2015年のイギリス総選挙で当時若干20歳のマリ・ブラックがベテラン国会議員を破って初当選した時、イギリス国内メディアの反応から、彼女が「話題性」「所属するスコットランド国民党の大躍進に乗っかった」と思われていると感じられた。

一躍注目を浴びた彼女だが、年齢は彼女にとっては些細なことにすぎなかった。目立つような美人でも、貴族の娘でもない、スコットランドのいち大学生だったマリの、何がそんなにすごいのか…?

■きっかけはスコットランド独立運動

マリ・ブラックは1994年、スコットランドのペイズリーで生まれる。政治の世界に入ったきっかけは、スコットランド独立運動。大学生だったマリは独立を支持する「YESキャンペーン」に共感、路上でスピーチを行い、家々を廻っていた。

マリのスピーチの力強さは少しずつキャンペーンの主力メンバー間で話題になり、ある時からマリはキャンペーンを代表して、公共の場やイベントでスピーチを行うようになった。英国残留派が勝利し、スコットランド独立が夢に終わった後も、マリは引き続きスコットランド国民党のメンバーとして労働者階級のコミュニティを廻り続けた。

■難関グラスゴー大学を首席卒業した優等生

2015年の英国総選挙にスコットランド国民党代表として出馬した時には、まだグラスゴー大学で政治を学ぶ大学生だった。彼女の選挙区ペイズリー・レンフルシャーサウスは貧困に苦しみ、市の中心地は不況で閑古鳥、子供の5人に1人が空腹の状態で就寝するという有様だという。

対抗馬は選挙区の現職議員は労働党で元国際開発大臣のダグラス・アレキサンダー。労働党の勢いは衰えているとはいえ、元大臣と女子大生では勝負にならないと思いきや…見事に当選を果たす。マリの当選はイギリスの政界に衝撃を与え、結果的に労働党の凋落の象徴的事件になってしまった。

Well in paisley, proud as fuck. #SNP #MhairiBlack #Paisley

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■冷笑を吹き飛ばした国会スピーチ

議員に選出された後も、マリに対して「話題性だけ」というイメージがしばらくの間つきまとっていた。それを否定したのが最初の国会演説(メイデンスピーチ)。ペイズリー・レンフルシャーサウスの人々の窮状を、冷笑する保守党や労働党などのベテラン議員たちの前で堂々と訴え、スコットランドの一議員から名前は一気に全国区に。

また、スコットランドの議員という枠を越え、政府の高齢者への年金減給に対して、激しく糾弾し、庶民派の政治家としての注目も高まってきている。

"政府は女王の住居(バッキンガム宮殿)を修理するお金があるのに、高齢者に年金が払えないなんて、冗談でしょう? 民主主義というのは、議員が選挙区の人たちの声を届けるものでしょう。この私たちの話し合いの質(の低さ)はどうです?"

■女性や性的マイノリティもアクティブに生きられる国

マリの地元のスコットランドでは2014年の独立投票以来、若い世代も政治に関心を持つ人が増えた。筆者の住むエディンバラ南部では、大学生、高校生だけでなく、小学生までも独立選挙やアメリカ大統領選挙の話題で盛り上がるほど。

スコットランド人の政治への思いは熱く、女性をお飾り議員として投票するような人は少ない。男性だけでなく、女性も熱く政治を語る国で、女性の政治家の活躍も一般的だ。国家元首のニコラ・スタージョンは党派や性別を超えてスコットランドで最も尊敬を集める政治家であり、対立政党の党首であるスコットランド労働党のケジア・ダグデール、スコットランド保守党ルース・デイヴィッドソンはともにLGBTの女性のリーダー。さらに、スコットランド議会の半数は女性議員で占められている。

スコットランドでは女性は男性のお飾りではない。が、だからと言って男性を尻に敷くのではなく、同等の存在としてお互いに敬意を払っている。またマリが過去に「私は同性愛をカムアウトしてない…そもそも隠したことがないんだから」と発言したように性的マイノリティもビクビクしながら生きている訳ではなく、声をあげる場を与えられている。

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私は長年、イギリスで日本からやってきた児童や次世代の若者に接する仕事をしているが、彼女らの隠れたたくましさ、知性と勇気を見るにつけ、ひょっとしたら時代はすでに水面下で変わってきているのかもしれない、と感じている。そう、女性が性別を超えて政治の世界で活躍、そして女性が重要な役割をはたすようになる日が来ると信じている。

出典:マリ・ブラック議員ウェブサイト(英語)