■福田正博 フォーメーション進化論

 今年から、Jリーグはグローバルな競争力を身につけるために新たな改革期に突入する。それは日本サッカー界をけん引する代表チームについても同様で、より大きな飛躍を遂げるために、強化方針を見直す時期にあると感じている。

 その最たるものが、代表監督の任期だ。これまで、日本代表の監督は基本的に4年周期で交代してきた。つまり、W杯が終わるごとに日本サッカー協会がサッカー界の「トレンド」を分析し、代表チームを次のW杯に導くことができると判断した新たな指導者を任命してきた。

 日本が初めてW杯に出場した1998年のフランス大会から、2002年の日韓大会までをフィリップ・トルシエ監督、ドイツ大会までをジーコ監督が指揮官を務めた。2006年7月から始まったイビチャ・オシム体制は、2008年11月にオシム監督が脳梗塞で倒れたことで岡田武史監督に引き継がれ、2010年の南アフリカ大会まで続いた。次にアルベルト・ザッケローニが2014年ブラジル大会まで監督を務め、その後を受けたハビエル・アギーレはスペインでのクラブ監督時代の八百長疑惑などによって2015年2月に退任。2015年3月からヴァイッド・ハリルホジッチ体制が続いている。

 その約20年間で、日本代表は強くなっているのか。少なくとも、「日本らしいサッカー」を構築し、世界トップレベルの国々との実力差を縮めたようには思えない。

 確かに、他国の代表監督もW杯を基準にして4年周期で交代するケースは多いが、それに同調する必要はない。世界に目を向ければ、長期政権で結果を残している監督もいる。ドイツ代表を率いるヨアヒム・レーヴ監督がそのいい例だろう。

 レーヴ監督は、2004年にユルゲン・クリンスマン監督のもとでドイツ代表のヘッドコーチに就任し、2006年W杯ドイツ大会終了後に監督に昇格。そこから10年以上にわたって指揮し、多くの若手選手を代表チームで起用しながらチームの強化を行なってきた。その結果、EURO2008で準優勝、2010年W杯南アフリカ大会とEURO2012で3位、2014年W杯ブラジル大会で優勝、EURO2016でベスト4と素晴らしい成績を残している。

 レーヴ監督だけではない。昨年までデンマーク代表を率いたモアテン・オルセン監督の在任期間は、実に15年に及んだ。2000年に就任し、2002年W杯日韓大会ではグループリーグでウルグアイやフランスに勝利してベスト16入りするなど、チームをW杯とEUROの本大会に2度ずつ導く功績を残した。

 スケジュールの過密化が進む今のサッカー界において、代表強化に割ける時間はとても少ない。クラブであれば、選手が毎日のように顔を合わせるのでコミュニケーションを深めることはできるが、年間を通じて十数日の試合のためにしか全メンバーが集まらない代表では不可能だ。そのため、多くの国の代表チームは組織力で勝負することを避け、攻撃では個の力に頼る堅守速攻のスタイルを採らざるを得ない側面がある。

 ハリルホジッチ監督就任後の日本代表は、「縦に速いサッカー」を標榜している。これはW杯ブラジル大会を分析した日本サッカー協会がはじき出した「世界のトレンド」でもあるが、日本代表がこうしたスタイルを取るのには、海外組の選手が増えたことが関係している。

 日本代表に海外組が少なかったオシム監督の時代は、リーグ戦の合間に国内組だけで合宿を張り、代表チームの強化に時間を割くことが今よりもできていた。その結果、組織力を高め、連携を深めることで、2人目、3人目の動きを生かしながら、ダイナミックにボールと人が動くサッカーを実践することができた。

 現在、ハリルホジッチ監督も国内組だけの合宿を行なってはいるものの、代表の主力選手のほとんどが海外組という状況では、国内合宿がチーム全体の組織力、連携力の向上につながっていないのが現実だ。


 そもそも、堅守速攻というスタイルは本当に「日本代表らしいサッカー」なのだろうか。このスタイルで求められる能力は「フィジカルの強さ」と「スピード」で、世界の強豪国と比べて日本代表が最も劣る部分である。そこを伸ばして上回ることよりも、日本人が得意とすることを武器にするスタイルを模索するほうが、現実的かつ継続性の高い強化策ではないかと私は思う。

 海外組が増え、代表チームの活動時間が少なくなるなかで「日本人らしさを活かしたスタイル」を構築するためには、日本サッカーの抱える課題や問題を正しく認識し、長期的ビジョンで強化を行なえる指導者に代表チームを託すべきではないか。もちろん、最初から8年という期間を任せるのではなく、例えば2年ごとに手腕を評価しながら判断していけばいい。

 代表監督の任期が4年しかなければ、W杯の予選と本戦だけに目が向き、下の世代の育成まで気が回らないのは当然ともいえる。なぜなら、彼らが監督として次の職を探す時に、W杯本戦での結果に優る実績はないからだ。

 しかし、レーヴ監督やオルセン監督がそうであるように、監督の任期がW杯以降も続くとなれば、代表監督はその先を見据え、直近のW杯には関与しない若い世代まで目を配ることも必要となる。

 選手からしても、4年ごとに監督が交代して戦術や戦略が刷新されると、そのたびにゼロから再構築しなければならない。だが、ひとりの監督が長期間にわたって指揮を執れば、戦術の理解度はさらに高まる。4年ごとにリセットされるのと比べ、チームの成熟度に大きな差が生まれることになる。

 2016年のJリーグでは、多くの若い選手たちが台頭した。過去のオリンピック・イヤーでは、五輪代表選手のJ1でのプレータイムの少なさが懸念されたが、今回はGK中村航輔(柏)が28試合、DFの遠藤航(浦和)と亀川諒史(福岡)が共に27試合に出場。リオ五輪代表の選出から漏れた同世代の関根貴大(浦和)が32試合、中谷進之介(柏)も31試合に出場するなど存在感を示した。

 また、さらに下の東京五輪世代が彼らを突き上げていることも見逃せない。DF中山雄太(柏)は出場26試合のほとんどでスタメン起用され、川崎Fの三好康児はリーグ後半戦から出場機会を増やすと最終的に15試合に出場し、攻撃面で非凡さをみせた。

 彼らは、昨年11月にバーレーンで行なわれたAFC U−19選手権で日本を初めてアジア王者に導き、今年5月に韓国で開催されるU−20 W杯への出場権を獲得している。さらにその下の世代では、J3最年少デビューを果たした久保建英らが早くも活躍している。

 若い才能が成長してきている流れを2018年W杯ロシア大会以降も継続させ、2020年の東京五輪や2022年のW杯カタール大会へつないでもらいたい。それぞれの大会で過去最高の成績を収めるために、日本代表監督の任期を考え直してみる時期にきているのではないだろうか。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro