熱きロードレース撮影の舞台裏を語った
ダンテ・ラム監督

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 「激戦 ハート・オブ・ファイト」などで知られる香港アクション映画界の名匠ダンテ・ラム監督が、自転車ロードレースを題材に描いた「疾風スプリンター」が、1月7日から公開される。躍動感に満ちた高速のレースシーンは、一体どのように撮影されたのだろうか。静かな闘志を瞳にたたえたラム監督が明かした。

 団体競技のロードレースでは、各チームで“エース”と“アシスト”という役割分担がある。エースは最速でゴールするべく全力を尽くし、アシストはエースの風除けなどの黒子に徹する。もともとこの競技を好んで観戦していたラム監督は、利己的な個人が、チームの勝利に向け自己犠牲する崇高な精神に着目した。アジア各地を転戦するレースを描くために、中国、台湾、韓国で大規模なロケを敢行。台湾・高雄市では道路約13キロを封鎖し、空撮用のヘリと地上10台のカメラを配置するなど、各地で撮影を重ねた。

 ラム監督はスピード感を最大限表現するべく、自転車に密着するカメラワークを志向した。しかし初めての題材ということもあり、現場では困難が続いた。人力の自転車は速度維持が難しく、並走するカメラとの距離感が安定しない。これまでのアクション映画とは異なる部分で頭を抱えた。「一大試練でした。カメラがサイクリストに密着し、ハイスピードで走る様子をクローズアップで撮りたかったが、成功しませんでした」。

 満足いくスピード感を撮影できなかったが、「自転車に装着された小型カメラが、クローズアップを撮るのに一番力を発揮した」という。「映像の躍動感が一段と高まりました」と拳を握り、スピード感を得たもうひとつの要因を「サイクリストたちが実際の試合時よりも、強烈なハイスピードで走行してくれたおかげでもあります。実際のレースでは、走行時間のほとんどが平均スピードだと聞きましたが、映画では彼ら(サイクリスト)はほとんどの走行で最高速度を出していました。リスクも高いので、本当に命がけで尽力してくれました」と説明した。

 さらに臨場感を演出するため、ユニークな手法がとられている。絵コンテやビデオコンテを用意せず、すべてのレースシーンを「本物のレースとして、実況中継のような形でキャッチした」そうで、複数台のカメラで「素材を撮って撮って撮りまくった」と明かす。「なので編集の仕事の量は、並みではなかったのです。今も覚えているのですが、編集担当者にこう言われました。『4日4夜を費やして、やっとひとつのレースの映像素材を見終えたのですよ!』と。今回の映画は、ポストプロダクションにとっても大きなチャレンジでした」。

 また、スタントは使用しておらず、エディ・ポン、ショーン・ドウ、チェ・シウォンらスター俳優たちが生身で自転車を駆っている。俳優陣は15日間におよぶ過酷な合宿で肉体改造し、常に転倒、大ケガの恐れがある100〜200人規模のレースシーンに身を投じた。エンドロールでは演者たちが大クラッシュし、救急車に担ぎこまれる模様が映し出されている。撮影全体で80人の負傷者を出し、主要キャストも無事では済まなかったが、ノースタントでの撮影に踏み切った最大の理由は、レースにかける男たちのマグマのごとき思いを最高の形で表現するためだ。

 「観客から共感を得られ、しかも役者の迫真の演技に感服するには、身体を張って実行することが大事だと思います。キャスティングの段階で、どの役者にも同じ話をしました。『今回は演技の試練ではなく、1人の人間の意志がいかに強いか、それに観客から共感を得られるかどうかの試練です』と」。

 過酷な合宿、膨大な時間を費やした危険な撮影、そして創出された烈火のようなシーンの数々……。ラム監督は完璧なカットを追求する姿勢から“鬼監督”と称され、リスクをいとわない飽くなきこだわりが、作品に大きな力を与えている。「OKカットでも、もう少しよくならないのかと思って、結局再度撮ることがしばしばあります。どの映画も、役者の体、意志、心と気持ちを極限まで追い詰めるので、そう言われるのかもしれません」。

 「疾風スプリンター」は、1月7日から東京・新宿武蔵野館ほか全国で公開。