の核武装」許容論の一形態と言うこともできる。

 同時に、「日本の核武装」という従来ならタブーのオプションまで持ち出すほど、北朝鮮の核武装が米国に深刻な危機として迫ってきたということだろう。

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筆者:古森 義久