何十億と稼ぐ、まだ20代の田中マーくんが脚光を浴びている一方で、ひっそりと消えてゆくプロ野球選手がいる。突然、球団から戦力外通告を受けた2人のピッチャーに密着取材した悲痛なドキュメントである。1人は伊藤義弘・元ロッテの中継ぎ投手。34歳、妻と幼子3人、高卒でJR東海から25歳にしてやっとドラフト4位でプロに入った苦労人。2010年には優勝の胴上げ投手にもなったのに、突然のクビ宣言。もう1人はまだ23歳の西川健太郎・元中日のエース級だった。22歳の妻は身重で、突然の解雇通告である。
何が悲しいといって、それぞれの妻が出来た女房で、夫のために手作りのバランスの良い食事を管理し、献身的に心配する。チャラチャラした今時の外食妻でないのに過酷な宣言に途方に暮れる。伊藤の幼子たちにはパパは英雄で、「パパはもうやめるの」といっても理解できない。2人は再採用を目指してトライアウト(全球団のスカウトたちの前で投球を見せる)に出場するが、結果は悪くないのに不採用で終わった。まだ23歳の西川は悩んだ末に中日のバッティングピッチャー(2度とマウンドには立てない)になり、伊藤は完全に引退して大学受験する。将来は教職資格を取って体育の先生になるという。2人とも感じのいい家族に優しい青年たちで、その優しさがプロ挫折の原因かもしれないが、カメラは限りなく温かい。「第2の人生を頑張れ」と声をかけたくなる出色の密着ルポだった。(放送2016年12月30日22時〜)

(黄蘭)