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米Amazonが食料品ストア「Amazon Go」を発表してしばらく経った。発表直後は、人工知能(AI)時代のショールームのようなサービスに話題が集中したが、次第に私たちの仕事や生活への影響に論点が広がっている。労働統計局のデータによると、米国でキャッシャー(レジ係)に就く人は350万人、職種の規模としては2番目に大きく、そのうちの17%がグローサリー(食料品・日用品)関連である。New York Postは「米国人が直面する新たな仕事キラーをAmazonが発表」と、Amazon Goが多くの人々の仕事を奪うと危ぶんでいる。

すでに大きな話題になっているので、ご存じの方が多いと思うが、簡単に説明すると、Amazon Goは食料品を主に扱うレジのないコンビニエンスストアだ。入店時にスマホアプリを使ってチェックインし、店内で商品をバッグに入れて、そのまま店を出たら、自動的に購入した商品の料金がAmazonアカウントに請求される。レジの行列、支払いや袋詰めの手間のないコンビニである。店内には自動運転カーに採用されているのと同じカメラやセンサーが設置されており、買い物客の動きを正確にトラッキングしている。買い物客が棚から商品を手に取ると自動的に仮想的なショッピングカートに商品が入り、棚に戻したらカートから外される。

昨年末にMcKinsey Global Instituteが公開したAIやロボットと仕事に関する分析によると、私たちの仕事がロボットやアルゴリズムによって置き換えらるのは長い時間を要する。完全に奪われてしまう仕事は少なく、全体の5%以下に収まるが、時給15ドル以下の仕事が受ける影響は小さくない。また、長期的には私たちの経済的アクティビティの45%程度に自動化が及ぶ。

McKinseyのデータが公表された時には、AIやロボットの影響は机上の数字でしかなかった。歓迎する反応はなかったが、長期的な予測に過ぎず、恐れられることもなかった。しかし、Amazon Goは違う。すでにシアトルに第一号店が存在し、今は社員向けのベータプログラム店だが、2017年の前半には一般ユーザーも利用できるようになる。紹介ビデオを見ると、明らかにレジのある食料品スーパーよりも便利そうで、レジ打ちが不要になる未来がそこにある。

○トランプ政権が動き出すからこそAmazon Go

Amazon Goの発表で私が最も評価したいのは、このタイミングで発表したことだ。次期大統領に決まったドナルド・トランプ氏はテクノロジーに対する関心が薄く、選挙戦では米製造業の復興を訴えて「米国人の手に仕事を取り戻す」とアピールしていた。反トランプ色に染まっていたIT産業はいま戦々恐々としており、特にAmazon Goのようなサービスはアピールしづらい空気に満ちている。

レジが混雑して不快ならレジ係をさらに増やすというのがトランプ氏がアピールする「米国人の手に仕事を取り戻す」だ。現実味に欠けていても「ラストベルト(錆び付いた工業地帯)」を復興させるというトランプ氏の言葉は人々の心をつかみやすい。その方向にどんどん進んでしまうと、AIやロボットに人々の仕事が奪われるという単純な恐れに人々の心が奪われかねない。

だからこそ、AIやロボットに仕事が奪われるという想像を覆すような、可能性のある未来を具体的(Amazon Go)に示すことに価値がある。食料品スーパーからレジが無くなるからといって、食料品スーパーの仕事がオートメーションに奪われるとは限らない。

すでに存在する小売店で参考になりそうなのがApple Storeである。かつては大きなレジ・セクションを備えていたが、かなり前に廃止された。支払いは店内のどこでも、その場で店員がモバイル端末を使って対応してくれる。また、Amazon Goと同様の体験を実現するセルフチェックアウトも用意している。店内で棚に置かれている商品を手に取って、バーコードをApple Storeアプリでスキャンし、Appleアカウントで支払いを済ませたら、そのまま商品をカバンに入れて店を出られる。

Apple Storeからレジがなくなって、セルフ・チェックアウトが導入されてから店員が減ったかというと以前と変わっていない。レジにかかりきりのスタッフがいなくなった分、お客さんをサポートするスタッフが増え、以前よりも快適に用事を済ませられるようになった。

食料品スーパーのレジは待たされることばかりなので、買い物客としては、その手間を省けるなら省いて欲しいと思う。代わりに商品管理のスタッフが充実したら、棚が空いた時にちゃんと商品が補充され、誤った場所に戻された商品がそのまま放置されるということもなくなるだろう。または調理スタッフを拡充して、フレッシュな中食メニューを充実させてくれたら私としてはリピーターになりたくなる。

今でも私たちの周りには、そうしたお客さんの目にふれない部分に投資して買い物体験を向上させている店があれば、逆に徹底してコストカットに励む店がある。どちらが正しいということではない。オートメーションの活用についても同じことが言える。レジスタッフを不要にする技術を単純に人件費の削減に充てる店があるだろうし、オートメーションがより便利にしてくれる部分はオートメーションに任せて、同時に人でなければ向上できない部分に人的リソースを集中させる店もあるだろう。

Amazon Goがどちらを目指しているかは明らかだ。後者である。店に入って商品を手にし、そのまま出られる便利さがAmazon Goの特徴だが、注目すべきなのは支払い以外の部分も含めた”買い物体験”だ。不快なレジを不要にするオートメーションと共に、商品管理、品揃え、中食メニュー、トラブル対応など、人が関わる部分で既存の食料品スーパーよりも人の力をどのように引き出せるか、それによって新しいコンビニを実現できるかがAmazon Goの評価ポイントになる。

Wall Street JournalによるとAmazonは、店内での買い物だけではなく、注文しておいた商品を店の外で受け取れるドライブスルー方式の店を郊外に準備しているという。ウチの近くにも食料品スーパー用にAmazonが押さえている建物がる。そこは大きな道路が3本交差する三角州のようになっていて、場所の難しさから短期間で店が変わり続けている。小売店に向いた場所とは言いがたいのだが、その立地でAmazonがどのようなサービスを展開してくれるか今から楽しみだ。

(Yoichi Yamashita)