人間の脳は、一人あたり約1,000億個の神経細胞からなるといわれている。

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 兵庫医科大学の研究グループが、脳梗塞で死んだ細胞を補うことのできる多能性幹細胞が「脳梗塞を起こした脳の病変部位」それ自体の中に存在することを突き止めた。「iSC細胞(虚血誘導性多能性幹細胞)」と命名されたこの細胞の存在は、「神経細胞は再生しない」という過去の常識を覆すものである。

 一昔前、人間の脳は子供のうちに完全な形で形成され、大人になったらただその細胞は死んでいくだけである、と信じられていた。近年、その定説を覆す研究がいくつか現れるようになってはきたが、もちろん、脳の細胞が活発自在にどのようにでも分裂することができる、という話になったわけではない。やはり人間の脳は、スタティックなものと見られていることに変わりはない。

 しかし今回の発見の画期的なところは、「死んだ脳細胞を蘇らせる手段があった」という話ではない。むしろ、「脳梗塞を起こした生体の脳の中に、自然な形で生まれてくる幹細胞があった」という点が注目に値するのである。つまり、脳細胞は部分的に分裂する能力を持っていただけではなく、よりマクロ的なレベルで、自己再生する性質を有していたということなのだ。

 さて、この研究の内容は以下のようなものである。脳梗塞のマウスの脳に、幹細胞(iSC細胞)が存在することが突き止められた。そのiSC細胞を取り出して培養し、別のマウスの脳に移植したところ、機能を保った状態で生き続けることが分かった。

 そして、ヒトの脳梗塞患者の脳にも、iSC細胞は存在することも分かった。そこで、次なる実験としては、ヒトのiSC細胞をマウスに移植し、機能するかどうかを調べるという。

 臨床試験の前段階に到達するまでの見込みが今後2年あまり先とのことで、研究はまだ端緒についたばかりである。しかし将来的には、現状では不治の病とされている脳血管性痴呆症の治療さえ可能となるかもしれない。大いに期待させてもらうこととしよう。