(謝罪会見。長谷川和輝のライブストリーミング - YouTube)

 2017年初頭のネット界を騒がせたバカニュースといえば、なんといってもチェーンソーを持ち出し、宅配業者を脅した様子をYouTubeで動画公開した男が逮捕された件だろう。YouTubeのチャンネルごとの推計収入が分かるサイト・TuberTownによると、男の収入はこの7年半で約45万円だった。577本もの動画を投稿してこの程度。テレビ朝日の取材に対しては、「脅す様子を動画のネタにしたかった」といった趣旨の発言をした。これで一体いくらの広告収入が入るのかはわからないが、逮捕され、実名報道されて一生「チェーンソー男」など罵りを受けてしまうのはまったくもって割に合わない。


 この件を知った時に思い出したのは、2015年10月に発生した珍生放送である。男性がゲーム「マインクラフト」のニコ生実況中継中に「オイルマッチ」というなかなか火を点けづらい着火器具に火を点けようと悪戦苦闘している中、なぜか火のついたマッチをティッシュの入ったゴミ袋に入れ、火がついてまさかの「火事実況中継」となった件である。その後この火事は新聞でも報じられ、男性が実家暮らしをしていて、73歳の父親らと同居する40歳であることが明らかになってしまった。そして、この件は米三大ネットワークCBSのトークショーでも取り上げられ、司会者や出演者から嘲笑される事態になった。


 チェーンソー男もオイルマッチ男も、絶大なるサービス精神を持っているのは理解できるのだが、少額のカネを得られる動画配信によって自らの人生を毀損するほどのことをするのは合理的判断に欠ける。ところで、昨年、大阪府内の小学校が4年生男子に対して将来の夢を聞いたところ、3位がYouTuberになったという。


 仮に、私に子供がいて「お父さん、ボク、YouTuberになりたい!」と言った場合、「やめとけ」と止めることだろう。いや、10年前にYouTuberになろうとしたのだったら止めない。一体これは何なのか。ABBAの『The Winner Takes It All』という曲があるが、意味としては「勝者総取り」である。ネットの世界ではこうした「勝者総取り」はもはや伝統である。それこそブロガー、YouTuber、ニコ生主、アフィリエイター、メルマガなど様々な「これからはこれが儲かる!」とすでに成功した「勝者」が煽り、後発組の屍が累々となっていくのである。


 前出の2人の男は、人気者とは言えない。だが、騒動の主役となり、嘲笑されるだけの知名度は獲得した。それだけだ。今現在「動画配信」を個人が参入してもそれほどウマみはない。YouTuberにしても、Hikakin氏をもじって「●●kin」を名乗る人間が続出したが、大抵は膨大なるネットのコンテンツの中に埋もれていく。


◆ネットは先行者利益の世界、勝者が誕生している世界への参入はリスクだらけ

 インターネットがもたらしたものの一つが「誰でも世界に対して発信できるから、誰にでも勝てる可能性がある」という説の普及である。原理としてはその通りである。ただし、とてつもなく重要なのが「先行者利益」というヤツである。スマホのパズル系アクションゲームしかり、「サンシャイン牧場」をはじめとした農園系ゲームしかり、一発当たると次々と後発が参入していく。しかし、3番手以降が勝てる見込みは限りなく少ない。それは個人でも同様である。


 YouTuberとお笑い芸人の世界には似たところがあり、我こそはクラスで最も面白い男なり! という全国の若者が続々と養成所に入り、そこで自分が大して面白くなかったという事実を突きつけられる。しかしながら、理想の相方さえ見つかれば飛躍できると考えたり、まだ時代が追い付いていないと考えるなどし、いつしか月のバイト代12万円、お笑いで得たギャラ1万円といった30歳無名芸人になっていたりする。


 もちろん芸人のトップクラスともなれば、月収5000万円になったりもするわけで、そうしたトップクラスを見るとついつい「自分でも」と思ってしまう。公務員や会社員など、安定職業を選ばず、ややギャンブラー的人生を選ぶと考えた場合、2つの考え方からどちらに足を踏み出すかが重要になる。

【1】とんでもなく稼ぐ人間がいる業種に参入し、自分もそうなれることを目指す

【2】まだ参加者があまりいない上に、大きく稼げるかはわからない業種にとりあえず参入する


◆宝くじ大好き女性が宝くじをやめた理由

 私はあまり人に助言はしないが、もしも子供がいた場合は【2】を目指せ、と言うことだろう。YouTuberはもう競争が激し過ぎる。もはや参入しても勝てる勝負をするのは難しい。これは宝くじにも同じことが言える。2016年の年末ジャンボは、1等7億円が25本、1億5000万円の前後賞が50本。2等が1500万円なだけに、1億円以上は75本ということになる。そして発行枚数は5億枚。1億円以上が当たる確率は0.000015%である。かつて宝くじが趣味だったという女性がある時宝くじをやめた理由を語った。


「昔、宝くじを印刷している場面を見に行ったんですよ。すると、ダーーーッと一斉に刷られた宝くじがとんでもない枚数出てきて、この時私『あっ、こりゃ当たるワケない』と思いました。毎回3000円分買っていたのですが、その年から『買ったつもり』で3000円の寿司のセットを食べることにしています」


 彼女は宝くじのことを【1】だと認識し、「勝てない勝負からはさっさと降りる」という判断をしたのである。というわけなので【1】のようなものに参入する場合はあくまでも趣味と割り切り、人生を賭けるほどのものにしないのが吉である。【2】については、いわば「ブルーオーシャン」だが、私自身もネット業界で色々考えてはいるのだが、実は腹案がいくつかある。それについてここでは言及しないが、皆さんも【2】がどこにあるのか、ネットの分野で色々考えてみてはいかがだろうか。もしかしたらそれが金の鉱脈に化け、いつしか先行者利益でThe Winner Takes It Allになるかもしれない。


 そして冒頭のチェーンソー男だが、彼の発想は「巨大な裸のお腹を見せてチェーンソーを動かせばアクセスが稼げる」といったところにあるのだろう。これを高度なクリエイティビティというか、勘違いかといった評価はしないものの、これまでの実績を見ると動画配信の才能と運には欠けている。7年6ヶ月もの間大儲けすることなく続けられた忍耐力と継続性には称賛の声を送りたいが、「目立ちたい」という気持ちから逮捕にまで至ってしまったのは、【1】における一部勝者のキラキラした存在が影響した部分は否めないかもしれない。あんまり人を羨むような人生は送りたくないものですね。


 文/中川淳一郎(ネットニュース編集者)