「鉄緑会 HP」より

写真拡大

「東京大学受験指導の名門」を謳う「鉄緑会」をご存知だろうか。1983年に設立され、東京・代々木に本部校舎を構えている学習塾だ。2016年度の実績では、この東京本校だけで東京大学に277名の合格者を出し、なかでも定員がわずか100名と狭き門である東京大学・理科三類(医学部)に37名もの生徒が合格しているという。大阪校の生徒まで含めれば理科三類の合格者数は54名まで膨れ上がるから、この占有率は驚異的というほかない。もちろん東京大学以外にも、国公立大学医学部に228名、慶應義塾大学医学部に55名の合格者を出すなど、華々しい実績を誇っているのである(どちらも東京本校のみの数値)。

 これほどまでに優秀な塾があるならば我が子をぜひとも通わせたい、と考える保護者も少なくないだろう。

 だが、鉄緑会がメインの受け入れ対象としているのは、独自の基準で選んだ“指定校”の生徒たち。入会するにも条件があるというのだが、鉄緑会は一体、どのような教育システムを採用しているのか。

 そこで、鉄緑会の会長を務め、現在も数学の授業や生徒の模擬面接などを担当されている冨田賢太郎氏に話を伺った。

●入会希望者には選抜試験、入会後も校内で学力競争

「鉄緑会では4月、7月、10月、1月と、3カ月ごとに入会希望者の選抜試験を行っています。指定校に通う生徒の方々は中学1年生の4月に入会を希望される場合のみ選抜試験を免除していますが、我々も日々情報を集め、指定校のラインナップを入れ替えることはあります」(冨田氏)

 2016年現在、鉄緑会東京本校は13の指定校を公表している。開成、桜蔭、筑波大学附属駒場といった、いずれも世間に名だたる中高一貫の進学校だ。冨田氏いわく「その学校に入学した時点で一定の素質を持っていると考えられ、鉄緑会の授業にもついてきていただけるだろうと確信できる」とのこと。

 とはいえ、指定校に該当する生徒でも「中学1年生の4月」というタイミングを逃せば、他の学校に通う生徒同様に選抜試験をパスしなければならないということだ。選抜試験は、指定校制度を取っていない大阪校のほうでも実施されている。

「生徒が中学生の間は『レギュラー』と『オープン』という大きな枠組みを決め、英語と数学の総合成績で学力別にクラスを編成しています。英語だけできても数学だけできてもいけませんから、『どちらもバランスよく勉強することが大事だ』ということを制度として訴えているわけです。

 ただ、高校に上がるとさすがに『英語は得意だけれど数学は苦手』というようなケースが出てきますし、科目間での学力差が大きくなってくるので、英語と数学それぞれで学力順のクラス編成をすることになります」(同)

●英語・数学中心のハイスピードなカリキュラム

 冨田氏の言葉から読み取れるように、学習の軸になっているのは英語と数学だ。では、具体的なカリキュラムはどうなっているのか。

「我々は大学入試を見据えた勉強を計画的に進めており、英語も数学も、中学3年生までに高校の範囲を一通り終えてしまいます。この2科目は、一度わかってしまえば急に成績が下がることはありません。そういう意味でも、中学生のうちからじっくり力をつけていく方針になっています。

 英語は授業中に単語の確認テストを行いますし、英語の文章を頭に入れることも重要ですから、例文を暗記するスピーキングテストも実施します。また、数学を早めに完成させるには他の科目との兼ね合いもありますね。特に物理の成績向上のためという意味合いがあり、ベクトルや微分・積分あたりを勉強していれば力学などの単元が理解しやすくなるのです」(同)

 鉄緑会はこの計算されたカリキュラムゆえ、あくまでも「中学1年生の4月」に入会するのが基本。なお、鉄緑会の授業は1回3時間となっており、さらに家庭での宿題が加わるのだという。

「宿題は、授業内容を自分なりに消化して膨らませてもらうのが狙い。宿題を怠れば授業で毎週行う復習テストが解けなくなるなど、悪い結果がすぐに表れてしまうのです。

 中学生の宿題は、英語と数学それぞれ2時間くらいずつかかることをイメージしながら設定しています。鉄緑会に通っていただくのは週に2日なので、塾に来ていない日に家で各科目1時間ずつ取り組んでもらえれば、週に合計4〜5時間程度。量として無理はありません。

 高校生は科目数と鉄緑会に来る日が増え、やはり宿題の負担も少し大きくなりますが、そこは我々もバランスを調整しています。たとえば高校2年生の理科なら、週に1時間〜1時間半で済ませられるボリュームに抑えます。鉄緑会は『宿題をたくさん出す塾』というより、『宿題をきっちり解いてくるべき塾』というように捉えていただくのが正しいかと」(同)

●“合格の王道”へと導く鉄緑会出身の講師陣

 鉄緑会の特徴として欠かせない要素は、東京大学の現役生や卒業生が教壇に立っている点だろう。冨田氏は「講師の7割以上は鉄緑会出身」と前置きし、卒塾生を起用することのメリットを聞かせてくれた。

「生徒に教えるための学力が高いのはもちろん、講師自身が難関大学の受験を経験している分、アドバイスに具体性や説得力があります。自分が実際に鉄緑会でどう過ごしてきたかまで伝えられるわけですから、生徒は講師に親近感を持つというもの。勉強の質問にせよ受験の相談にせよ、生徒と講師が授業時間外にコミュニケーションを取る機会は、他の塾に比べて圧倒的に多いはずです。

 一方、鉄緑会の外部から来た講師にも良さはあります。鉄緑会に染まっておらず、自分が教わったやり方に固執するようなことがない。物事を客観的に見られたり、柔軟に考えられたりします」(同)

 そんな講師陣の努力が実を結んでいる鉄緑会は、これから先どこへ向かうのか。

「我々はある意味“王道を行く”といいますか、合理的な勉強を単純かつ実直にこなしていくという塾です。教材や生徒への教え方は毎年ブラッシュアップしていますが、目新しさを追いかける塾ではありません。昔から“やるべきこと”をきちんとやってきたつもりなので、指導の本質は今後も変わらないでしょう。

 変わるとしたらデバイスの使い方。プロジェクターを導入し、これまでは講師が手書きするしかなかった英文をホワイトボードに投影するといった例は見られます」(同)

 最後に、冨田氏自身は鉄緑会の認知度をどのように感じているのかを尋ねてみた。実のところ、鉄緑会監修の参考書や問題集であれば全国に流通している。しかし、塾そのものには閉鎖的な匂いが漂っていないだろうか。

「我々は鉄緑会の存在を秘密にするつもりもなければ、自分たちで宣伝する必要もないのです。他の塾よりも広告費がはるかに少ないと思いますし、そこに予算を回すくらいだったら設備や教材にお金をかけます。

 これは鉄緑会の指定校内でのお話ですが、鉄緑会のことを知らない状態で入学した方がいたとしても、しばらく経てば100パーセント知ることになります。学校のなかで成績上位の生徒たちは、ほとんどが鉄緑会に来ていますから」(同)

 ハイレベルな教育を求める受験生たちは自ずと鉄緑会に集まってくるし、鉄緑会側もその期待に応えるだけの環境作りに抜かりがない。そうやって積み重ねた年月と、立派に確立された指導体制に、鉄緑会の矜持が見て取れよう。
(文=森井隆二郎/A4studio)