トークショーに来場し大映映画の魅力を解説した美術の種田陽平

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 世界的に活躍する美術監督・種田陽平が8日、角川シネマ新宿で開催中の特集上映「溝口健二・増村保造映画祭─変貌する女たち─」のトークショーに来場、世界的評価が高い大映映画の魅力を解説した。

 旧大映や角川映画の豊富なライブラリーを次世代に継承する「角川シネマコレクション」劇場上映企画第5弾となる今回の映画祭は、師弟関係にあった溝口健二、増村保造という大映の黄金時代を彩った両巨匠の作品を上映。ジャン=リュック・ゴダール監督の『気狂いピエロ』に引用されたことでも有名な溝口監督の傑作『山椒大夫』上映後にステージに立った種田は「僕は80年代に映画界に入ったから、(1971年に倒産した)大映京都のことを直接は知らないんですが、伝説のように聞くのは、美術・照明などに予算や手間をものすごくつぎ込んでいたということ。黒澤明監督が初めて海外で賞をとったのが、大映のスタッフと組んだ『羅生門』だったのはそういうことだと思う」と大映美術のレベルの高さを指摘する。

 黒澤明、小津安二郎、市川崑など名だたる巨匠たちの作品を手がけた名キャメラマン宮川一夫が本作で作り出した映像を「絵画的」と評した種田。本作で安寿役の香川京子が湖の中に入っていくシーンにおいて、手前の竹を墨汁で塗りつぶして水墨画的雰囲気を強調したという例をあげて、「特に『雨月物語』と『山椒大夫』はそうなんですが、どのカットも絵のように作り込んでいているのと、開放的な奥行き感を設計しているのがこの映画の圧倒的なすごさ」と解説する。

 さらに種田は、実際の劇中写真を使用して、一般的な映画のスクリーンサイズを解説。溝口監督が映画を制作した当時の映画のスクリーンサイズがスタンダードサイズ(1.33:1)で、絵画のキャンバスと極めて似たサイズだった、と指摘した種田は「だからどうやっても絵画的な構図になるんです。でもそれからスクリーンサイズは変遷を続けていて。今はテレビのハイビジョンとの差別化を図るためにシネマスコープサイズ(一般的に2.35:1の横長のスクリーンサイズ)が主流になってきている。でもこれだと絵画的な画面にはしづらいんですよね」と説明。

 しかし種田は、『妻は告白する』などで知られる増村監督が、師匠の溝口健二とは別の路線を目指し、シネマスコープの横長の画面を生かした密室性の高い画面作りに挑んでいた、と指摘する。「溝口作品における開放感あふれる画面に比べて、増村作品はシネマスコープの画面をアパートなどの室内で埋め尽くすような密室的な画作りをしている。『妻は告白する』でも、このサイズが、若尾文子さんが横たわるベッドシーンにもピッタリだった。増村監督には有名な話があって、現場に行くといつも自分でぞうきんを持って必死に壁を磨いていたんだそうです。それがあの奥行きのない壁の圧倒的な描写につながっている」と指摘する。

 そんな流れから種田が美術監督として参加した『ヘイトフル・エイト』のクエンティン・タランティーノ監督の話に。「彼は増村映画の大ファンらしくて。特に『盲獣』が大好きらしいんですね」と切り出した種田は、『ヘイトフル・エイト』の撮影の際に「絵になるような広くてステキな画面もセットもいらない。役者のアップから入るから」と言われたというエピソードを振り返り、「それって増村作品のオープニングと一緒ですよね。壁がアップになっても大丈夫なように磨いてくれと。増村さんと違って、クエンティンは自分で壁を磨いたわけではないけど、それでも今でも増村はいるんだなと思いましたよ」としみじみ付け加えた。(取材・文:壬生智裕)

特集上映「溝口健二・増村保造映画祭─変貌する女たち─」は角川シネマ新宿にて開催中