英国のEU離脱決定や米大統領選におけるトランプ氏勝利と、2016年は波乱の一年でした。そのトランプ政権がスタートしたり、欧州で重要な国政選挙が予定されていたりと、2017年も引き続き予断を許さない状況が続きます。新しい一年を専門家が展望します。

 2016年は波乱の年でありました。幕開けは原油価格など資源価格の一段の下落、中国・人民元を含む新興国通貨の下落でした。そして、6月の英国民投票では欧州連合(EU)離脱(=ブレグジット)が決まり、11月の米大統領選では“まさか”のトランプ氏が勝利しました。

 そのほかにも、欧州での難民問題やテロの頻発、トルコのクーデター未遂、イタリアの国民投票(政府が提案した憲法改正の否決)など、数え上げたらきりがありません。日銀が直前まで否定していたマイナス金利を1月に導入したことや、9月に市場金利のコントロールにまで踏み込んだことも、マーケット的には波乱と呼べなくもありません。

 これらの波乱の多くは「反グローバリズム」や「ポピュリズム」といったキーワードでくくることができるかもしれません。さらに大きな枠組みで捉えると、これまで世界の政治・経済を支えてきたシステムが制度疲労を起こした結果とも言えそうです。

 第二次世界大戦後は、米国が世界の経済をけん引し、かつ警察官の役割を果たすことで実現した「パックス・アメリカーナ(米国による平和)」の時代でした。それが終えんを迎えつつある一方で、米国の代わりを引き受ける国・地域が見当たらないということでしょう。後世の歴史家は、トランプ氏勝利がパックス・アメリカーナに終止符を打ったとピンポイントで指摘するかもしれません。

 そうしたレジームチェンジの真空が混とんを招いているとすれば、2017年もさまざまな形で波乱が起きる可能性は高いのではないでしょうか。

トランプ政権、欧州政治…波乱の種に事欠かない

 波乱の種には事欠きません。1月20日には、トランプ政権が始動します。「米国第一」を掲げた、トランプ氏の選挙戦中の過激な発言は単なるレトリックに過ぎなかったのか、それとも大統領としてその実現に向けてまい進するのか――。トランプ大統領がどのような政策を行うつもりなのか、そして実現できるのかは、閣僚の人選や議会との関係にも大きく依存するでしょう。

 欧州では政治の不安定化が一段と進みそうです。重要な国政選挙が、オランダ(3月)、フランス(4〜6月)、ドイツ(8〜10月?)で予定されています。また、イタリアでも2017年の早い段階で総選挙が実施されるかもしれません。いずれも、反ユーロ、反EUを唱えるポピュリスト政党が躍進する可能性があり、ユーロ崩壊の危機が意識されるかもしれません。イタリアやドイツでは、銀行の不良債権問題もくすぶっています。

 英国は、いよいよEUとの離脱交渉を開始します。経済的便益を優先すれば、英国はEUの単一市場への残留を選択するかもしれませんが、交換条件として移民の受け入れを迫られるでしょう。その場合、EU離脱の悪影響は小さいはずです。逆に、EUから距離を置くほど、英国経済への打撃は大きくなりそうです。後者のケースにおいて、スコットランド独立の機運が再燃するかもしれません。

各国中銀のかじ取りは難しい

 中国も引き続き気になります。秋に共産党大会(全人代)を控えて、政府は経済成長目標の下方修正とともに、不動産投資など膨張した信用の収縮に向けてかじを切る可能性があります。人民元が大きく下落するリスクもあります。米国の利上げなどを背景に、すでに中国から資金が流出しているようです。人民元買い介入の結果、外貨準備(や米国債保有額)は大幅に減少しており、どこかで人民元安が容認されるかもしれません。それは米中通商摩擦を激化させるでしょう。

 中国景気が失速するようであれば、さまざまな資源の価格に下落圧力が加わるでしょう。そうでなくとも、産油国の減産協定が破られれば、あるいは米国のシェール産業が大幅な増産に踏み切れば、原油価格に下落圧力が加わりそうです。

 そのほかにも中東、東アジア、ロシアなどを含め地政学的なリスク要因は散見されます。

 かかる状況下で、各国の中央銀行は金融政策の慎重なかじ取りを迫られるでしょう。米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを続けるでしょうが、トランプ政権の財政政策が大きな「不確実性」として意識されています。日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」をいつまで続けるのか、それが可能なのか――。日銀同様に、欧州中央銀行(ECB)も国債購入の限界が近いと指摘されていますが、ユーロ圏の政治不安や不良債権問題に鑑みれば金融緩和を続けざるを得ないかもしれません。

 いずれにせよ、世界の金融市場はますます密接にリンクしています。金融政策の小さなミスが増幅されて世界に拡散する可能性にも注意を払う必要がありそうです。

(株式会社マネースクウェア・ジャパンチーフエコノミスト 西田明弘)