「FREETEL」ブランドのプロモーション

写真拡大

「FREETEL」ブランドでスマートフォンを開発・提供しながら、MVNOとして通信事業も展開しているベンチャー企業のプラスワン・マーケティング。従来自社のスマートフォンとSIMのセット販売のみ取り扱ってきたが、今後は自社以外のスマートフォンとSIMのセットも提供するなど、戦略を大きく変えてきている。その理由はどこにあるのだろうか。

●SIMフリー市場で存在感を高めるFREETEL

 海外市場開拓が思うように進まなかった一方で、地盤となる日本市場も米アップルのiPhoneに侵食され、日本のスマートフォンメーカーはここ数年来、すっかり元気を失っている。そうしたなかにありながら、新たにスマートフォン市場に参入して攻めの姿勢を見せている日本のメーカーが、「FREETEL」ブランドで事業展開するベンチャー企業のプラスワン・マーケティングだ。

 同社は2012年設立の新しい企業だが、MVNO(仮想移動体通信事業者:自社でモバイル通信のネットワーク設備などを持たずに、大手キャリア(携帯電話会社)の回線を一部買い上げてサービス提供する事業者)の急拡大によって広がりつつある、SIMフリースマートフォン市場向けにコストパフォーマンスの高いスマートフォンを次々と投入している。

 SIMフリー端末とは、これまでキャリアごとに自社のSIMカードでしか使用できないようかけられていたロックが、解除された端末。SIMフリー市場では台湾のASUSや中国のファーウェイなど、海外の主要メーカーに匹敵するほどにまで存在感を高めている。昨年にはモデル・女優の佐々木希さんを起用したテレビCMを展開するなどして、シェア拡大に向けたさらなる知名度向上にも取り組んでいるようだ。

 通常、日本のメーカーがスマートフォンを開発すると、自社製造が基本となるためコストが高くなる傾向にある。だがプラスワン・マーケティングは、基本的にスマートフォンの設計は自社で手掛けつつ、製造は中国などにあるODM(委託者のブランドでの製品設計・生産)メーカーを活用。これによってコストパフォーマンスの高いスマートフォン新製品を次々と生み出し、SIMフリー市場で人気を獲得することに成功したのだ。

 またプラスワン・マーケティングは海外進出にも積極的で、15年にカンボジアやメキシコに進出したのを皮切りに、東南アジアや北米・南米を中心として自社のスマートフォン販売を実施。チリではシェア1位を獲得したこともあるなど、海外でも攻めの姿勢を続けているようだ。

 だがプラスワン・マーケティングは、自らNTTドコモのMVNOとなって、スマートフォン向けの通信事業も同時に展開。データ通信のみであれば月額299円から利用でき、通信量に応じて料金が変化する料金プラン「使った分だけ安心プラン」を提供したり、「LINE」や「ポケモンGO」など特定のアプリを使った時の通信量をカウントしない、「ゼロレーティング」と呼ばれる仕組みを積極的に導入したりするなど、独自色のある通信サービスを提供し、こちらも注目を集めている。

 つまり同社は、SIMフリーのスマートフォンを提供するメーカーという側面だけでなく、通信やサービスなどを一気通貫で提供する、キャリアに近いビジネスモデルを持つ企業という側面も持っているわけだ。

●セット販売の「スマートコミコミ」で他社端末を取り扱い

 そのプラスワン・マーケティングが、11月21日に実施した新製品・サービス発表会で、新たなサービスとして最も力を入れていたのが「スマートコミコミ」である。これは、スマートフォンと通信回線、そして5分間の通話がし放題になる「FREETELでんわ」などのサービスをセットで契約することで、契約1年目の料金が月額1590円から利用できるサービスであり、10月より提供されていた「かえホーダイ」の内容を刷新したものだ。

 スマートコミコミのように、端末と通信、サービスをセットで契約すると1年目の月額料金が安くなるサービスは、最近多くのMVNOが手掛けているものではある。だがスマートコミコミは、それらに加えて「とりかえ〜る」というサービスも同時に利用できるのが、大きな特徴となっている。

