F1ホンダ短期連載(1)
「マクラーレン・ホンダ、2016年の『○(マル)』」

 2016年のマクラーレン・ホンダは21戦中13戦で入賞を果たし、コンストラクターズ・ランキングで昨年の9位から6位へと浮上した。しかし表彰台はなく、そこに手が届きそうな瞬間さえなかった。「3強チームに次ぐポジション」を目指し、荒れたレースでは表彰台も狙うとしていた当初の目標からすれば、期待はずれの1年だったとも言える。

 そんな2016年のマクラーレン・ホンダを、「○(マル)」と「×(バツ)」の両面から振り返ってみたい。まずは「○」、ポジティブな要素を総括する。

 マクラーレン・ホンダとして華々しい復活を遂げた2015年は、とにもかくにも、パワーユニットの性能不足がチーム全体の足を引っ張った。出力とディプロイメント(エネルギー回生)、そして信頼性の3つが不足していたからだ。フェルナンド・アロンソが日本GPで「GP2エンジン!」と叫んだのは、記憶に新しい。

 その改良を念頭に開発された2016年型『RA616H』は、3つの要素を大幅に進化させた。これはマクラーレン・ホンダにとって、大きな「○」だったと言えるだろう。

 なかでも、ディプロイメントはライバルを凌駕するレベルに進化した。第7戦・カナダGPでは改良型ターボを投入して昨年の2倍の容量にまで増加させ、決勝中も160馬力のディプロイメントを失う場面はほとんどなくなったのだ。

「それはすごく大きかったですね。カナダ、その次のバクー(第8戦・ヨーロッパGP)はパワーサーキットだったので、その改良のメリットがあまり見えなかったんですが、アップデートしていなければもっと苦戦していたはずです。本当はこれが開幕時点で目指していた目標値だったんですが、開幕時点ではその半分くらいまでしか達成できていなかったんです」(長谷川祐介F1総責任者)

 信頼性についても、水漏れなどの細かなトラブルはあったものの、エンジンブローや決勝でリタイアを強いられるような致命的な設計ミスに起因するトラブルはなかった。

 アロンソは開幕戦のクラッシュと、第13戦・ベルギーGPでの新スペック投入直後の相次ぐ水漏れで3基を失い年間8基。ジェンソン・バトンは第2戦・バーレーンGPでのギアトレインの破損と、第7戦・カナダGPでの出火で年間6基となったが、こうした突発的な問題がなければ、年間5基のパワーユニット規定どおりでシーズンを終えられていた可能性も十分にある。

「信頼性に関しては、ひとまず合格点をあげてもいいんじゃないかと思います。セッションを止めてしまうようなトラブルや、レースをリタイアしたことも2度ほどありましたけど、レースに出られないレベルではありませんでしたし、2年目という意味では自分たちのなかでは合格点かなと思います。

 ただ、他社と比べた場合、ウチだけが劣っていますし、もう一段、向上させなければいけないと思います。来年はこれ以上の信頼性を確保したところで、シーズンをスタートしたいと思っています」(長谷川総責任者)

 一方、パワーに関してはまだ十分とは言えないものの、ライバルメーカーとの差は確実に縮まってきている。

 開幕時点のスペック1では開発目標値を達成できずに後れを取っていたが、第10戦・イギリスGPで吸気系を改良して投入したスペック2、そして第13戦・ベルギーGPで燃焼系全体を改良して投入したスペック3と、順に大幅なパワーアップを果たしてきた。

「スペック2の伸びは、かつてなら年間のアップデートに匹敵するくらいの大きなものでした。シルバーストンもパワーサーキットでしたから、その効果が見えにくかったということもありますが、もともとギャップがあったところを追いついたのでライバルを凌駕するほどではなく、差を少し詰めたというくらいでしたしね。

 スペック3でもさらに大きく伸びました。今は(最大100kg/hの燃料流量制限下で)出力=燃費ですから、ベルギーGPでスペック3を投入するまでは燃費でも相当苦労しました。それ以降はレース中の燃費が問題になることはほとんどありませんでしたし、その点は非常によかったですね」

