セブン-イレブンの看板(撮影=編集部)

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 セブン&アイ・ホールディングスの2017年2月決算での人事が、にわかに注目され始めた。オムニチャネル(インターネットとリアル店舗の融合)を推進してきた鈴木敏文前会長(現名誉顧問)の二男、鈴木康弘取締役が年末に退任することになったからだ。井阪隆一氏が社長になり、居場所がなくなったことが原因と社内ではみられている。

 一方、16年12月19日付で、グループ創業者で現名誉会長の伊藤雅俊氏の二男、伊藤順朗取締役が常務に昇格する。新設する経営推進室でグループのガバナンス体制の構築を担う。「中期経営計画づくりに伊藤氏も参画した。中経を推進し、リーダーシップを発揮してもらうための人事だ」と説明されている。創業家である伊藤家の存在感が高まるのに対して、これまで君臨してきた鈴木親子が名実ともに表舞台から消えることになる。

 そのため、“鈴木派”と目されている後藤克弘副社長、古屋一樹セブン-イレブン・ジャパン社長などのトップ人事が焦点となる。人事でも明確に井阪色を出せるのかの試金石となる。

 16年10月、セブン&アイは新体制になって初めての中期経営計画を発表した。関西地区の百貨店の売却、イトーヨーカ堂の大量閉鎖が骨子である。今後、鈴木氏が相次いで買収したネット関連の流通企業の整理を進められるかどうかが注目される。5月に退任した「カリスマ経営者」鈴木氏の路線と決別するための中経といえる。

 鈴木氏は「ネットを制する者がリアルを制する」として、「omni7(オムニセブン)」と称するオムニチャネル戦略を推進してきた。オムニセブン関連で売り上げ1兆円を目指したが、15年度で910億円にとどまり苦戦に陥った。

 16年10月、中期経営計画発表の際に井阪氏は「これまでEC(電子商取引)は、システムの視点でやってきたことが失敗の原因。今後は顧客視点で全面的にやり方を変える」と述べ、いわばオムニセブンを全面的に転換すると宣言したわけだ。

「カリスマ経営者」といわれた鈴木氏は、いまでも社内に信奉者が少なくない。井阪氏が少しでもミスを犯せば大逆襲が始まる。“脱鈴木”路線を結果(数字)の人事で示さねばならない。まさに正念場だ。

●鈴木路線との決別

 セブン&アイは百貨店事業を大幅に縮小し、関西圏から事実上、撤退する。そごう神戸店、そごう西神店、西武高槻店の3店舗を、阪急阪神百貨店を運営するエイチ・ツー・オーリテイリング(H2O)に譲渡することが決まった。

 セブン&アイとH2Oは資本業務提携し、相互に57億円分の株式を持ち合うことになった。セブン&アイはH2Oの発行済み株式の3%、H2Oはセブン&アイ株式の0.1%程度を取得する。

 セブン&アイは06年にミレニアムリテイリング(現そごう・西武)を買収し、百貨店業界の再編を主導した歴史を持つ。これまでに百貨店事業に4000億円以上を注ぎ込んできた。

 しかし、セブン&アイが16年10月6日に発表した17年2月期第2四半期決算で、百貨店事業は18億2300万円の営業赤字となった。前年同期より赤字額が9億5400万円拡大しており、百貨店事業の見直しが急務となっていた。

 関西では滋賀県の西武大津店など小規模店は残るが、3店舗の売却は関西圏での百貨店事業から完全に撤退する布石と受け止められている。

 これに対して首都圏の旗艦店の東京・西武池袋本店(16年2月期の売上高1900億円)や、そごう横浜店はテコ入れして競争力を高める。井阪社長は「地域の1番店と2番店以下の差は拡大する。百貨店市場の縮小は不可避」と認識している。

 16年10月6日付で、そごう・西武の松本隆社長が引責辞任し、グループ内でカルチャー教室を運営するセブンカルチャーネットワークの林拓二社長がそごう・西武の社長に就任した。これが井阪人事の、実質的な第1弾となった。林氏は、そごう・西武取締役神戸店長などを歴任している。

 そして、伊藤順朗氏の常務昇格が第2弾である。中期経営計画を策定した中心メンバーは、井阪氏など執行役員1人を含めて5人。この「改革5人組」の中に創業家出身の伊藤順朗取締役(当時)も入っていた。

 中経ではセブン-イレブンの出店を抑制するが、この判断を評価する向きは多い。最近、新規出店したセブン店舗の日商(1日当たり売り上げ)と新生ファミリーマートのそれとの差が、以前の半分以下に縮小している。明らかにセブンの「売る力」が落ちている。これは無理な出店を重ねた結果である。

 セブン-イレブン・ジャパン社長の古屋氏と井阪氏の考え方に微妙な差が生じているが、セブン&アイが主導して生命線であるコンビニの稼ぐ力を維持していかないと、鈴木会長時代の“負の遺産”を処理するための原資を確保できなくなる。

 改革はすぐに実を結びはしないが、着実に最初の一、二歩を踏み出している。イトーヨーカ堂の店舗削減も40店舗から増える方向だ。また、百貨店の閉店、店舗の売却には地元の説得が不可欠だ。ただ店を閉めればいいというわけではなく、強力な受け皿となるH2Oのような存在が必要になる。

 次の改革ポイントとして、赤字を垂れ流すニッセンホールディングスを核とした通販事業や、生活雑貨店「フランフラン」を展開するバルス、高級衣料品店「バーニーズニューヨーク」を展開するバーニーズジャパンの売却をいつ決断するのか、株式市場は注視している。

 これらは、いずれも鈴木氏が買収した負の遺産だ。採算の悪いファミレス事業をどうするかについても、突っ込んだ議論が待たれる。

 いずれにせよ井阪氏は、“鈴木敏文路線”を全否定して突き進むしかない。人事で井阪色をどこまで出せるかだ。流通業の盛衰を決めるのは、結局は人である。
(文=編集部)