1

人の目になりかわって視覚障害者を補助する盲導犬は、目の不自由な人にとっては欠かせないパートナーです。しかし、実際の社会では盲導犬や目の不自由な人に対する無関心や差別ともとれる行動が多く発生しているようです。盲導犬と視覚障害者が直面する不自由の実態を、カメラで克明に記録して問題を提起する記事をBBCが掲載しています。

The guide dog that spies on people who ignore its owner - BBC News

http://www.bbc.com/news/disability-38027203

イギリス・ロンドンに住むアミット・パテルさんは2012年、自身の結婚からわずか18か月という時期に視力を失うという不運に遭遇しました。角膜に変形が生じる円錐角膜を罹患し、6回の角膜移植手術を行ったもののいずれも相性が合わなかったため、パテルさんは視力を失うという選択を受け入れざるを得なかったとのこと。

目が見えなくなってしまったパテルさんは半年間にわたってふさぎ込んだ生活を送り、時には人知れず涙に暮れることもあったとのこと。そんな、一変してしまった生活をサポートするためにパテルさんが迎え入れたのが、盲導犬の「キカ(Kika)」でした。



キカと暮らすようになって以来、どこに行くにも連れ立って行動している2人ですが、パテルさんは街を行く人々が盲導犬や視覚障害者に対してまったく意識を向けていないことに気づいたといいます。知ってか知らずしてか、キカに通行人のバッグが当たることも多く、ある時などは見知らぬ女性に引き留められ、周りの人に迷惑をかけていると言いがかりをつけられて謝罪させられそうになったこともあったとのこと。



このような出来事にショックを受けたパテルさんは問題を明らかにするために、街を行き交う人々が盲導犬やパテルさんにどのような反応を見せているのかを記録し、妻であるシーマさんと一緒に確認することにしたとのこと。記録のために使っているのは、GoProのキューブ型カメラ「GoPro Session」です。



ある日、ロンドン駅近辺を歩いていたパテルさんとキカは、宮殿の見学に訪れていた観光客の一行に遭遇。いつも通っている道をふさがれたパテルさんとキカはそれ以上進めなくなってしまい、その場所に立ち尽くすことになってしまいました。カメラには観光客の一行と、付近で案内にあたる鉄道会社「ネットワーク・レール」の職員の姿が収められています。



盲導犬を連れているパテルさんを見かけると、一目で視覚に障害がある人であることはわかるはずですが、案内にあたっている係員ですらパテルさんに声をかけようとはしなかったとのこと。業を煮やしたパテルさんは「係員の人はいますか?」と声をかけました。そこでやっと「どうしましたか?」と声をかけてきた係員にパテルさんは「ここで5分間待っていますが、あなたたちはしゃべっていました」と、困っていた人に意識を向けなかった係員に苦情を伝えます。



パテルさんの苦情に対し、係員は「すみません、あなたの姿が目に入っていませんでした」と答えたものの、ビデオには何度も係員がパテルさんとキカのほうを見ている様子が収められていたとのこと。その様子を後に確認したパテルさんは、相手の目が見えないことをいいことに「私を欺こうとした事実です」と怒りをあらわにしています。特に、目の不自由なパテルさんにとって、誰の助けもなく立ち尽くす時間は実際よりも長く感じられるはず。

苦情を申し入れられたネットワーク・レールは、出来事に関する確実な証拠が必要であると、目が見えないパテルさんに返答したとのこと。ここまでは通常の範囲内の対応と言えそうですが、ここでパテルさんはGoProで撮影した映像を提示し、「これが私に起こったことであり、これは解消されなければならない」と伝えたそうです。



その後、ネットワーク・レールの広報は「この一連の出来事とそれに関連する混乱はロンドン駅によって、あるいはその中で発生した出来事ではありませんが、駅という施設は時に通行するのが難しいほど混雑することがあります。そのため、弊社では乗客を案内するために追加の係員を雇用しています」とコメントし、調査を行ったうえでスタッフの指導を行うと返答したとのこと。

パテルさんは「視覚を失ってわかったことの1つは、いかに孤独になるのか、ということです。公共交通機関で移動する時、私はまるで部屋の隅に恐怖でうずくまっている少年のようになることがあります。身にふりかかる危険や駅の案内を聞き逃すわけにはいかないので、音楽を聴くことすらできないのです」と、視覚障害者が直面する問題について語っています。



駅での一件以外にもパテルさんは、タクシーの運転手に乗車拒否されていたことや、電車で席を譲ってもらえていなかったという事実にも気がついたとのこと。視覚を失ってはじめて気がついた「視覚障害者に対する差別」が存在していることに声を挙げています。