 世間では、メルセデスAMGとホンダのPU(パワーユニット)の間には大きな性能差があると思われているかもしれないが、実際にはそれほど大きなものではない。シーズン終盤の時点でいえば、4メーカーのPUがほぼ同じくらいの差で分布し、それぞれの差はラップタイムにして0.1〜0.2秒程度だというのがF1チーム関係者たちの分析だ。

 長谷川総責任者も、この分析結果に同意する。

「えぇ、それくらいだと思います。メルセデスAMG製PUと比べて1秒とか1.6秒も離れているほどの差はありませんし、(一部で言われたような)100馬力も離れているというようなことは当然ありません。もしそんなに差があったら、少なくとも我々が(メルセデスAMG製PUを積む)ウイリアムズに勝つことはないですから。シーズンの最後には、我々もルノーにかなり近いところにいたと思います」

 F1のパドックでは、メルセデスAMGとフェラーリのPU性能差は0.1秒と言われていた。つまり、最大出力にすれば10数馬力程度の差しかないということになる。

「性能差というのは、外から見た加速の差で測っているわけですけど、たとえばスペック3になってからは、直線の加速性能では我々もレッドブルにも負けていません。ただ、彼らのほうが間違いなく空力性能がいいでしょうから、そこは単純に比較できないところでもありますし、はっきりとはわからないですね。ルノーワークスとレッドブルの差が大きいので読みにくいというのもありますし、実はウチもそれほど負けてないということもあり得るかもしれませんが」

 シーズン開幕時点では開発の遅れから、「我々のパッケージのなかで、もっともヘコんでいるのがPUであることは明らかでした」と長谷川総責任者自身が認める。しかしスペック2、スペック3、そして最後のスペック3.5と、パワーユニットはこの1年で大幅に進化を遂げた。

「我々は普通のスピード以上の速さで開発をしていますし、メルセデスAMGよりも明らかに進化の速度は速いと思います。彼らは2014年を迎える前に4年間なり開発していたと聞いていますし、それが大きなアドバンテージなのだと思います。(他メーカーに比べて開発の)スタートが遅かったという時間的な問題が一番大きかったんです」

 一方で、チームとしても大きく進化した。

 時にはQ1敗退も喫した2015年とは違い、定常的にQ3進出を争うことができるようになった。そして決勝ではフォースインディア、ウイリアムズ、トロロッソと入賞争いをし、前述のとおり13戦で入賞を果たした。

 昨年来、対外的には「ホンダの性能不足に足を引っ張られている」というプロパガンダに終始してきたマクラーレン側も、ホンダRA616Hの性能が向上するに従って、車体の性能不足も徐々に明らかになり、日本GPでの大敗を受けてチーム内の雰囲気も変わった。車体の不備とシミュレーション能力に問題ありと認め、シーズン終盤戦のフリー走行ではそれを是正するためのデータ収集に明け暮れた。

 そしてなにより、相手に責任をなすりつけるのではなく、ともに頂点を目指そうという姿勢が明確になったことが大きかった。

「戦える体制ができてきたなというのがあります。マクラーレンのなかも、ホンダのなかも、ひとりひとりの経験値も上がりましたし、人間関係もよくなったし、ずいぶんF1チームらしくなったなと思います。

 最後はフェルナンドが言ってくれたというのもありますけど、『やっぱり車体も問題だよね』っていうことをマクラーレン側も認めてくれたんですね。それはすごく大きな前進だと思います。お互いに足を引っ張り合ってもしょうがないし、ホンダに対して意地を張ってもしょうがないということがわかってきたということなのかなと思います」

 長谷川総責任者がそう語るように、2016年のマクラーレン・ホンダには、開幕時点にはなかったポジティブなものが1年を通していくつも生まれてきた。3年目のシーズンに向け、間違いなく進歩している――。その感触は、間違いなくそこにあったのだ。

(つづく)

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki