F1ホンダ短期連載(5)
■「マクラーレン・ホンダの2017年展望」

 2017年シーズンの開幕まで、すでに80日を切った。新車が開幕前テストで走行を開始するまで、あと7週間しかない。

 3年目を迎えるマクラーレン・ホンダは、昨年のQ3の常連から、表彰台を狙える位置へ浮上を目指している。英国ウォーキングと栃木県HRD Sakuraでは2017年型マシンの開発の真っ只中にあるが、ホンダの長谷川祐介F1総責任者に新たなシーズンへ向けた展望を語ってもらった。


―― 2017年シーズンに向けて、まずパワーユニットの開発状況はいかがでしょうか?

「2017年のパワーユニットは、コンセプトもパッケージも昨年までとは大きく変化しています。やっていることは正しいと確信していますが、なかなか苦労していてまだ完成していません。この時期に完成していないというのは相当厳しいですし、チーム全体としてもプレッシャーを感じています。

 ただ、少なくともやるべきことがわからなくて、どうすればいいかわからなかった2016年に比べれば、我々が今、作ろうとしているものが完成すれば、かなり競争力の高いものができると思っていますし、あとはそれがちゃんと開幕に間に合うかどうかということです」

―― 車体のほうも昨年はシミュレーションの誤差などが原因で苦戦を強いられましたが、2017年型マシンは大丈夫でしょうか?

「事実として、わからないです(苦笑)。ただ僕は、マクラーレンというチームを信頼していますし、堅実にはできてくるんじゃないかとは思っています。レギュレーションが大きく変わる今年のようなときに、どえらくよくなっちゃうというのは、レッドブルなんかが心配ですね(苦笑)。マクラーレンはよくも悪くも堅実ですから、大きく外すということはないと思っていますけど、『思ったより、どえらくよくなっちゃったよ!』っていうこともないのかなぁと思います」

―― パワーユニットの開発については、いつごろから2017年型の開発を進めてきたのですか?

「正直言うと、2016年にメルセデスAMGには追いつけないなというのは早い段階でわかっていました。もっと抜本的にICE(内燃機関エンジン)の骨格から見直して凌駕するものにしなければならないことがわかったからです。

 ですから、来季に向けた仕込みは早い段階から進めなければならないということで、昨年5月の連休明けには2017年に向けて別動チームでの作業をスタートしていました。もっと早くそちらに(開発リソースの主眼を)シフトしなきゃいけないなと思ったんですが、目の前の1戦1戦で確実に結果を出すことも必要ですし、そのために我々は戦っているわけですから。そのバランスは非常に難しかったですね」

―― ルノーのように2016年型の開発は早々に打ち切って、2017年型に集中しようという考え方にはならなかった?

「う〜ん、なんでそうしなかったのか......。本当に2016年を完全に捨ててしまえばそういう考え方もあったのかもしれませんけど、それはドライバーたちに失礼ですし、見てくださっている方にも失礼ですし、目の前の1戦1戦でベストを尽くすことも重要だと思います。僕らにとっては、技術進化とか長期スパンで見た開発という考え方もありますけど、ドライバーは命をかけて戦っているわけですし、我々としても、少なくともその時点でのベストなものを投入する責任があると思っています」

―― 先ほどおっしゃったように、2017年にメルセデスAMGやフェラーリに追いつくためにはセミHCCI(予混合圧縮着火)のような抜本的に異なる技術が必要ということですよね?

「そう思います。具体的にどんな技術かということはまだ申し上げられませんけど、世間で言われているような新技術は、すべて実際に研究検討しました。昨年5月の連休明けには『2017年用の開発を中心にして、そこから使えるものを2016年型に投入しようよ』という話もしたのですが、さすがにそれはとても間に合わないという判断に至りました」

―― チーム組織としては、トップに挑戦するための準備は整ってきているとお考えですか?

