ありきたりの京都の旅はもう飽きた! そんなオトナ女子のみなさんにちょっと通な京の宿を紹介しているシリーズ2回目。禅寺に泊まる宿坊を取り上げた前回に続き、今回は奥ゆかしくてリーズナブルな町屋に泊まる京旅をご提案します。

消え行く京町屋

京都の街に今も残る伝統的な家屋「町屋」。家の二階部分に見える虫かごのような縦格子の虫籠窓(むしこまど)や、竹の囲いで家の壁を雨水の跳ね返りから守る竹の犬矢来(いぬやらい)など、特徴的な佇まいは古都の風情をいっそう味わい深いものにしています。

京都の人々が代々大切に受け継いできた町屋ですが、日に日に取り壊されてその姿を消しているのが現状です。国土交通省が行った調査によると1995〜1998年に確認できた約 2万8000 軒弱の京町家は、5年後に約 4200 軒に減少。更地にされた後は、駐車場や新たな住宅に建て替わっているそうです。

京町家を買い取り、旅館にした十四春旅館

地下鉄五条駅にほど近い路地に建つ十四春旅館も、一度はそんな危機を迎えた京町家でした。もともとは製薬会社の社長の別宅として、1909年(明治42)に建てられました。その後、家業が思わしくなくなったものの屋敷が人手に渡るのを惜しんだ家主が現・十四春旅館の先々代に相談。意匠を凝らした素晴らしい建造物を保存しようと買い取り、一部を改築して旅館を開業したのだといいます。

門構え

宿として使われるのは、2005年に国の登録有形文化財に指定された入母屋総2階建て切妻造りの主屋と土蔵。同じ年には高塀が、京都市の歴史的意匠建造物に指定されています。

文化財の宿で過ごす、とっておきの時間

十四春旅館のチェックインは16時から。門をくぐると、玄関まで続く延段(のべだん)と呼ばれる石張りの小道がお出迎え。

玄関

季節の草花をしつらえた玄関に、どこか不思議な懐かしさを感じます。客室の数は全部で9部屋。個人宅だった建物を旅館にしているため、どのお部屋も見える景色や装飾などが異なっています。

お茶とお菓子

部屋に通されると、旅館からお抹茶と和菓子のサービスが。美しい中庭の植木を観ながらの一服はまた格別です。

浴衣やタオルなどのアメニティもすべて部屋に一揃いセットされ、ハブラシやシャンプー等も洗面所と浴室に用意があるので、滞在に不便はありません。

部屋

お部屋に着いたらぐるりと部屋を見渡してみてください。十四春旅館は、欄間や引き手の凝った意匠も見どころの一つ。1階の玄関に面したお部屋には、襖の引き手にコウモリが隠れていました。

コウモリ

せっかくなので、自分のお部屋だけでなく旅館の中も探検してみましょう。古い建物によくある天井の低い階段を登った先には、磨き抜かれた廊下が姿をあらわします。手すり越しに立てば中庭の花木の深い緑や、移ろいゆく時の流れを見守ってきたであろう石灯籠。これらを眼下に見ることができ、ほかでは味わえない和の情緒を感じるはずです。

廊下からの眺め

廊下から観ることができる白壁の土蔵も客室として使われていて、とても人気があるのだとか。十四春旅館の隣にある建物も取り壊しが決まったそうで、こうした美しい景観をいつまで楽しめるかわかりません。

廊下からの庭、蔵

廊下の突き当りにある階段を降りると、入浴施設があります。洋風のバスルームと、ヒバの木の香りがリラックスできる和風のお風呂の二つを利用することができます。

ライトアップ

夕方からは玄関や中庭をやわらかな光でライトアップ。庭の草木や灯籠が昼間と違った表情に変わり、観る者を楽しませてくれます。

夜の食事は用意がないので、外へと食べに出かけましょう。ただし、宿の門限は0時。ホテルと違って、時間になれば鍵を閉めてしまいます。また、入浴施設が湯を落とすのも0時なので、少し早めに戻ってくるのを忘れずに。朝風呂に入りたい場合にはあらかじめ女将に相談しておくとよいでしょう。

お風呂

お風呂に入るときには、入り口に使用中の札を下げて入浴します。手足をのばしてヒバの香りがする湯船に浸かると、一日観光で歩きまわった足の痛みも瞬時に吹き飛びます。

翌朝いただく「京おばんざい」風の朝食

魅惑的な飲食店での楽しいひとときやライトアップを観がてらの散策など、いつも夜更かし気味になる京都滞在。でも、門限があるおかげで早めに部屋へ戻るからたっぷりと体を休めることができます。

おばんざい朝食

スッキリと目覚めたら、薄白い朝の陽の光が差し込むお部屋で、女将と若女将が腕をふるう京都の伝統的な朝ごはんをいただきましょう。炊きたてのごはんやお味噌汁、だし巻き卵、お豆腐、旬の食材を使ったおばんざいはどれも絶品。この朝食を食べるのを楽しみにして泊まる人が多いというのも頷ける話。素泊まりの予約をしていても、チェックイン当日の18時までに希望すれば朝食を2300円で準備していただけます。

ランプ

チェックアウトの時刻は11時。門まで見送ってくれる温かいおもてなしに、きっと「またここに泊まりたいな」と思うはずです。

エリア観光で知る京都とは違う、人々が大切に受け継いで暮らしている京町家。一晩でも滞在すれば、素の京都の息遣いを体感できることでしょう。

十四春旅館
京都市下京区諏訪町通り松原下ル弁財天町326
TEL:075-341-5301