ハーバードの教科書になった日本人 「アストロスケール」岡田光信

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世界各地で事業者が小型衛星を打ち上げる「コンステレーションの時代」。世界が黙殺してきた「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」の解決への道筋とは。

2016年3月、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の大講堂で講義を聴いていた学生たちが、隣の席から回ってくるテキストにサインをしては、バケツリレーのように回し始めた。テキストがまるで色紙の寄せ書きのようにサインで埋まっていく。学生たちは講義に共鳴した証しとして、それを講師に贈ったのだ。

HBSが講師として招いたのは、アストロスケールの岡田光信だった。シンガポールを拠点に、宇宙ゴミ(スペースデブリ)の解決に挑む企業として世界的に注目を集める人物である。HBSがテキスト化した宇宙ベンチャーは、「ブルーオリジン」を設立したアマゾンのジェフ・ベゾス以来、2人目。しかし、打ち上げ実験に成功したブルーオリジンと違い、岡田たちはまだ宇宙に飛び立っていない。
 
では、なぜ岡田のビジネスモデルが称賛されるのだろうか。

「コンステレーションの時代が来ます」と、岡田は宇宙環境の激変を説明する。

「現在、運用中の人工衛星は約1,300基です。これまでは大型の人工衛星を打ち上げ、それが東京上空を一日2〜4回通るというイメージでした。しかし、衛星コンステレーションとは一社で数十から数千基の小型衛星を打ち上げて地球をカバーし、常時接続しようというものです」
 
例えば、スペースXは衛星インターネット網を構築するため4,000基以上の人工衛星を配備する。1社あたりが配備する超小型衛星が数十から数千となる宇宙インフラの基盤構築を「衛星コンステレーション」という。軌道を高速道路に例えるならば、1,300台しか走っていない道路が、帰省ラッシュ時のようになるようなものだ。

だが、道路のような細かいルールがないうえ、一定の確率で衛星は故障し、宇宙のゴミとなる。秒速8キロで飛ぶゴミは凶器となり、衝突、破壊、増殖を永遠に繰り返していく。問題は、世界がこの問題を見て見ぬふりしてきたことだ。

「1950年、宇宙にゴミはありませんでした」と岡田は言う。現在、10センチ以上のゴミは約23,000個。1センチ以上10センチ以下は50万個以上が放置され、凶器と化している。地球の軌道は極めて危険になり、72年以降、人類は月面に立っていない。だから、彼はこう言うのだ。

「僕らは高速道路のJAFと同じ。壊れた衛星を除去して、安全を守るのです」

「共有地の悲劇」の解決は民間企業にしかできない

「ゴミを除去する技術、設備、資金、飛ばす衛星、組織。それぞれの要素の規模が頭の中でピタッと合致してプラン化できたのが、2014年でした」と岡田は言う。

ユニークなのは衛星を除去する技術と、岡田のアイデアを支えるチームが地方の中小企業や国境を越えた技術者たちに広がる点だ。「日本中を本当に歩きましたよ」と、彼は苦笑する。岡田が考案したのは、「とりもち」のように特殊粘着剤で衝撃を緩和しながらゴミを捕獲し、大気圏に落とすことで”焼滅”させるものだ。

「世界中の化学メーカーを回ったのですが、聞かれるのは『何トンいるのか』でした。多くの人のつてを頼って、ある粘着剤の研究者にたどり着き、『どこだったらつくってくれますか?』と名前を聞き出し、すぐに電話をするようにしたのです」

電車を乗り継ぎ、地方の中小企業を訪ねたとき、初老の職人気質の経営者から岡田は「あなたに惚れた」と言われて、協力を取り付けた。もちろん、岡田が「デブリ問題というものがありまして」と、一から説明すると、変人扱いする者もいるが、地方を歩くと、共鳴して力を貸してくれる研究者や経営者はいたのだ。