「まだまだです。我々ができていないところというのは、(他メーカーに比べて開発の)スタートが遅かったという時間的な問題が一番大きかったんです。ですから、チームとして根本的に何かが足りないとかいうふうには思わなかったし、時間が足りないのをキャッチアップできる力があるかどうかということ、そしていかに速くそれをできるかということが問題でした。F1チームとして適切ではないということではなくて、この(準備期間の短さゆえに後れを取っているという)状況を打開するためには、技術もそうですし、人もそうですし、時間も予算もまだまだ足りないということです」

―― 組織としてはその力はあるけど、限られた時間のなかで追いつくためには、何か大きなものが必要ということですね。

「そうですね、それが苦しいところですね。もちろん、言い出したらキリがないんですが、時間も予算も人も......天才が一番ほしいかな(苦笑)。我々は普通のスピード以上の速さで開発をしていますし、メルセデスAMGよりも明らかに進化の速度は速いと思います。彼らは2014年を迎える前に4年間なり開発していたと聞いています。しかしこの差を一気に抜き去らなきゃいけないわけで、そのためにはこういう人(ウサイン・ボルトの真似をする)が必要ですよ。

 ジワジワと差は縮まっているし、『よくなってきてるよね』というみなさんからの声はうれしいですけど、やっぱり戦える場に行かないと。そうじゃなきゃ、やっている意味がありませんから。そのためにはまだ2秒速くならなきゃいけない。そういう世界ですからね......。このままコツコツやっていたんじゃ、厳しいなと思いますよ」

―― マシンがいきなり飛び抜けてよくなることは想像しにくいということでしたが、そうなると、今季がQ3のレギュラー定着でしたから、来季の現実的な目標としては表彰台というところになるのでしょうか。

「そうですね、そこを狙うべきだと思います。今の段階で『表彰台を獲れます』とはとても言えませんけど、そのレベルを目標として掲げています」

―― 現実的に考えると、いきなりメルセデスAMGに追いつくというのは難しいのでしょうか?

「いや、そんなことはないと思います。ただ、一番わからないのは、彼らがどのくらい進化してくるかということです。PU(パワーユニット)に関して言えば、今開発しているものがちゃんとうまくいけば、彼らに追いつけると思います。ただ、彼らが今のレベルから想定以上に大きく進化してしまうと、また差が広がってしまいますから。

 2016年はメルセデスAMGだけが飛び抜け過ぎていて、予選(グリッド)でどこにいたって決勝はワンツーフィニッシュという状況でした。フェラーリやレッドブルも普通に走っていれば他に食われることはなくて、3強チームだけが大きく先行していました。その状況はなんとか打開しないと、つまらないですよね(苦笑)。

 ただ、そこの差は縮まると思いますし、3強チームであってもひとつ失敗をすれば、挽回することはそう簡単ではないというくらいの差にはしていかないといけないと思っています。こればかりはフタを開けてみなければわかりませんし、2017年は例年以上に予想が難しいですよね」

―― ファンの人たちとしても、第2期の時のような圧倒的な速さと強さで、『ホンダってやっぱりすごいよね』っていうのを見たいんだと思うんですよね。

「はい、僕もそう思いますし、それをお見せしたいと思っています。でも、第2期のときだってF1でいきなり勝ったわけではなくて、F2から始めてすごく時間をかけて積み重ねていったんですね。他社に対して圧倒的な準備期間があったんです。

 逆に今の我々はまだ、『これなら絶対に負けないよね』と言える段階ではない。『勝つのはたまたま勝つことはあっても、負けるには負ける理由がある』ってよく言うんですけど、その負ける理由を潰していかなければならないし、PUも車体もまだまだ負ける理由はいっぱいあるんです(苦笑)。その負ける理由が全部なくなれば勝てますよ」

―― 遅れている時間を少しでも早く取り戻すことが必要だというお話でしたが、長谷川さんのなかで今、その目標はどのあたりに見えていますか?

「いや、まだ全然見えてないですよ(苦笑)。五合目に行かないと六合目は見えないし、六合目に行かないと七合目は見えないものですから」

―― 今は何合目くらいなんですか?

「今はまだ、五合目くらいじゃないですかね(苦笑)」

―― 山頂に立つのが楽しみです。

「本当ですね。山頂に立たないと。最終目標を申し上げるのは簡単ですよね、チャンピオンです。それを隠す必要はないですから。

 今の段階ではファンのみなさんに応援していただいていると感じていますし、成長と進化の過程を共有して、『まぁ、がんばっているよね』と言っていただいていると感じていますが、これが5年10年続いたら、さすがに『お前ら、いい加減にしろよ』って言われちゃいますからね(苦笑)。そうなる前にはなんとかしないといけないと思っています」

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki