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 突然ですが、「幸福の形はいつも同じだが、不幸の形はそれぞれ違う」という格言をご存知でしょうか? これは正確には格言ではなく、トルストイの『アンナ・カレーニナ』冒頭に出てくる文章、「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」(トルストイ、岩波文庫、1989)が簡略化されて、格言のように人口に膾炙したものです。

 この言葉を知ったのがいつだったか、今となっては記憶が定かではありませんが、聞いた当初はそれなりに含蓄のある深い言葉だな、と感心したのを覚えています。

 しかし、故郷である四国の愛媛県で経営コンサルタントとして活動するようになってから、私はこの言葉に違和感を持つようになりました。理由は、この言葉の「幸福」と「不幸」をそれぞれ、ビジネス上の「成功」と「失敗」に置き換えたとき、現実に起きている現象は真逆だったからです。すなわち、「(ビジネスにおいて)生き残る成功の形はそれぞれに違うが、潰れる失敗の形はどれも似たものである」ということです。

 本稿では、中小企業の具体的な“失敗の形”をいくつか例示し、その底流にあるものを探ることで、なぜ「どれも似たもの」と言えるのか、説明したいと思います。

◆“失敗の形”ゞ叛咾悪いのに、役員報酬がやたら高い

 経営コンサルタント、特に、私のように中小企業診断士という国家資格の下でコンサルをやっている者にとって、主業務のひとつは事業計画書の作成です。事業計画書と一口で言っても、その中には創業計画書、新規事業計画書、中期経営計画書、事業改善計画書などいくつも種類があります。

 中でも作成にもっとも慎重さが要求されるのが、業績が悪化した企業の再生計画である事業改善計画書です。この計画の出来栄えによって、事業再生に欠かせない銀行や取引先といったステークホルダーの協力度合いが変わってきますので、コンセンサスを得ながら、かつ一定のスピード感をもって物事を前に進めていく必要があります。

 その前提になるのが、「なぜ業績が悪化したのか?」を知るための現状分析で、これには過去数年分の決算書が欠かせません。この財務分析時にかなりの頻度でお目にかかる現象として、「業績が悪化しているのに役員報酬が高止まっている」というものがあります。

 これは外形的には、「会社の調子が悪いのに社長だけは高い給料を取っている」ということになり、正直、銀行や取引先の心証を悪くします。現実には、社長だけがいい目を見て従業員はリストラや給与カットで痛めつける、という絵に描いたようなブラック企業は少なく、景気が良かったころに上げた役員報酬をなんとなくそのままにしているだけ、というケースが多いようです。したがって、このような企業の中には役員借入金や未払費用という形で社長の給料を会社に“還流”し、ピンチをしのいでいるところも少なからずあります。

 しかし、これはあくまで一時しのぎのやり方に過ぎません。また、「会社に一時的に貸したことにして、また景気が良くなれば返してもらえばいいや」という経営者の甘えも垣間見える施策です。いずれにせよステークホルダーのウケは悪く、再生計画のカギである金融支援、取引条件変更を得られない可能性が高まります。結果、失敗=倒産への道を早めることになるのです。

◆“失敗の形”△箸砲く社長が数字に弱い

 これには異論のある方も多いのではないでしょうか。実際、私が知っている製造業の社長さんにも、「数字のことは女房と税理士に任せてるよ。俺は現場で人の何倍も努力してるんだ!チマチマ数字のことなんか考えてられるか!」と言って、それなりに経営が上手くいっている人もいます。