北朝鮮の人々が自発的に作りだした市場経済、いわば「草の根資本主義」は当局の黙認の下に進化発展を続けている。大人はもちろん、中学生ですら商売に乗り出すなど、「全国民の市場化」と言っても過言ではない状況だ。

そんな北朝鮮で最近流行している言葉が「飛ぶカネより、足元のカネを掘れ」。つまり、密輸、買い占め、車を使った移動販売などで一攫千金を狙うのではなく、ポテンシャルのある手堅い商売を狙えという実に現実的な発想から来る言葉だ。

私有財産が法的に保護されていない北朝鮮では、投機的な商売よりも、製造業などの確実な商売で、着実に儲ける方が安全だというのだ。そこで最近人気を集めているのが、温室を使った野菜や果物の栽培。中でも人気があるのはイチゴ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮では冬になると、野菜や果物が出回らなくなり、値段が高騰する。

そこに目をつけたのが、道内の徳川(トクチョン)、安州(アンジュ)、順川(スンチョン)などの人々だ。炭鉱地帯で、温室の温度管理に必要な石炭が手に入れやすいという地の利を活かしたものだ。

一方、炭鉱地帯から離れた肅川(スクチョン)や平原(ピョンウォン)では、石炭が高いためソーラーパネルで温室を温めるという方法を使っている。初期費用はかかるが、燃料費がかからずランニングコストが抑えられる。

ビニール膜、種、苗木など、温室栽培に必要なものはすべて市場で手に入る。水だけは、井戸や水路を掘って自力で調達する。

ハウス栽培は、種や苗木を植えさえすればいいというものではない。イチゴは、きめ細やかな水の管理が必要だ。怠るとすぐに収穫量が減ってしまう。そこで、噴霧器を使ってイチゴの葉1枚1枚丁寧に水をかける。冬場にはビニールハウス内で寝泊まりすることすらあるという。

農業の知識がない人でも、スマートフォンさえあればなんとかなる。北朝鮮製のスマートフォン「平壌」には、朝鮮大百科事典のアプリが搭載されており、キュウリ、トマト、マクワウリなどの温室栽培の詳しい方法が掲載されているのだ。もちろん、農業経験の豊富な農民にはとてもかなわないが。

収穫が最盛期を迎える1月になると、作物を満載したトラックが、全国で有数の規模を誇る卸売市場のある平城(ピョンソン)へと向かう。中には、平壌の小売市場に直行するものもある。

こうして栽培された野菜や果物は、かなりの高値で取引される。例えば、イチゴの卸売価格は1キロ15000北朝鮮ウォン(約225円)だ。これはコメ3キロ分の小売価格に匹敵する。2月16日の光明星節(金正日総書記の生誕記念日)ともなると、倍に跳ね上がる。

こうして得られる利益は、1シーズンに2000ドル(約23万円)に達する。このようなハウス栽培は全国どこでもできるというものではなく、購買力を持った人々が多く住む都会の周辺に限られる。しかし、市場経済化がさらに進み、地方の中小都市にも金持ちが増えれば、その近郊の農村でハウス栽培が行われるようになるかもしれない。