 このサービスは、要するに新機種に交換しやすくなるプログラムである。通常、2年の割賦でスマートフォンを購入する場合、2年の割賦が終わる前に新機種へ機種変更してしまうと、割賦の残債をまとめて支払わなければならない。だがとりかえ〜るでは、端末を返却すれば割賦残債の支払いなく、半年毎に同社が販売している新機種に交換できるほか、破損した端末であっても購入後1年経過していれば、最新モデルに交換可能となっている。

 だが現在のところ、スマートコミコミで選べる端末は、あくまで同社が開発したFREETELブランドのスマートフォンのみだ。しかしながら同社によると、17年以降はFREETEL以外のスマートフォンもスマートコミコミで選択できるようにするとのこと。具体的なメーカーや機種などは明らかにされていないが、発表会のプレゼンテーションではファーウェイやASUSなど、同社のライバルメーカーの端末写真が映し出されていたことから、それらメーカーの端末を取り扱うものとみられる。

 代表取締役の増田薫氏はこの点について、「我々は垂直統合モデルのサービスを提供しているが、一方でハードやSIM、アプリに特定の縛りを入れて提供したことはない」と話している。キャリアのような縛りを入れないことが同社のポリシーであることから、スマートコミコミでもFREETELの端末に限定した縛りを入れないよう、他社の端末も選べるようにしたということのようだ。

●不安定なハードビジネス拡大に必要な安定収益

 確かにMVNOのビジネスとして評価するならば、自社以外の端末を販売するのはユーザーメリットにつながり、回線の契約拡大にもつながることから非常に理にかなっている。しかしハードメーカーとして見るならば、他社端末を取り扱うというのは、FREETEL端末の販売機会を奪うことにつながるため、損な選択でもある。

 それゆえプラスワン・マーケティングがライバルのハードを扱ったのは、同社がMVNOとしての通信ビジネスを強化したい狙いがあるからとみることができるだろう。そしてその理由は、通信事業がストック型のビジネスであり、顧客から毎月収入が得られるので安定した売上を確保しやすいからではないかと考えられる。

 スマートフォンのハードウェアビジネスは世界的に競争が激しく、高性能な機能を低価格で提供することが顧客から強く求められる傾向にある。それゆえアップルを除く大多数のメーカーが、利益をほとんど出せていない状況だといわれており、低価格でハードを提供するプラスワン・マーケティングも、その例外ではないだろう。だが増田氏は、以前より「日本メーカーとして世界一を目指す」と話しており、海外進出にも積極的に取り組むなど、ハードウェアでは拡大戦略を続ける方針のようだ。

 利益が出しにくく不安定なハードウェアビジネスでシェア拡大を図るとなると、必要になってくるのが資金力である。プラスワン・マーケティングは16年11月10日、総額42億1500万円の第三者割当増資を実施しており、現在は調達した資金によって事業拡大を進めているものと見られる。だが今後を考えれば自社の収益によってビジネスを回す必要があるだろうし、特にベンチャー企業である同社には、財務基盤を支える安定したビジネスが必要となってくる。

 それゆえ同社では、ライバルのハードウェアを販売してでもスマートコミコミのユーザーを増やし、通信事業を拡大することで、安定した収益基盤をつくることを急いでいるのではないだろうか。それだけに、同社が今後、ハードウェアビジネスで世界的に存在感を高めていくためには、日本で通信事業を順調に拡大できるかどうかが、大きな鍵を握るともいえるかもしれない。

 ただ一方で、発売を予定していた既存モデルの新色が発売中止となったり、一部サービスが延期されたり、Wi‐Fiルーターに新機種に関して、実際には利用できないWiMAX2+契約のSIMカードが利用できるかのような記載があったことが指摘されたりするなど、12月に入ってからトラブルが相次いでおり“粗さ”も見え隠れする。事業を大きくする上では勢いだけでなく、丁寧なサービスを提供することも同時に求められるところだ。
(文=佐野正弘/ITライター)