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「自分の体内の狙った獲物だけを撃ち抜き、周囲を全く傷つけない銀の銃弾」と表現されるのが、がん治療における「CAR-T療法」です。実験段階にある免疫療法の1つなのですが、2017年にもFDAの認可を受け、実際に医療の場で用いられることになりそうです。

Experimental Cancer Treatment That Terminates Rogue Cells Could Arrive in 2017 - Seeker

http://www.seeker.com/a-biologic-assassin-car-t-cell-turns-immune-system-against-cancer-2161950283.html

キメラ抗原受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細胞療法

(PDFファイル)http://s-igaku.umin.jp/DATA/61_04/61_04_02.pdf

CAR-T療法に関しては、記事作成時点において、世界で100以上の臨床試験が行われています。その中でも2017年に認可が下りそうなのは、バイオテクノロジー企業Kite Pharmaが開発している治療法です。

CAR-T療法は、体内のT細胞を、がんを攻撃する「キラーT細胞」として教育し、増殖・活性化させることでがん細胞を殺すという「CTL療法」を発展させたもの。もともと体内に存在するT細胞の中でがんを攻撃するものは少ないため、漠然とT細胞を活性化させ増殖させたのでは、がんと戦えません。そこで、CTL療法では患者の体内にいたがん細胞と「型の合う」T細胞だけを培養し、体内に戻すことで治療を行います。

しかし、体外から侵入してきた異物であるウイルスとは異なり、がん細胞は自分の体の一部が変化して生み出されたものです。そのため、ウイルスなどに比べ、CTL療法ではがん細胞に対して免疫反応が起こる確率が低いという結果が出ていました。また、がん細胞は免疫に対して抵抗する「免疫逃避機構」を持っており、免疫逃避機構によって免疫細胞が正常に働かなくなることも近年の研究で明らかになってきました

そこで生まれたのが、患者から採取したT細胞に遺伝子操作を加えて体外で培養し、再び患者の体内に入れるという「CAR-T療法」です。CAR-T療法のCARは、Chimeric antigen receptor(キメラ抗原受容体)の意味。キメラ抗原受容体を持つT細胞は、がん細胞に出会うと細胞傷害性たんぱくを放出することで、がん細胞を死に至らしめます。2013年に発表された研究では、CAR-T療法はこれまでに行われてきた抗体療法よりも抗腫瘍効果が強力であると語られています。



by ZEISS Microscopy

ただし、CAR-T療法は全ての患者に対して有効というわけではなく、現在のところ、既存の最新治療がうまく機能しない患者に対して行われる予定です。ノースウェスタン記念病院のがん専門医であるジェフリー・ソスマン氏は「時間の経過と共に扱いが変化するかもしれませんが、今のところ、これは病気に対する一次療法ではなく、最初の治療に失敗した患者に対して行われる二次治療です」と語っています。

また、CAR-T療法が行われる患者はいくつかの副作用に耐えるだけの体力があることも必須条件です。副作用には、高熱・低血圧・肺水腫・心不全などさまざまなものがありますが、最悪の場合は死に至るほど衰弱してしまうとのこと。これらの症状はいくつかの免疫療法によって引き起こされるサイトカイン放出症候群と同様のものです。

さらに、CAR-T細胞はがん細胞に含まれるタンパク質を標的として攻撃を行いますが、もし標的とされるタンパク質ががん細胞以外の中で見つかると、それが健康な細胞であってもCAR-T細胞による攻撃の的となってしまう危険性があります。臨床試験ではCAR-T療法によって回復した患者は多く存在しますが、回復した患者の中にも治療中に健康な細胞が攻撃された事例は確認されているとのこと。標的を狙う正確性を上げていくことが、今後の研究の課題となっています。また、2016年に行われた臨床試験中には6人の患者が亡くなっており、2015年にKite Pharmaが行った臨床試験でも患者が亡くなっているのですが、同社は患者の死因は治療ではないとしています。

そして、臨床試験の結果から、CAR-T療法が最も効果を発揮するのは急性リンパ性白血病や非ホジキンリンパ腫を含むリンパ系腫瘍であることが判明しています。これらのがん細胞はCD19と呼ばれるタンパク質を含んでいますが、他のがん細胞は別のタンパク質を有しているので、CAR-T細胞が攻撃を行うためには細胞をリプログラミングする必要があります。CAR-T細胞が標的となるタンパク質を判別できるようにするこの部分が、非常に難しいところだそうです。

CAR-T療法にはまだ課題が残されているものの、うまく機能することが証明されれば既存の抗体療法で患者が疲弊する前に、CAR-T療法で効果を得ることも可能と見られています。また、免疫系は人によって違いがあるため、将来的には化学療法や外科手術、放射線療法に置き換わる形で、個々人の免疫系やがんの特色にあわせた治療が行われる可能性も考えられます。



by Jiri Linhart