ドナルド・トランプ氏(写真:AP/アフロ)

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「トヨタはメキシコのバハにアメリカ向けカローラの新工場を建設するそうだが、とんでもない! アメリカに工場を建設するか、さもなければ多額の国境税を支払ってもらう」

 アメリカ次期大統領のドナルド・トランプ氏が、1月5日にツイッターでトヨタ自動車のメキシコ生産計画を批判した。トヨタは2015年4月に「19年にメキシコに新工場を設立してカローラを生産する」と発表しているが、トランプ氏はこれに釘を刺したものと思われる。

 この“警告”を受けて、6日にはトヨタをはじめとする自動車関連株が値下がりするなど影響が表れているが、経済評論家の渡邉哲也氏は「サプライチェーンの計画見直しは必要になるが、トヨタにとってはそれほど悲観することではない」と語る。

「トランプ氏の発言は、『トヨタのみならず、同様の状況にある自動車メーカーすべてに同様の措置をとる』という意図であると思われる。アメリカ向け自動車のメキシコ生産においてトヨタは最後発であり、生産台数はまだまだ少ない。そのため、今後拡大しようとしていたわけだが、今回はそこに横槍が入ったにすぎない。むしろ、現段階でメキシコでの生産台数が多い日産やフィアット、GM(ゼネラルモーターズ)のほうが厳しい立場に置かれることになるだろう」(渡邉氏)

 日産自動車のメキシコでの生産台数は約82万台(15年)と、同国で生産する自動車メーカーの中でトップクラスだ。

●トランプ氏、自動車部品の生産にも介入か

 トランプ氏は、かねてより「アメリカの企業が国外に移転した工場から輸入する製品には35%の関税をかける」と宣言しており、モノづくりの国内回帰を進める方針を示している。4日には、トランプ氏から再三批判されていたフォード・モーターがメキシコの新工場建設計画を撤回してアメリカ国内での生産を強化すると方針転換したことが話題になった。

「今後、トランプ氏は、完成品のみならず自動車部品の調達率にまで口を出してくるものと思われる。1980年代の日米貿易摩擦の際、アメリカは日本の自動車メーカーに『アメリカで一定以上の部品生産を行うように』と条件をつけてきた。今後、アメリカ国内で組み立てられる自動車についても、同様の条件がつけられる可能性が高い。

 そもそも、なぜメキシコに工場をつくるのかといえば、デルファイやボッシュをはじめとする自動車部品メーカーが現地に集約されたことで生産活動がしやすいからである。そこでつくられた部品は、メキシコだけでなくアメリカで組み立てられる自動車にも使われているが、今後は部品に関しても生産のアメリカ回帰が進められることになるだろう」(同)

●トランプ発言で苦しくなるのはトヨタより日産

 また、トランプ氏はアメリカの雇用を守るために、カナダ、メキシコと結ぶ北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しも宣言している。現在はNAFTAによってカナダやメキシコからアメリカへの輸入には関税がかからないが、それによって雇用が流出しているという主張だ。

「そもそも、NAFTAを脱退しないと関税をかけることができないため、トランプ氏は脱退を前提に話を進めているということになる。つまり、自動車メーカーへの警告は『NAFTAから離脱する』という宣言と同じである。

 そのため、今後はサプライチェーンも含めて『グローバルからインターナショナルへ』という変化が起きるだろう。サプライチェーンでいえば、グローバルは世界で一番コストの安いところでモノづくりを行い、世界中をひとつの市場とみなすことだが、インターナショナルはそれぞれの消費地で部品生産から最終組み立てまでを行うというものだ。

 もともと、トヨタは消費地生産を進めており、今回のトランプ発言で計画の見直しは余儀なくされるが、十分に対応できるものと思われる。一方、日産のように外資系傘下でグローバル化を進めていた企業は苦しくなるだろう。つまり、今回の問題はトヨタよりも日産にとって切実な問題なのである」(同)

 就任前から波紋を呼ぶトランプ氏の発言。1月20日の就任式以降は、さらに影響力が高まるだけに、その言動を世界が注視する。
(文=編集部)