ニューヨーク・タイムズドナルド・トランプ氏の大統領当選の意味を理解できておらず、いたずらに誤報や虚報を発し続けている」――。

 米国の大手新聞として長い伝統を誇るニューヨーク・タイムズに対して、米国連邦議会の下院議長も務めたことがある保守派の重鎮が、こんな手厳しい糾弾を表明した。

 ニューヨーク・タイムズは左傾リベラリズムの思想に流されて、米国の草の根から誕生したトランプ現象が理解できていない、あるいは意図的な曲解を続けている、という批判だった。現在の米国内の政治的分裂を象徴する動きとしても注目される。

民主党政権に加わる記者も

 この批判を公表したのは、連邦議会の下院議員を1979年から20年ほど務め、そのうち95年から99年までは下院議長だったニュート・ギングリッチ氏である。元々は政治学者であり、長年、保守主義思想の論客として知られてきた。

 94年の議会選挙では、共和党指導者として「アメリカとの契約」というスローガンを掲げて支持層を広げ、下院での共和党の議席を大幅に増やした。下院はそれまで40年間、民主党が多数派だったが、ギングリッチ氏の活躍により共和党は逆転を果たした。

 2016年12月末、ギングリッチ氏は「トランプイズム(トランプ主義)とニューヨーク・タイムズ」と題する論文を保守系新聞の「ワシントン・タイムズ」に寄稿した。ギングリッチ氏のような大物論客が大手新聞の偏向や誤報を正面から批判するのは異例である。

 同氏はまず以下のような問題を提起していた。

「トランプイズムは、行動とリーダーシップの哲学がこれまでのワシントン主体の政治システムとはあまりに異なるため、ニューヨーク・タイムズは理解できないようにみえる。そのうえ、ニューヨーク・タイムズはその動きをあまりに嫌うため、トランプイズムの報道や論評には誤報や意図的な虚報がきわめて多い」

 確かにニューヨーク・タイムズは長年一貫してリベラル左派の立場をとり、大統領や連邦議員の選挙では常に民主党、リベラル派を支持してきた。同紙の記者や編集者たちも、圧倒的に民主党員や民主党支持者が多い。歴代の民主党政権に加わり、共和党政権が登場するとまた新聞社に戻るというケースも頻繁にあった。そのため共和党側からは「不当に民主党側を応援している」という抗議が絶えなかった。

 今回の大統領選挙でも、同紙は早い時期から民主党のヒラリー・クリントン候補支持を鮮明にし、トランプ候補を不利にするようなニュースの発信を続けてきた。選挙結果の予測においても、一貫して「クリントン候補優位」「クリントン候補当選確実」と報じてきた。

 しかし、こうしたニューヨーク・タイムズの全面的な応援にもかかわらず、大統領選ではトランプ氏が勝利した。そのため、ニューヨーク・タイムズには、ニュースメディアとしての中立性、客観性はどこにあるのかという非難の声が浴びせられている。ギングリッチ氏の論文はこうした背景の中で公開されたわけだ。

記事は「証拠や根拠のない侮蔑的な推測」

 ギングリッチ氏はニューヨーク・タイムズをこう批判する。

「同紙は、この傑出した指導者が新しい政治現象を引き起こしたことをまったく説明しようとはせず、トランプ氏に関する間違った情報、間違った評価を発信し、軽蔑すらも露わにしてきた」

 そして、間違った報道の実例として以下のケースを挙げていた。

「12月下旬にドイツのベルリンで起きたテロ事件について、同紙は『トランプ氏のイスラム教徒の米国入国を禁止する提案が原因となってこんな事件が起きた』と書いていた。だが、トランプ氏はイスラム教徒の入国審査の厳格化を提案しただけで、全面的な入国禁止は唱えていない。さらにトランプ氏の提案がテロの原因になったという証拠もない」

「南シナ海で中国軍が米軍の水中測定用無人艦を奪った際にも、同紙は『トランプ氏のデタラメな発言は米国の外交を混乱させ、危機管理に慣れていない退役将軍や石油ビジネスマンを使った折衝はさらに事態を悪化させることになる』と論じた。しかし、証拠や根拠のない侮蔑的な推測にすぎない」

「同紙の記事は、反トランプ派の学者であるバージニア大学教授、フィリップ・ゼリコウ氏の『トランプ氏は大統領になれば、外交面で全世界の4分の3を敵に回してしまうだろう』という言葉を引用していた。この言葉には何の根拠もないのに、同紙はあたかも客観的な事実のように使っていた」

 ギングリッチ氏は論文の最後を以下のように結んでいる。

「まだ出発していないトランプ政権にこれほど不正確で偏向した報道や論評で臨んでいるのだとすれば、今後8年は続くかもしれない同政権に対して、どれほどの誤報や虚報が繰り返されるのか想像もつかない。ニューヨーク・タイムズのこの態度は、故意の無知がもたらす傲慢とも言えよう。この姿勢は同紙の読者と米国のジャーナリズムの実直な伝統をひどく傷つけている」

 さて、まもなく登場するトランプ政権とこの新聞の戦いはどうなるのか。大いに注目したい。

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筆者:古森 義久