『図解! 業界地図2017年版』(ビジネスリサーチ・ジャパン著/プレジデント社刊)

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■キリンとコカ・コーラの個別事情とは

キリンホールディングス(HD)とコカ・コーラグループが、資本業務提携に動くようだ。アサヒグループHDは、たて続けに海外ビール会社の買収に動いた。その買収金額は、合計すれば1兆円を超す。飲料業界の今後を探ってみよう。

多くの業界がそうであるように、飲料業界でもM&A(企業の買収・合併)が急ピッチで進められてきた。少子化の影響もあり、大きな需要の伸びが望めないことが背景にあることはいうまでもない。

ノンアルコール飲料でいえば、アサヒグループHDはカルピスを、サッポロHDはポッカコーポレーションをそれぞれ買収。日本たばこ産業(JT)から自販機事業と飲料ブランド「桃の天然水」などを買収したのはサントリー食品インターナショナル(サントリーHD傘下)だ。

キリンHDは、ダイドードリンコとの自販機での提携に続き、今回のコカ・コーラグループとの提携協議開始の発表である。大塚HDと自販機で提携している「おーいお茶」の伊藤園、フランスのダノンの出資を受けるヤクルト本社なども含めて、今後も飲料業界の合従連衡がストップすることはないだろう。2009年から10年にかけては、キリンHDとサントリーHDの統合話もあったほどだ。

キリンHDとコカ・コーラグループの個別事情もある。

キリンHDは15年度期、ブラジル事業の不振などもあって500億円に迫る最終赤字を計上したが、「生茶」や「メッツ」「午後の紅茶」などの飲料事業を手がけるキリンビバレッジの不振も影響した。同社の前期の売上高営業利益率は1.5%と、グループ全体の5.6%を大きく下回り、最終損益も2期連続の赤字だった。16年度期は3%には乗る予定だが、6%前後で推移しているサントリー食品インターナショナルに比べれば、依然として低い水準にとどまる。そのため、店舗や自販機への共同配送によるコストカットなどで収益力のアップを目指したい、というところだろう。

破談になったサントリーHDとの統合交渉では、医薬事業の切り離しを求められたとされるが、その医薬事業やビールに劣らないほど、飲料事業を利益体質にするのがキリンHDの緊急の課題だ。

米国コカ・コーラの日本法人、日本コカ・コーラは、国内における飲料トップシェアの維持がテーマ。本社の最大のライバルであるペプシコ(米)はサントリーHDと関係が深いだけに、三菱グループのキリンHDと組むメリットも考えたのだろう。製造販売を担うコカ・コーライーストジャパンとコカ・コーラウエストは、17年4月に経営統合し、コカ・コーラボトラーズジャパンとして出発する。

■世界大手に国内大手3社はどう挑むのか?

今後を占う意味でも、キリンHD、サントリーHD、アサヒグループHDのこれまでの経緯を確認しておこう。2010年12月期から15年12月期の6年間における、主な経営指標をまとめてみた。

キリンHDの6期合計の営業キャッシュフロー(CF)は、1兆1586億円である。営業CFは、企業の本業による正味のキャッシュ獲得額を示すものである。そこから投資に5754億円を支出(投資CF)。配当や金融機関への返済にも5382億円を充当したというのがこの6年のキリンHDである。ちなみに、6年間合計の納税額は3013億円である。

ただし、この6期で売上高はわずか0.8%増と、ほぼ横バイの推移だ。総資産や有利子負債を減額するなどスリム化を進めているが、利益の蓄積を示す利益剰余金、いわゆる内部留保も30%を超すマイナスである。オーストラリアやブラジルでM&Aを手がけたが、想定通りに進んでいないことが背景にある。

サントリーHDは、子会社のサントリー食品インターナショナルを上場させる一方で、バーボン世界大手のビーム(米)を約1.6兆円で買収したこともあって、6年間合計の投資への出金は2兆円を超える。営業CFで獲得したキャッシュの2倍規模である。そのため、新規の借入金が返済額を上回ったために、財務CFは入金超を示す黒字になっている。事実、有利子負債は約3.6倍。同時に資産もおよそ3倍。売上高は54%増、利益剰余金は90%近い伸びである。キリンHDとは対照的な推移である。

アサヒグループHDは、営業CFで獲得したキャッシュの範囲内で投資に出金。それでいて、売上高や利益剰余金を増やしているように、効率よく稼いできたといっていいだろう。

3グループは成長の軸足を海外に移し、積極的に海外M&Aを推進。海外売上高比率も徐々に高めてきた。その海外展開の巧拙が経営成績に直結していると見ることもできる。オーストラリアやブラジルに進出したキリンHDがつまずき、「オランジーナ」や「ジムビーム」など欧米を中心に攻めるサントリーHDが売上高を伸長。やや遅れた海外展開だったがアサヒグループHDも、欧州に本格進出する。16年10月にアンハイザー・ブッシュ・インべブ(ベルギー)と経営統合するSABミラー(英)の欧州ビール事業の買収作業を完了している。買収額は約3000億円である。

それから時間をおかず12月にはやはり、SABミラー傘下のチェコ、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、ルーマニアのビール事業を買収すると発表。世界的な有名ブランド「ピルスナーウルケル」も含まれるこれら中東欧5か国のビール事業の買収に要する費用は73億ユーロ(約8883億円)。買収資金は手持資金だけでは賄えず、借入をする。有利子負債は、サントリーHDの2兆円までは膨らむことはないだろうが、大勝負に出たということだ。

『図解! 業界地図2017年版』にもあるように、ノンアルコール飲料では、世界的にはネスレ(スイス)やペプシコ、コカ・コーラなどが待ち受けている。売上規模はネスレ10兆円、ペプシコ7兆円、コカ・コーラ5兆円だ。営業利益率はいずれも10%台である。SABミラーを実質的には飲み込んだアンハイザー・ブッシュ・インベッドの売上高は7兆円を突破する。売上規模も利益率も高い世界大手を相手に国内大手3社はどう挑むのか。M&A戦略を含めて、注目したい。

(ジャーナリスト 鎌田正文=文)