ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマー氏 Dirk Eusterbrock

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「G2」と言われたアメリカも中国も、その他の国々も、世界でリーダーシップを発揮することができない──そんな「Gゼロ」の時代をかねて予見していたイアン・ブレマー氏。同氏に新たな1年の国際社会の見通しを、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が聞いた。

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 アメリカ主体の米欧の集団防衛組織の北大西洋条約機構(NATO)をトランプ氏はそう重視はしていない。

 アメリカはNATOの同盟諸国よりもロシアに接近して安全保障を考えるようになるかもしれない。だが米欧諸国がNATOを基盤に安全保障政策を共同で進めることは続くだろう。とくにテロ対策やサイバー攻撃対策ではNATOのきずなは大きいと言える。

 だがNATOはトランプ政権下ではグローバルな安全保障を考える組織としては重要性を減らし、外部からの種々の圧力に悩まされる存在となろう。

 テロリズムも新しい年の深刻な課題だ。アメリカ大統領選中はIS(イスラム国)などのテロ組織はトランプ候補の反イスラムの扇動的な発言を資金や人員の募集手段として利用していた。そのトランプ氏が大統領になるのだから、イスラムの過激な暴力組織は活動拡大のためにさらに魅力的な材料を得ることになる。

 中東のいくつかの国での経済問題や果てしのない衝突は新たなテロ組織にも活動の余地を与えることになる。アメリカやその他の諸国はイラクやシリア領内でISと戦い、かなりの成功を収めた。このことはもちろんプラスの材料だが、2017年にはやはりテロは増えるだろう。

 そんな情勢下で日本は他の大多数の諸国よりも安定している。周知のように安倍晋三首相は11月に世界各国でも最初の政治指導者として当選後のトランプ氏と会談した。安倍首相にとって重要なTPP(環太平洋経済連携協定)をトランプ氏が抹殺しようとするにもかかわらず、同首相は会談に臨んだわけだ。

 安倍首相はトランプ氏との会談でTPPは論ぜず、日米両国間の信頼や二国間関係の大切さを語りあった。安倍氏は自国内では人気が高く、ポピュリズム(大衆迎合主義)を心配する必要もない。移民問題も民族政治問題もなく、中間層が不安定となって政治不安を招くという欧州のような問題に悩む必要もない。

 だから安倍首相は強い立場にあり、トランプ新政権の政策に未知の部分があっても、まず世界でのアメリカの役割の重要性を認め、その旨をトランプ氏に伝えたわけだ。同氏はそのことをとても感謝したと思う。だから日米関係の展望はきわめて好ましいと言える。

 ただし、もしトランプ新大統領が対中政策を真剣に再考し、台湾支援を強め始め、米中関係が悪化して、貿易戦争だけでなく軍事的な緊張までが高まったとき、日本はどうするか。これは日本にとっての重要課題だ。だが、トランプ新大統領との関係は日本にとって心配はそうないだろう。

【PROFILE】1969年生まれ。スタンフォード大学にて博士号を取得。同大学のフーバー研究所研究員などを経て、98年に調査研究・コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」を設立。2007年、ダボス会議の「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。著書に『「Gゼロ」後の世界』などがある。

※SAPIO2017年2月号