『The NET 網に囚われた男』のキム・ギドク監督を直撃

写真拡大

韓国の鬼才キム・ギドクが、朝鮮半島の南北問題に真っ向から斬り込んだ映画『The NET 網に囚われた男』(1月7日公開)。今回も斬れ味は鋭く、思わず息を呑む。脚本・製作を務めた『レッド・ファミリー』(13)や前監督作『殺されたミンジュ』(14)と、近年自国にはびこる社会の闇をあぶり出してきたキム・ギドク監督だが、本作の後は日本の原発事故をテーマにした問題作『STOP』(3月公開)が待機中だ。来日したキム・ギドク監督を直撃し、社会派ドラマに込めた並々ならぬ思いについて話を聞いた。

【写真を見る】長身で甘いマスクのイケメン、イ・ウォングンも出演/[c]2016 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.

『ベルリンファイル』(13)のリュ・スンボムが演じる主人公は、ボートの故障で韓国側に流された北朝鮮の漁師ナム・チョル。彼は理不尽なスパイ容疑をかけられ、残忍な尋問を受けるが、ナム・チョルを監視する青年警護官ジヌ(イ・ウォングン)だけは彼の潔白を信じようとする。果たして“The NET:網”にかけられた弱者がそこから逃れるすべはあるのだろうか!?

「“The NET”が象徴しているのは国家やイデオロギー、国家が定めた体制です」というキム・ギドク監督。脚本を作るために、実際に起こった事件の新聞記事や報道映像を調べ上げたと言う。

「北朝鮮の人が壊れた船で韓国に辿り着くという事件は何十年も前から何度も起こっている。北朝鮮に戻った人もいれば、そのまま韓国に留まる人もいるなかで、ある種の誤解も生まれてきた。そういったさまざまな問題を映画にしたいと思ったんだ。団体で北朝鮮から脱北してくる映画にすると大掛かりで予算もかかるので、今回は1人の男に焦点を当てて撮ってみようと思った」。

妻子の元に帰りたい一心のチョルだが、韓国側は韓国への亡命の話を執拗に持ちかけてくる。唯一本作で救いとなるのが、チョルの警護官ジヌの温情だ。ジヌについて監督は「過酷な拷問をしていく韓国当局の取調官とは対局にある人物として設定した」ということで、監督自身の希望も込められているそうだ。

とはいえ、本作では韓国側、北朝鮮側のどちらにも偏った描き方はしていない。両者の立ち位置を俯瞰でとらえているのは、キム・ギドク監督自身が海外に出て、広い視野から自国を見つめているからか?

「そういった側面もあるとは思うけど、それよりも私自身のなかにある良心というものが基準になっていることが大きいかな。自分が所属して側は無条件に善であり、相手側は悪であるとすると、必ず矛盾が生まれる。やはり相手のことだけではなく、身内に対してもきちんと批判するべきだ。冷静さを維持していくというバランスが、この映画においては一番大事な部分だった」。

確かにキム・ギドク監督は、すべての登場人物を多面的に描いている。たとえば、キム・ヨンミン演じる残忍な取調官も、部下であるジヌをいたわる一面を挿入することで、人物像に奥行きが出る。「彼らはそれぞれが歴史的背景を背負っている。もしかして国に洗脳されているのかもしれないし、イデオロギーからくるトラウマでがんじがらめになっているのかもしれない。鬼の取調官も優しさをちらりと見せることで、完全に憎むべき人間ではなく、彼の言い分も理解したいと思える存在になるのではないかと考えた」。

また、本作をはじめ、現代社会にメスを入れる理由についてキム・ギドク監督は、「第一に、私自身が安全な社会に暮らしたいという願望があるから」とキッパリ答える。「続いて私とつながっている家族や周囲の人々が安全なところで暮らしていたいという希望がある。私たちが住んでいる国家も安全な場所であってほしいし、さらには私たち人間が住んでいる地球がそうあってほしい。私はそういう希望を持って映画を撮っている」と話す。

現在公開待機中の『STOP』については「私が日本のことが嫌いだからこの映画を撮ったんじゃないか、日本を問題のある国として描こうとしているんじゃないかとは思わないでほしい。日本とか韓国とかという問題を離れ、国境を超えた上で原発というものがいかに脅威的なものかと訴えたかった。私たちは人間として安全なところに住む権利があると思っているから」と語気を強める。

「この映画で言いたいことは我が国の南北問題だけに留まらない。南北が平和的に統一されれば、韓国はもちろん日本だって国防費や軍事費を減らすことができて、その分の予算を他のことに有効活用できる。そういう意味でも北朝鮮の問題を解決することは、アジアにとってはとても重要な課題で、広く言えば世界全体で安全に暮らしていけることにつながっていく。だからこそ日本のみなさんにも感心をもって映画を観てほしい」。【取材・文/山崎伸子】